44節 「「わたくし」」
あー、ちょっと四月中と言うか三月下旬……私の環境が変わるので投稿頻度が遅くなる可能性が高いです。
一週間に一投稿ができなくなるかも
申し訳ない。
「兄……」
白く清潔感のある廊下の中一人の女性がソファに腰かけ座っている。
儚く華奢な少女で、時々手術中のランプが灯った扉の先を見つめるかの様に振り向きそして俯くを何度も繰り返す。
空気清浄機とエアコン故か、据えて澄んだ空気が頬を撫でるごとに舞の心には雪が降り積もっていた。
『少年!?』
乗り込んだ咲は扉を開けて飛び込んだ光景に目を疑った。
つい数分前まで生意気な態度を通っていた少年が今や、担架に固定され服のあちこちから血なまぐささを放出していたからだ。
心電図に人工呼吸器、わずかにはみ出る折れた腕とやけどの跡。とても見ていられる状態ではない。
乗り込む手前で止まった咲の様子を視て察したのだろう。グッと押しのけ倒れたご主人を捕らえた瞬間礼は駆けこんだ。
隣の席に座り、息があるのを確認すると同時に対称にいるもう一人の少女に詰め寄った。
『――っ!マスターを』
『誤解ですよ!私が駆け付けた時にはこうだったんです。一応|契約して無理やり応急手当をしたんですけど……このありさまでぇ』
『誰に……やられたんだ?こんな傷、トラックにひかれた後壁に叩きつけられないと無理だ』
観察しながら鋭く咲は言い放つ。
当然ながら彼女は特殊部隊(SS)所属と言えど警察官である。故に、事故などで怪我をした人間を見る事に慣れていたのだ。
だから、海斗の負った傷が普通では無い事がわかった。
ちらりと、まるで言えと意思表示するように大由里ゆずきの方へ向いた。色々と突っ込みたいことはあるのが、先ずは証人の証言が必要だ。
『あの赤髪の少女にやられたんですよぉ。弓を使われて』
『弓……赤毛の少女。落ちた先に居た奴か』
『ヴェロニカって言ってたやつ……見つけたら僕が鉄槌を下す』
『ヴェロニカね。画像や映像はあるか?あるのだったらこちらでも調べてみるが』
『確か、海斗君の妹が作ったゴーグルにカメラが内蔵されてるみたいっすよ。……さて、そろそろ合流地点すよ』
カチャリと手術中のランプが消える。いつの間にか時間が立っていたのだろう、窓から差し込む光は朱色に染まっていてまぶしい。
ボケ―と地面を眺める中、コツコツと足音が耳に届いた。
少女の前に飛び込んできたのは白衣を着た女性であり、廃墟都市の戦闘時治療をしてくれた橘純玲の姿だった。
茶色の髪を流した女にまるで、すがるように近づいて。
「あには、あにはどうなったんですか」
夕日に影を落とした女性はすっと優しく縋り付いた少女の頭を撫でた。
まるで、泣き出す赤子を胸の前であやすように。
パッチと時間になったからであろう。廊下の電気が二人を照らす。
「手術は無事に完了したで。この調子なら一日後に退院できるんやない?」
「ほんと!」
「ほんまや、手術とゆーてもうちがやった事は礼ちゃんと増えた寄生体ちゃん?が、治すときに変な方向に曲がらない様に手助けしただけや」
「便利やな、機械生命体の細胞っちゅうんわ」とぼやきながら頬む純玲。
ちらりと振り向く。大方、あの二人は少年がおきんまでずーと傍に居続けるのだろう。男女経験のないうちにも想像しやすいわー。
けど、まぁあんなボロボロになった状態で、な。
学者気質としても職業は医者。橘は様々な症状と状態のありとあらゆる患者を診てきた。だからこそ本来だったら即死してもおかしくない怪我であるとわかったからこそ、損傷を食らっても生きれる万能細胞に興味が尽きないのだ。
「で?誰にやられたんや?大方、機械生命体……それも寄生体だちゅうのはわかっとる。傷口に付着してた細胞が独特やったもん」
「それは……」
カチと静かな室内でマウスのクリック音が響き渡る。僅かな息遣い、太陽が完全に堕ち辺りが闇に包まれた中でも窓から漏れ出る光は絶えない。
カーテン越しに誰かが話し合っているのがわかる。
部屋の中に座る全員がパソコンの画面を見つめ終え、正面に座る我らが社長の姿に目を移した。
「これが海斗君のHMDからの映像よ」
ノートパソコンを閉じ、容姿が露わになる。
顔には汗が伝い、絹のように流れるピンク色の髪が所々左右に跳ねている。明らかに疲労困憊であるのだが石竹精華は部下に向かって言い放った。
「観て頂戴……あの赤毛の少女を。明らかに寄生体だわ」
「そーっすね。海斗君のぉー魔視の魔眼でしたっけ?それでも見れたんっすよね。じゃあ、確定っしょ」
「そうだな。物的証拠があるからな。只、問題がある……こいつを見てくれ」
ガタイが良い男……獅子王陸が一つのUSBに入ったデータを転送する。
そこに記載されてあったのは咲がこの会議のためだけに作成した資料データであった。
流石は警察官と言うべきか読みやすく構成された文章には、今まで大人(PMC)たちが知り得ない情報まで記載されていた。
「これは……なるほど。そうだったのか……ロシア連邦の特殊部隊に所属しているから拘束も手出しも不可能と。まいったな」
「それに、法務省の影ありと。何をしようとしてるんだか」
そして咲から渡されたもう一つの映像からはあのスーツの男が映っていた。
そして、車に描かれた独特な五三桐。
「そっちは咲たちSS部隊に裏付け作業をしてもらっているけれど、舞ちゃんのハッキングで本当だってことは確定してるわ」
兄が怪我をして気が気じゃ無かっただろうに、病院に送る車内の中でキッチリと調べてくれた。
政府のセキュリティーを潜り抜けられる凄腕と言うべきか、サイバー部門が低いだけなのか……。
コーヒーにミルクと角砂糖を入れ精華は一口飲む。鈍化した脳細胞を興奮剤で目覚めさせながら会議に集中する。
まだ朝日は遠く、夜は始まったばかりであった。
「ぉかぁさま」
白く白く大地が染まる中、一人幼い少女が座り込んでいる。
雪積る地に可憐な少女……何て乙なモノだろうか。まるで、ルネッサンス時に描かれた壁画の様な幻想的な。
けれど、所々染まった赤色と半壊した建物が美しさとは真逆の空気を作り出していた。
降り積る灰雪が必死に消そうとするが、必死になるほどに血のシミがどんどん広がっていく。
「何をしているのかしら?」
急に少女の背に向かって声が投げかけられる。電子加工したような異声。けれど、女性なのはわかる。
振り向けば、黒いノイズが入った影法師。現代には珍しく弓を持った。
「ぉかぁさまが……ぉとぉさまが、襲われて」
「……?何を言ってるの」
ぽつりとつぶやかれた言葉に影は純粋な疑問を持ってして返答した。
「貴女自身が殺したのに?」
「ぇ……」
ぬちゃりと掌に。恐る恐る視線を下げて。
飛び込んできたのは、生暖かい血で染まった腕だった。左手で持っていた弓も装飾の花弁も等しく染まっていた。
「ひ、ひゃ」
隙間から息が漏れる。
幼い精神では理解できない。理解したくない少女はついに狂い廻い、壊れたラジオのように同じ音を。
「「あは、あはははははははははははははははははははははははははは」」
空へ向け、大地に向け、駆け付けた特殊部隊に向け。産声を上げた。
「……ん。――ぬぁ?」
赤い瞳に飛び込んできた光景は白色だった。雪でもない、雲ではない、人工的な建造物。
視線を動かしてみれば、心電図と点滴だろうか……。着ている衣服も患者衣なっている。
「目が覚めたか?」
低い声が欠けられる。
目線を動かせば、軍服を着こんだ中年の男性。
スカーレッドクイーンの指揮官であり、ヴェロニカの保護者を兼任しているレオニード少将の姿であった。
「申し訳ありません」
「いや、楽にしてくれて構わん。怪我人に姿勢を正せとは言えんよ」
それでも、と思い柔らかなベッドを押し上半身を起き上がらせる。
「わたくしは……どうなりましたの」
「それは――」
ショッピングセンターで上から落ちてきた少年と行動したのを覚えてる。地下の雨水処理場で闘っていたのも。
その後、油断してたらナイフで――そして、そして。
『………………アハハハハハハハハハハハハハフハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!』
ギョッと瞳孔が開く、汗がべったりと背に染み渡る。表情に移さなかったのは理解できなかったゆえか。
「――肋骨もすでに完治済みだ。明日には表に動けるようにはなるだろう」
「そう。です、か……」
保護者に心配されないようにポーカーフェイスを維持しつつ返答する。
「御父様、少し気分転換に夜風に当たってもよろしくて?」
「あぁ、ただ外出はしないでくれ。少し異変が起こってな」
わかりましたわ。そう言い立ち上がる。
早くここから離れたかったのだ。見られたくなかったのだ。
病室の扉を静かに閉め自室に向かって駆けだす。大方、ここは大使館の地下室だろうなら場所ぐらいわかる。
瞬時に裏階段を上がり、自室に飛び込む。
カチャリと鍵を閉めたのちに、扉に背を向け座り込んだ。
「はぁ、はぁ。……うぅ」
熱っぽい息を吐きながら少女は思考に浮かぶ。
あの夢は何だったのか、あの衝動は何だったのか、そもそも私は人間じゃ無いのか。
「ふへ、あはは」
瞳孔を開き狂った瞳。
頭に響く頭痛と快楽に、本能を押さえ。
胸に埋め込まれた赤く綺麗な宝石が、鈍くくすんでゆく。
「どう……したのよ。わたくしっ」
ガクガクと震える体を押さえながら、眠っていた少女は目覚め始めた。
ヴェロニカちゃんヤンデレる予感がする(寄生体は全員ヤンデレ素質ありますけどね!)
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