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パラサイト・エヴェレット parasite_Everett  作者: 野生のreruhuさん
本編:第2章 緋色たる烈火と紫水の彷徨へ
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45節 思い

 遅くなったァ!(38分の遅刻)


 ゆずきちゃんのターン!!


「はぁ……」


 病室のベッドに顔を埋めながら小さく嘆息をする。

 その後、無事と言えばいいのか……少なくとも怪我は治っているから無事になるのだろう。

 が、しかし体が治ったからと言って苦痛による精神的疲労は解消していない。

 腕を強く押さえチッと舌打ちをしたのち立ち上がる。今なら誰もいないちょっとばかしコンビニでも行ってアイスでも買ってこよう。

 ガラリと引き戸に手をかけ扉を開ける。


「あっれぇ。何してるんですかねぇ」

「げ」

「げ、とは何ですかげとは。貴方の奴隷であるゆずきちゃんですよぉ。ぱふぱふしていいんですからねぇ。ほおら、がしがし」

「うっわ」


 そして飛び込んできたのはゆずきであった。

 俺の胸に顔を埋め頬を染めながらこちらの表情を伺ってくる。

 だから、見つかりたくなかったんだが……。

 俺が眼が覚めた際、こ奴ら……礼とゆずきは俺の両脇で添い寝をしていたのだ。

 そして、目覚めた途端に誘惑の嵐。特に礼の瞳が完全にキマっていた。


『無事で目が覚めてよかったよ。僕、心配したんだからね。……けど、すぐに女の子を侍らせるのはいただけないなぁ。僕と言う美少女が居ながらも何で増やすの?なんでなんでなんで!』

『ふっ、それは貴女に魅力が無いから決まってるじゃないですかぁ』

『うっさい微乳』

『ふ、ふぅ。大きければいいってもんじゃないんですよぉ』

『うるせぇは!公共の場で痴話げんかしてんじゃねぇッ!!』


 見てると言うか聞いてるこっちが恥ずかしくなる。

 事実、目が覚め時駆け付けた医師や精華さん達の表情は歪んでいた。

 それでなんやかんやありつつ、今日は様子見をしましょうと言う事になり皆が退出していったのだ。


「で?どうして外出を。退院は明日からですよぉ」

「ちょっと買い物に」

「え?それ私たちに頼めばいいじゃないですかぁ」

「いや、暇を潰せなくて」


 基本的に病院内ではWi-Fiなどの通信は禁止されている。曰く、精密機器が誤作動を起こすからとか。

 故に、スマホを使ってゲームを使用にも出来ずテレビを見ようとも深夜アニメは録画されてはいない。

 だから気分転換も満足には出来ないのだ。

 それを説明すれば「確かにぃ」と納得するゆずき。


「ん?そう言えば礼が居ないな」

「あぁ、礼は精華さんのところに行きましたよぉ。なんでも鍛えるぅって」


 鍛える?

 そもそも、寄生体は人間よりも高い身体能力があるから鍛える必要はないんじゃないか?そもそも鍛えれるのか?

 まぁ、ある意味一人に成れると思えば好都合か。

 俺はゆずきにだからコンビニに行かせてくれと頼んだ。彼女は人差し指を自身の唇に沿わせ考えるような表情をしたのち、いいですよと了承したのだ。


「ただし、その胸に秘める言葉を吐露してからですが」

「え?」

「なーんか悩んでる……私の直感がそう言ってるんですよねぇ」

「少なくても、まだ交友関係を築いてもいない相手に話したくはないが」


 礼とは違いゆずきは腹をぶち抜かれると言う被害を受けている。本人の釈明と助けた働きによって目を瞑られている。

 また、ゆずき曰く仮契約をしたのだから襲う必要もないと。


「ほら、逆に交流関係が無いからこそ相談に乗れることもあるんじゃないですかぁ。それに人一人で押し込める悩みには限度がありますから」


 確かに、わからなくもない。只、どちらかと言うと話さないとしつこく食い続けそうだ。

 小さくため息を付き、ゆずきと近くのコンビニに出かける事をメッセージアプリで連絡し、病室から歩き出した。

 病院の自動ドアをくぐって外へ出る。普段なら人通りがある道も中途半端な時間に外出したことによって、辺りを歩く歩行者は視界の端にしか見られなかった。


「で、わざわざ病院内の売店を無視するんですかぁ」

「ん?コンビニは入ってないぞ」

「ほぉん。引っ掛け問題的なのやりますねぇ」


 暑い日光を背に受け、横断歩道を渡る。

 首にかけたタオルで額を拭い、俺はぽつりぽつりと話し始めた。


「みっともないな」

「何がです?」

「そりゃ、男は女を守らなくちゃいけないとかそういう考えは時代遅れだけどさ。けど、俺は礼の役に立てているんだろうか」

「……私と言う女の子とデートしてるのに違う子の事を考えるんですかぁ」


 いつもの調子でからかうゆずき。

 しかし、ご主人様の表情に影が落ちた事に気が付かない程子供では無かった。


「そもそも機械生命体相手に人間が出来る事は限られてます。人間の身であそこまで出来るだけで百点満点です」

「え?けど、守られてる事だけで」

「それは、守護に甘えてれば私も何か言いますけどぉ……。でも、貴方は何かしようと行動してるじゃないですかぁ」

「そんなんじゃない。悪夢を見たくないただそれだけさ」


 遠い過去へ視線を逸らす。

 九年前、家族と旅行で東京に行って当時小学生の俺は都会に憧れていたんだ。

 秋葉原って町でゲームを買ってみたかったし、お台場にある巨大ロボットの像も観てみたかった。けど、その思いは容易く紙のように破り捨てられた。

 瓦礫に潰される人間。パニックで逃げ出す人々に潰される親。

 せめて、家族だけは……もう失いたくないと願ったから。


「確かにご主人様は弱いかもしれませんねぇ。でも、強いだけが……銃を撃つことだけが戦いではないんですよ」

「え?」

「貴方が居るだけで私達の助けになっているんです」

「それは」

「だから」


 ゆずきの手が俺の頬に触れる。その後、見つめ合うように向かされた。

 年齢並みのあどけなさと可憐さが混ざった表情が、でも何故か母親の様な安らぎも覚えて。

 紫色の瞳が伏せられ、桜色の唇がそっと動く。


「自分の事で卑屈にならないでください。私達に、人間じゃない寄生体に帰る場所がある……それだけでも助かっているのですから」

「そっか」


 小さくため息を付き、空を見上げる。

 今まで我慢してきた。精華さんにも礼にも舞にも自分の内を話すことなく胸にしまっていた。

 これ以上迷惑を掛けたくないからとかいっちょ前な言い訳(りゆう)で。

 けど、誰かに心の内を吐露する……弱い所を見せていいんだ。誰も笑う人もいない、バカにする人もからかう人もいないのだから。

 ――あぁ、太陽って結構まぶしいんだな。

 手び挿しをして流れる雲を観る。

 いつの間にかに俺はゆずきと恋人つなぎをしていた。多分、彼女が勝手にしたのだろう。


「おぉい。俺、手汗凄いからやめた方がいいぞ……」

「へぇ……そぉ何ですかぁ。いや、これはご主人様の体液を合法的に――」

「うわ」


 それを聞き、腕をブンブン揺らし振りほどこうとする海斗。しかし、絡まった指はほどける事は無い。

 視界の端にコンビニの看板が見える。とわ言っても恥ずかしいから離れてくれ頼んで、はいそうですって了承するじゃないか。

 透明なドアが俺達を検知し自動で開く。手を繋いだままアイスコーナーにたどり着き、薄いマニュキュアを塗った爪でイチゴ味のアイスを指さした。


「え、奢らないといけないんですか?」

「相談の受け手としては破格だとおもいますけどねぇ。あと、今まで冷たい態度をされてた謝礼ってことでぇ」


 小さくため息を付きながら俺は財布が入ったポーチを開ける。

 手を繋いでいたゆずきの表情はひまわりの様な明るさだった。


「ふふ、ちゃんと来たみたいだね」

「僕を呼んだ訳を話してもらいたいんだけど」


 そのころ礼は石竹民間警備会社に足を運んでいた。

 マスターの負傷に動揺したのは彼女も同じ、今までではダメだと思い実戦経験が多い精華に教えを乞うために別行動を遺憾ではあったが、別行動をしていたのだ。

 ――剣に振られるのではなく振る。

 素の身体能力が高いのだから、武道のような止動ではなく絶えず身軽に舞い踊るような戦い方にするべきではないかと。

 故にどちらかと言えば創作物のような体術が生まれたのだ。

 だが、それは演出として作られたため実戦でゴリ押せるわけではない。その為、精華が仕事のために離れた後も一人、体育館のような広々とした柔道場で繰り返し練習していた。

 その際に声を掛けたのが武器のメンテナンスや作成をする、ドイツ生まれの少女ノヴァラティア。

 店の奥にある工房まで案内し急かされた彼女は、白髪のツインテールを腕で掬いながら椅子に座り。


「単刀直入に言うとね……君のご主人様のために、武器を作ろうと思って。だからね、材料に君がほしいんだ」

「と、言うと?」


 ノヴァは近くの段ボールに無造作に腕を突っ込み何かを取り出した。それは折れたナイフであった、一般的に売られている肉厚なサバイバルナイフ。

 これをクルリと回し切って先をこちらに向け。


「コレ、見覚えあるよね?実は、コレ君のご主人様が持ってたものだよ」

「え?……ほんとうだ」


 ぽいっと投げてよこす。

 それを完璧に礼は受け取り眺めた。


「つまり、ナイフを作りたいって事?」

「そうだね。それにね、ふふ……試してみたい事があるんだ」

「試す?」

「ここに、よくでる銀色の装甲が、あるんだ」


 もう一度彼女は段ボールから何かを取り出す。それは白銀色の金属板だった。

 一般人にはそれが何の材質で出来ているか理解できなかったであろう。しかし、礼にとっては余りにも見慣れている物であった。


「それ、機械生命体の皮膚」

「ふふ、その通り(genau)。これは、機械生命体の成れの果て。某、狩りゲー理論いじくった挙句失敗したもの」

「まぁ、機械生命体の防御力の秘密はマナを使用して強固にしてるだけだからね。マナが無ければ木の板並みだからね」


 そう言い持っていた板をパキっとへし折る。その強度は細腕のノヴァで破壊する事が出来るから貧相なのだろう。


「ふふ、けどね……逆に言えば契約して繋がってる海斗君は、強度を落とさずに使用できるんじゃないかって。そう思うと……ワクワクしない?」


 確かにそれは出来る。

 マスターと私が契約によってパスが出来ている。現に身体能力が上昇している。

 故に興味を示さない兵器の話に耳を貸し、そして礼はすごく乗る気になっていた。


「僕が提供した材料でマスターの武器が作られ身を守る……いいね、凄くいい」

「お、乗る気だね。じゃあ、さっそく君の細胞を提供してほしいかな。ふふ」


 礼とノヴァは微笑みながら握手を交わした。

 こうして双方の思惑が一致し、機械生命体に唯一致命傷を負わせられる武器が作成されるのだった。



 実は最初から礼ちゃん製の武器を持つことは決定していました。

 そうしないと接近戦するメリットが余りないので……。


 ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。

 ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!

 作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします。


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