42節 折れた刃
Q・インカムってよく出るけど何?
A・小型の通信機です。大きなマイクが付いていたりするものもありますが、海斗が渡したのは……わかりやすく言うとAirP〇ds。(まぁ、作者はアンドロイドなのでAi〇Pods使ったことありませんが……)
口ずけをした瞬間、辺りに風が瞬いていく。二人を守るようにマナとマソの混合気が渦巻く。
それは神秘的な光景だった。まるで真冬に現れる細氷のようにキラキラと輝いて美しかった。本来であれば、人間には感知できない微粒子であるが溢れんばかり濃度によって、肉眼とレンズに映っているのだ。故に舞の瞳にも刻み付けられていた。
蛍のように光る粒が次第に二人の体に吸い込まれていく。
「こ、れは」
唇同士が離れ白い糸が千切れるのを眺めながら俺は知らず内に呟いていた
体の動きを蝕んでいた痛みがどんどん取れていく感覚。それと同時に倦怠感と高揚感。そう、例えるなら怠い時にエナジードリンクを飲んだ時のようだった。
ゆずきの膝の上から半身をゆっくり起き上がらせる。
何とか立ち上がろうと右腕を伸ばし柱を支えにしようとするが空をきる。視線を向ければ、俺の右腕は肘から腕がまるで死んでいるかのようにぶら下がっていた。だから、伸ばせなかったわけか……。
今度は左腕と体を擦り付けながらもう一度と力を籠めるが、血が足りないようでふら付き。
「ちょっと!」と前のめりに倒れ地面と数センチ場で止まった。視線だけ見ればゆずきが俺の腹部を支えて点灯するのを防いでくれたみたい。
「ダメですよぉ。そんな直ぐに動こうとしたら……傷は完全に塞がっていないんですからぁ。また今度……濃厚なキスをしましょうねぇ」
「何を、ぐ」
『兄、まだ動いちゃだめだよ』
彼女は俺を柱に寄り掛からせ、背後を振り返った。
鞭を左手に実体化、右腕をカーテンを捲るように動かすとパリンと、俺達とヴェロニカを遮っていた紫水晶の壁が崩壊。相対した。
「……ツ!」
「嫉妬してるのは分かりますけどぉ、自分のものにしたいなら傷つけるのはダメじゃないんですかぁ」
(いや、お前も廃墟都市の時に俺の腹をぶち抜いてたけどな!)
「……えと、そ、そんな目で見ないでくださいぃ。んん、とにかく踊ってあげますよ。安心してください、これでも……家の都合でダンスのエスコートのやり方を教わってますからぁッ!」
やけくそ気味に叫びながら彼女は鞭を振りかぶった。
「くぅ。寄生体もどき相手に私が押し切れない何てぇ!」
戦況は決定打が欠け、互角な状況が続いていた。はたから見れば。
しかし、ゆずきの心情には焦りしかなかったのである。何故ならば、彼女の言う先輩が負傷状態であり時間を掛ければかければかけるほど彼は弱まっているのを感じていたからであった。
そして、海斗も自身がお荷物になっている事を理解して何とか改善案を模索していく。もし彼だけしかいなければ意識を落としていたが、インカムから聞こえる妹の声を蜘蛛の糸し何とか気絶しないで試行していたのだ。
「はぁ、すぅ……なんで、あの時みたいな攻撃をしないんだ」
『確かに、兄たちがゆずき?ちゃんと戦った時には全方位同時攻撃によって苦しめられたけど……今は鞭と蹴り技だけで使うそぶりはない』
「いくら鞭の、範囲が伸びるからと言って、正面戦闘じゃ先制攻撃できるヴェロニカの、方がゆうりだ。……何か、条件が、あるのか?」
そうして海斗は霞む視界を、舞はHMDに付けられたカメラで彼女たちの戦いを見ていた。
確かに二人が話すようにゆずきの攻撃は鞭の攻撃を主体にしており、先ほど使ったかのような宝石を生み出す攻撃は行っていない。
出来ない、のか?いや、それだったら俺を守るために作った壁さえも作れないじゃないか。
「なぁ、あれ……廃墟都市でやってた攻撃はしないのか?」
「あれ?転圧ですかぁ。確かに有効打を与えることはできますが、体液を撒いてその後硬化させると言う手順が必要ですからぁ……当たらないかとぉ。それに、急激に減ったマナのしわ寄せは先輩にも響くのでね。健康状態ならいざ知らず、例えるなら体調不良の状態で献血に行くようなものですねぇ」
「死ぬよりましだ」
『ちょぉお!』
「わっかりましたよぉ。じゃあ、しっかりと歯を食いしばってくださいねぇ!」
そう言いゆずきは踊るように鞭から液体を飛び散らせている。そして、空手の右腕でパチンと鳴らすと……液体が瞬時に硬化。地面からヴェロニカを突き刺そうと針が地面から生えたのだ。
しかし、あからさまな攻撃に対してヴェロニカはステップで回避。体を捻った勢いを加算した矢を放ってくる。それを危なげなく鞭で叩き落とすゆずき。
先ほどと同じ光景が繰り返される。知能が無い、いや本能で危険だとわかっているのか。
このままだとじり貧だ。ゆずきは分からないだろうが俺が魔眼を使って戦闘をこなせるタイムリミットは五分が限界。それ以上は強制的に気絶する。
どうにかしなければ。
「相手を、どうにかして黙らせるしかないな」
『でもどうやって』
「俺自身を囮にする」
『えぇ!?そんな博打を打つなんて兄らしくないよ。頭打ってどっかいかれた?もし失敗したら孤立無援でおしまいだよ』
「かもなぁ……けど、意識が落ちたら本当にやばい。けどやるしか」
『孤立無援……では、ないっすよ?』
二人で話し合っていたところに割り込んできた何処か聞き覚えがあるハスキーボイス。特徴的な『っす』の語尾。
まさか。
『「藍沢さん!!」』
『はいはーい。手が必要みたいっすね』
精華さんの仲間である藍沢夏の声であった。
今まで、双方戦闘によって通話することは叶わなかったがある程度解決し、今つながったのだ。
「今そっちどうなってるんすか!?」
『それは、私が説明するわね』
『「精華さん!」』
『聞いて、今現在私達は対空攻撃を完了し地上にいる機械生命体の殲滅作戦を実施しているわ。その関係で、救出には夏が向かってるわ』
『あいあい。まぁ、これでも突撃部隊っすからね。コンぐらい余裕すっよ。けど、到着予定時刻は四分後っす』
四分……ギリギリ足りない。
『何かやるつもりっすか?』
「えぇ、まぁ。博打ですけど……やる価値はあると思うんです」
『そっすか。じゃあ、後ろ任せろっす。ばすばす!』
頼もしい声を背に受け俺はもう一度正面を見据える。
さて、今までの戦闘に置いて俺は重症を負って生死を彷徨った事はあるが即死をするような負傷はおってはいない。推測だが、致命傷程度なら万能な機械生命体細胞で修復できるのだろうが、死んだ者は治せないと思う……。
……無論、これは希望的観測でありさっきの攻撃で頭から血を噴き出してたとか、偶然即死を免れただけなのではなど指摘は受けるが……ぶっちゃけ今の考えだとそれしか思い浮かばない。
だから、丁度直線状になるタイミングで。
「――爆”ぜ”ろ”!!」
「おふぉ!?」
反射的になのかそれとも知性を取り戻しているのか、一言発し虚空から炎の矢を番える。
俺の瞳が弓に集まるマナを捕らえていた。何か大きいのが来る――。
そうして装填された矢は防諜し火種が舞う。明らかな必殺技。
動けない俺は足手まとい、ゆずきはどちらかと言えば巣穴タイプ。礼の様な攻撃力や身体能力はない、危機的状況だが。
この瞬間を待っていた――ッ!
射手にも反動があるのか、ヴェロニカは半身を仰け反りながら矢を発射。ソニックブームのように火の粉を拡散していきながらゆずきに迫る。
仲間に迫る脅威を確認し、息を吸い込み俺は今までの余力を叩きつけるように叫ぶ。
「ゆずき!――緊急横回避!!」
「ふぇ!?はいぃ!」
と、ゆずきは言われるがままに迎撃体制から回避に移った。
ゴォウとジェット機が通りすぎるがごとく騒音を立てながら彼女の横っ腹を掠れながら奥の方へ、つまりは海斗の方へ飛んでいったのだ。
「――ぁ”ッ!」
「ん……あぁ!」
ヴェロニカは視界の端で捉え声を漏らし、相手の反応で訝しんだゆずきが振り返る。
光が無い赤い瞳孔を揺らし、瞬時に右腕を伸ばし握り潰した。もちろん彼女から矢までの距離は約五十メートルはあるがそんなのは関係ない。
手を閉じると、飛んでいった火矢が拡散。消滅した。
ヴェロニカが本能的に行った行為は、自身の操作権がある魔法をマナを使って止める。只それだけだ。しかし、ポンと簡単に言っているが例えるなら飛んでいくミサイルを素手で止められるのか?
それを、彼女は魔法の力を使って行ったのだ。
無論、無理やり力を加えて止めると言う無茶をしたのだから無傷ともいられない。
「ぁ――ああ!!」
突如、彼女は伸ばした右腕を押さえ苦しそうに身をよじった。もし、この場で海斗とゆずきの視界を共有できる者が居れば腕から出血するようにマナが、機械生命体の生命の源が噴水の如く飛び散っているのがわかっただろう。
「今だ行けェ!」
「――。了解。見ててくださいよぉ先輩。私の華麗なる鞭裁き」
直前に大声を出したためかやや裏返りながらも言葉を紡ぐ。届いたのだろうゆずきが前身し黒い体液を鞭でまき散らす。
もちろん相手もこちらが攻勢に出た事は理解している。が、しかし機械生命体全体に言えることだがマナが無いと身体能力が劇的に下がる。これは寄生体も同じだ。
実際、時速百キロを超える速度をダッシュできる礼もマナが無くなるとか弱い女子だし、防御力も落ちる。そして、攻撃すらできなくなる!
では、どうやって相手のマナ残量がわかるのか。それは瞳と……。
『やっぱり魔力って奴がキーだね。突破力が高いけど持久戦がキツイ。総量を100とすれば一回行動するごとに10~25減るから燃費が悪いね』
『俺は契約してるからなんとなくわかるが、目視でも魔力の減り具合は胸のクリスタルがどれほど濁ったかでわかるな』
『大体ばらつきがあるけど、基本的には距離が近くて立ち止まってる時は4秒ほどで回復するね』
胸と弓のクリスタルは絵の具を混ぜたかの様に濁ってる。ヴェロニカはマソを手に入れるために襲ってきた――つまり、安定供給できる契約主が居ないため瞬時で回復出来ない。
けれど、弓で防ぐぐらいは間に合いそうだがそうはさせない。
パンと乾いた炸裂音。右腕を真っ直ぐに伸ばし拳銃を構える海斗の姿。
血にまみれふらふらになりながらも正確に銃弾を弓に当てる。突然、想定していない力を加えられたヴェロニカは弓から手を離した。
その刹那のスキを見逃さず、ゆずきはまるで踏みつぶすようにハイヒールで地面を踏みつけると同時に、紫水晶が作られ生きているかのように突撃し腹部を穿った。
「が”ァ」
ポーンと軽々しく飛んでいくヴェロニカ。しかし、致命的ダメージは与えておらず精々肋骨が複数折れた程度。だが、これほどのダメージを受けたうえでマナ不足じゃあ追いかける気力もないだろ。
「ゆずき、撤退するぞ」
「はぁい。一歩前進五歩下がる!」
瞬時に駆け寄り自らの肩に俺の腹部を乗せ、鞭を器用に使いメンテナンス通路に移動。そのまま非常用扉を開け去っていく。
閉じていく扉の隙間。腕を伸ばし涙を流す少女の姿が見えた。
「先輩。どこ行けばいいんですかぁ」
そしてその思考を切り替えるように話しかけられる。俺は返答としてポケットに入っていたインカムを彼女の耳に付けてあげる。
『はろはろ。こちら妹です。そのまま真っ直ぐ進んでね』
「……はぁい」
コツコツとハイヒールで走るゆずき。流石は寄生体、運動神経やバランス力が良いのだろう。
ヴェロニカと通ってきた道順を逆再生するかのように戻り、地上に出る最後の扉を開けると……。
「はい。初めましてっす。今回、貴女を保護するために来た藍沢夏っす。よろしくっす!」
ぱっちりとした赤紫色の瞳に、ちょっと赤みが架かったピンク色の髪。
背が高いながらも威圧感を出さず、笑顔を絶えない受付の女性。藍沢夏さんの姿であった。
六角形を潰したかのような装甲兵員輸送車。アメリカ製のストライカーICVの窓を開け元気に話しかけてくる。
「……っす?」
「ぁはは。語尾みたいなものっす。とにかく車に乗り込むっすよ、今なら負傷した一般人とその付添人って感じにごまかせるっす」
「……」
「怪しむのは理解できるっすけど、海斗君を寝させることの方が重要じゃないっすか?」
ちらりと目線をずらせば、瞼を閉じ気を失っている先輩の姿が眼に入った。
既に魔眼の活動限界に達していたのだ。
それに、重症であるしゆずきがやったのは応急手当だ。すぐに病院に入院するべきであるのは明らかであった。
「よろしくお願いしますぅ」
「はいっす。じゃあ、装甲車の後部座席を展開して固定するっす。シートベルトは閉めたすっか?行くっすよ六〇キロをぶっちぎるっすよ」
「はいぃ?……にゅぅ!?」
「かっとびんぐっすわたしぃいい!!」
急に体にのしかかる感性。乗り込みをバックミラーで確認し、サイドブレーキ、パーキングを解除からのアクセルを全開。
発車する際には右ウインカーを出すと教習所で習っただろうに、そんなもんは関係ねぇと。教員涙目ドライビングを披露。
流石はストライカー米軍のお古を会社輸入しそしてさらに改造を施すほどで、既に時速一二〇キロオバー。どうやら、夏は運転時のみ道路標識が視えないらしい。
因みにゆずきは寄生される前お金持ちの家計であり車での通学を行っていたが、こんなジェットコースターに乗った事が無く。なおかつ寄生体特有の動体視力の高さから。
「うぇ、うぷ」
戦闘エリアに出るまで酔って吐きそうになっていた。
――早く着かないかなぁ。彼女も違う意味で倒れそうだった。
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