43節 揺れ動く影
さぁ、一方そのころ礼ちゃんと咲ちゃん視点。
海斗と別れたその後。エレベータが壊れていたため、礼にお姫様抱っこで無理やり一階に降りた小鳥遊咲は、よくわからない少女に見つからない様に反対方向からショッピングモールから避難した。
絶叫マシン以上の空中機動に目を回し息を切らしながらも、膝に手を付かないのは特殊部隊故か。
とわ言っても……。
咲はちらりと右前方にいる少女に目線を向ける。本当に人間そっくりだ、美しい佇まいに言葉を話す知性もある。何も変わらない。
私が寄生体の事を学んび相対した経験で、人の形をした化け物。現代における吸血鬼のようなモノと認識していたが、認識を変えざる負えないな。
人を助ける寄生体か……。
「……何とか抜けられたな」
「これぐらいは楽勝だね」
「……君が人類の敵対する機械生命体であるが、君は私達を助けてくれた。あの夜、銃を向け撃ったことを謝罪しよう。本当に済まなかった」
「ふーん……。それをするのは僕じゃないから。とにかくマスターに言ってよ」
「そうだな。とにかくこの状況を乗り越えよう」
背を預けるにあたる戦友と認識を変え、私達は退却するための手段を探す。
基本的にインフラが整備されている都市部での移動手段では、通常時や緊急時でも自動車での移動が推奨されている。通常時は言わずもがな、緊急時では共通機関の停止による移動ができないからである。
また、大量輸送に好都合な新幹線も線路内に機械生命体が居たら、機械生命体の方が装甲が高いため体当たりした最悪動力部が破損する恐れがある。
そのため機動性と俊敏性に勝、自動車が一番効率が良いのだが。
ここは、お金持ちが集まるエリアなので片側三車線が当たり前、尚且つ戦車も通れる幅はあるはずなのに。
「……だめだな。緊急時には脇に止めろとあれほど教習所で習っただろうに……停止車両が道を塞いでいる。それにエンジンキーが刺さって無いから動かせないな」
正面に伸びる摩天楼には十色の車が乱雑に停車していた。いくつか真横向きで止まっているのもある。
「僕が動かせるけど?」
「いや、ここで体力を使う価値は無いし音を出すデメリットの方がデカい……さてどうするか」
『咲ちゃん。私!精華よ。無事?』
「精華……っ。あぁ!無事だ……って単一通信だったな」
項垂れていた所に親友の暖かな声。自身を心配してくれた精華に対して声を変えそうとするが単一……つまり聞き専であることを思い出しもう一度項垂れる。
『聞いてるって事で話すわね。多分気が付いてると思うけど咲ちゃんの近くにいる文月礼って娘はいろいろあるの。だからこちらからは積極的に迎えに行けないわ。』
「なるほど」
『だから、こちらが指定したポイントまで向かてほしいのよ。ポイントはアルファよ、また低高度高速型がいるから気を付けて』
「了解」
プツリと無線通信が切られる。さて、どうやって脱出地点へ行こうか。
ちらりと自身の装備に目を移す。少年からもらった突撃銃(HK416)と通信用のインカム。後は丸裸……防弾チョッキもヘルメットもない。仲間もほぼない。
それに銃の残弾数は半分切っている。小口径高速(5.56mmNATO)弾で対空攻撃をする余裕もないし威力もない。よって。
「すまないが作戦の指揮を私が取っても構わないだろうか?案がある」
「どうぞ」
「我々が所持する物資は少なく敵は膨大だ。そのため大通りを正面突破して合流地点に行くには困難を極める。そのため道を外れ、大回りになるが細道に行くぞ。ここは九年前までは商店街と市街地だった。都市開発の際、高齢者が立ち退きを拒否し細道には商店街の名残と空き家が沢山ある」
「つまり?」
「空き家と商店街を突っ切る。室内なら頭上による攻撃は防げるし、閉所による遭遇戦において近接攻撃が出来る君がいる」
その大剣は飾りじゃないだろう?
ちらりと彼女が片手で持つ剣に向ける。黒く無骨な大剣で、軽く一メートルあるだろう。
もしこれが初見ならば戦場でコスプレするなと言いたい所だが、唯一機械生命体の装甲を両断出来る武器である。
故に障害物があり、見通しが悪い市街地でも問題ないだろうと判断した。
時間もあまりないし行動に移そうか。隠れていた物陰から細道に近い車に隠れる。……敵は居ないようだ。今のうちに脇道に入ってしまおう。
そう思い先を見ながらこっちにこいとハンドサイン。あ、そうだ……彼女は警察で使われているハンドサインについては知らなかったなと思い出し、振り向くと。礼が明らかに動揺した様子で虚空を見つめていたのだ。
「――っ。マスター?」
「どうした?」
まるで、その先にいる誰かに向けて「大丈夫、そんなはずない」と。願望をつぶやく少女。
今ここで精神変動はまずい。
「おい。とにかく、行くぞ。少年の事を心配するのは良いが……信頼したらどうだ。――って私が言えたものじゃないな」
少なくても仲間に相談せずに突撃する私より、あの少年の方が礼節をわけまえてる。
棚に上げるわけじゃないが、今は生きることを考えなければならない。公開するのは生きていないと出来ないから。
少女の手を繋いで家の間を駆け抜けていく。途中、何度か遭遇戦があったが全て文月礼によって全て両断されていった。
「よし。予想以上に進めたな。これなら五分でポイントまで行けるだろう」
「良かったね」
「あぁ、君のおかげだありが……ん?あれは誰だ」
反射的に頭を下げ身を隠す。私は確かに警官で一般市民を守る事を信条にしている。
が、ちらりと少しだけ身を乗り出し人影が見えた方向へ終点を合わせる。黒いスーツを着込んだ男性だ。煙草をふかし銃撃音が響く中、のんびりと座り込んでいた。死体の隣で。
明らかに一般市民ではない風貌と気配。
咲は職業上、洞察力と視力と聴力がいい。これは単純に車でパトロールをする際に違反者を取り締まる事が出来ないからだ。故に遠めに見ただけでヤバイとわかったのだ。
明らかに警察官ではない。民間警備会社か?それとも傭兵か?ともかく出るべきでは無いと判断した。そしてこの判断は吉と出る。
「ふぅ。……たっく、とっとと捕獲した寄生体を吐きゃあいいのに。スーツが汚れちまったじゃねか……よ」
そう言い男性は近くにあった死体に向け持っていた拳銃を発砲した。
もう流し終えたのか血しぶきが飛ぶこともなく、火薬の炸裂音が余韻として響き渡るだけ。
「つまんな」そう男は呟き加えていた煙草を押し付け鎮火。咲の視界では見えない道からきたのだろう。続々とスーツの仲間が駆け寄ってきた。
「どうだった?取れた?」
「はい。寄生体を強奪いたしました」
「いやぁ、お疲れちゃん。所詮、ロシアの特殊部隊なんてこんなもんか。たっく罠に決まってるのによくやるよ……」
「は!目撃した一般人は全て射殺。任務は完了です」
「な!?」
彼らは何を言った。一般人を殺しただと……。それに罠って、まるで今までの事全て奴らの計画の内だと言うなのか!?
落ち着け憤るな。冷静さを失ったモノから戦場で死んでいく。拳を握りしめ咲は男たちが話す言葉に耳を傾けた
「はぁあ。クリーニングだすか……もちろん国民からの血税で」
「そろそろお時間です。どうぞこちらへ」
「そうか……もう時間だったか。そろそろ警察とPMCを防ぐのも限界か……撤退する」
そうして何処かに車があるのだろうエンジン音。とにかくスマホで録画はしていた。だから、後から照合できるであろう。だから今回は勘弁してやる。
そう恨みがかった視線で先を見つめる。本来は見えないはずの車……だが出発のために切り返しを下のだろう。側面が眼下に現れそこに刻印されていたマークに咲は釘ずけになった。
「――っ。あのマークは、バカな。本物か、なんで法務省が」
「ほーむしょう?それは、何?警察省と何が違うんだい」
「違う。まるっきり違う。猫とトラ並みに」
法務省は日本にある行政機関の一つであり、内閣直轄の組織である。法務省は名の通り法による統制を管轄する組織であり、警察庁は下部組織にあたる。
そのため、逮捕やその他権限については法務省が上である。
例に挙げると独立調査部などが存在し、内閣の審査や国内外におけるスパイ活動なども兼任していると言っていい。
また、刑務所や少年院なども管轄している。
しかし、戦闘部隊など設置されていないはずだが……っ!
だが、合点がいく。警察の行動を妨害出来る組織が居るとすれば内閣と法務省。内閣であれば法務省が動くはずだ。
「本当に……調べてみる必要がありそうだな」
豆粒になっていく車を目で追いながら咲は拳を握りしめた。
何が目的なのか。何故こんな事をしているのか。……とにかく戦闘区域から離脱する事が先か。
物陰から立ち上がり、車が進んだ反対方向に駆けていく。後、もう少しで大通りに出る。ここを駆け抜ければ合流ポイントに到着だ。
「走るぞ!」
「了解」
そうして細道から飛び出る二人。やはりと言うか当然と言うか敵がいないはずが無く、白銀の体を持つ機械生命体のエインへリャルが四体。そして人型に巨大なジェットスカートを取り付けたかのような外見を持つ低高度高速型のセスルームニルが二体。
それが同時にエンカウント。
ちっ、舌打ちをしながら銃を構える。小隊を運用できるほど観察力が良い咲は、礼の戦闘が一対一を前提にしたものを数分で理解していた。
どうする。いや……。
――迷ってる暇があったら撃てっ!
咲はまず近くに飛んでいたセスルームに向け発砲。HK416は主の要請に応えるべくパパパンと子気味良く鉛弾を発射した。
「飛んでるやつは装甲が薄いから撃ち落とせる。地上は頼んだ」
と、わき目を振らずに敵のスカートの接続部に向けトリガーを引き絞る。
低高度高速型は空中に浮いて速度を出すために装甲が薄いのだ。大方、マソを速力に使っているのだろう。
因みにどれくらい脆いのかと言うと、徹甲弾と言えど海斗が持つ9mmパラベラム弾が貫通するほどである。なので、威力が三倍ほど高い小口径弾でも撃ち落とせる。
放たれた弾丸は吸い込まれるようにスカートの接合部に飛んでいき穿った。まるで、ヘリのローターが空中分解するかの如く墜落していった。
一方、礼は苦戦していた。一対一が得意なのに四体相手をしていると言うのもあるが……最大の理由は。
(マナが足りないっ)
機械生命体にとって酸素と同義なマナ。咲は知らないがマソとマナは灯油とガソリン並みに違いがあり、マソがあってもマナが無ければ身体能力も強化できないし最悪死亡してしまう。
そして、マナを補給する際には契約者である海斗の近くに居なければならないのだが、この場には海斗は居ない。
そのため、有効打を与えられずにいたのだ。
何とか敵を両断し一体倒す。しかし、彼女の顔には玉汗が浮かんでいた。誰がどう見ても疲れている。
疲労によって反応が遅れ何とか攻撃を防御しようとするが……。
バコンと派手な音が鳴ったが衝撃は来ない。助けてくれたのであろうエインヘリャルの背に隠れていた人物が浮かび上がった。
「あれぇ?また会いましたねぇ」
太陽を背にし信号機の上で佇む大由里ゆずきの姿であった。
「な、泥棒猫なんでいるの」
「いや、地下通路でもう一回会うっていいましたしぃ。と言うかぁ助けたんですから感謝してほしいんですけどぉ」
と、鞭を器用に使い絡ませて投げたり、瞬間だけ硬化させたりして刺突を行ったりと彼女がひとり来ただけで戦況が優勢に立ったのは誰の目にも明らかであった。
「仲間?」
「断じてっと言いたいところだけど」
流石の暴れ具合に咲は乱入者に視線を向け礼に、お前の同族で味方かと意味の疑問を提示せずにはいなかった。
そして、目線から外れたもう一体は遠くからの銃声によって撃ち落とされたのだ。
プップとクラクションとパッシングをしながら近づく車影。ちょうどぴったし咲の隣に駐車し、がーと窓を開けた藍沢夏は手を差し出しながら。
「へぇいっす。そこのSS第一部隊部隊長の小鳥遊咲さんっすよね。近くのポイントまで乗ってかないっすか?」
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