38節 延焼矢
〇今日のゆずきちゃん
「うーん。やっぱり魔法少女感を出すべきですかねぇ……。戦闘時に衣装は切り替わりますが髪型も切り替えましょうか?……そうですねぇ、普段はショートヘア―にして変身したらサイドポ二ーテールになるってどうですか!?」
そうして、ゆずきちゃんは床屋さんに走っていたのだった。
まぁ、本編に髪型以外関係ないですけどね!
冷えて澄んだ空気が流れている。ざっくばらんに衣服が散らばったフローリングに所々血痕がついた壁、お世辞にもあまり好意的に思えない状況であったがそれでも頬を撫でるその風は心地よかった。
もちろん、冷えた風は業務用エアコンから出てくる風だし澄んでいるのは性能の良い空気清浄機のおかげだろう。
ボロボロになった少年を少女が心配そうに見守る。なかなか乙な場面ではないか。
もし、この場にフランスやらの画家が居たのなら涙腺を全開にしながら写真のように切り取られたと幻視するほど精巧な絵を描くだろう。
そうだな、冒険の始まりとか出会いとか。
けれど、二人の心境はそんな綺麗なものでは無かったのだ。
視線が交差する。あまりにもこの地にふさわしくない出会いであった。
こんな硝煙と血潮飛び交う戦地では、彼女は直ぐに薄汚れてしまうだろうし、その細く華奢な体では巻き込まれたら直ぐに死んでしまうのは明らかであった。
一巡の思考の後、頭を振り気持ちを切り替える。最悪、彼女が死んでもそこまで心は痛まないであろう。問題はどうやって生き残るのか……。
上を見上げれば、銃声と剣撃音が聞こえてくる。どうやらまだ戦闘中らしい。下に降りてきてもらって救援を期待するのは無理だろう。
「……どうやってここに。避難指示を無視してきたのか?」
「別にそんなんじゃないわよ。ただ、やらなくちゃいけないことがあっただけよ」
とにかく、彼女を安全所に避難させるか囮にするかどちらかにしなければない。
が、一つ不満点……と言うか不可解な点が。何をするつもりで残ったのだろうか?少なくても、動画撮影をしてネットで拡散力を得たいと言うチャチナ理由ではないだろう。事実、彼女は口を縫い合わせたカの様に動かそうとしない。
さて、どうしようか。そう思って居ると。
「ねぇ。一つ聞きたいことがあるのだけれど……。民間人は居ないのかしら」
「あぁ。いない。一応、三階に仲間と警察官が合わせて二人居るが」
「警察ね……。そうですわね、一人だけ……一人だけだったら安全な場所に連れていけますわ」
そう切り出された。
確かに、敵がいる真っ只中で味方に合流しようとすれば最悪挟まれるかもしれない。
咲なら大丈夫だろう。銃も渡したしそれに礼もいる。一人だけなら拒否した、それに礼の姿を見せるわけにもいかなかった。
「俺は一般人を避難させるから別ルートで合流しよう。作戦は命を大事にで」
咲からの返信は無い。もとより単一通信なのだから仕方が無いが、それよりも礼だ。彼女が納得してくれるだろうか。
その返答は大声にて返ってきた。
「わかった!けど、無理はしないで」
もう出来ることはやった。
着いてきて、そう背中で語るヴェロニカの後ろを金魚の糞のように付いて行った。
割れたプラスチックで出来た扉を潜り、外に出る。
外は地獄絵図だった。視覚だけでも、車は路上に乗り捨てられ電柱はひしゃしげ信号は地面へと落ちている。聴覚には銃声と悲鳴がここが戦場だと明らかにし、生臭く硝煙の香りが混じった臭いはここが現実だと告げていた。
数が多すぎる……。今まで襲来の規模は内陸では最大にも千を下回っていた。しかし、何所を見渡しても視界の端にちらつくのは敵、敵。
そしてもう一つの問題は都市部である事。基本沿岸から一〇キロまでは空白地帯となっており、そこを防衛するように国防軍や前線基地が展開されていた。
つまり、人口密集地の防衛は警察に任せていたのである。
が、ここで忘れてはならないのは対機械生命体対策部隊……通称SS部隊が軒並み稼働を停止していると言う事である。機械生命体は機動隊が相手に出来るほどやわではない。
つまり、一番近くの国防軍駐屯地に所属する機械化第一師団と機甲旅団、計一六〇〇〇人が到着するまで防衛能力が皆無なのが実情であった
ぷっぉおん!とまだ生きていたのだろう。電柱に備え付けられたスピーカが叫ぶ。
『コード239が発令されました。近くの警官に従って避難してください』
「コード239!?都市部に機械生命体が出現した時の全面避難勧告か」
つまり、それだけ被害が出てるって話だ。
そして、この大道路を突っ切って退却することは不可能なのでは無いだろうか?視線を切れる物もないし、補給もない。監視カメラが落ちているから情報もほぼない。救援がいつ来るかもわからない。
無いが三点拍子揃っていた。
とにかく、近くに倒れていた自動販売機の影に身を寄せ隠れながら顔を出す。
「どうする?ここは籠城すべきなんじゃないのか?」
「その手も考えたのだけれど、戦車型が居れば建物何て簡単に倒壊しますわ。対物火器と中隊規模あれば実行はしたのだけれど」
「……お前は、傭兵なのか?」
「ちょっと違いますわ。けれど、安心してくださいまし。他国の人間だろうと出来る限り守るのは当然ですわ」
力強く覚悟を持った瞳。
怪しい所はある。言動も状況も。けど、この意思の強さに賭けてみようと思ったのだ。
残弾を確認しながら立ち上がり問いただす。
「わかった。で、安全な場所に行くにはどうすればいい?」
「隣接した場所にある公園に向かいましょう。そこには地下に続く階段があるのですわ」
「挟まれたら一巻の終わりだな。……く、行くか」
ダバイダバイと急かされヴェロニカの後ろを追いかける。全身打撲をし、軋む体に鞭を打ちながら、全速で走って行った。
公園は数分もかからずについた。急いで避難したのだろう、付近にはおもちゃと食べかけのお弁当の中身が、モツを切り裂かれた動物のように散乱していた。
その光景を眼前に刻み付けて、或いは踏みしめて前方にあるコンクリートで出来た小屋へ向かっていた。
「ここか……。確かここは国が使用してる雨水貯蔵施設だろ?確か、川が氾濫しそうになったらためておくって奴で」
「合ってるわ」
「けど、鍵がかかってるから」
「こんなこともあろうと鍵は複製しておりましたの」
「複製……?」
そう、彼女は白い指でポケットをまさぐったのち銀色の鍵を取り出した。磁気カードでもない金属で出来た差し込むカギを差し込みカチャリと捻る。
鍵が開いたのがわかると、彼女はロングブーツで扉をガツンと蹴り開け入っていた。
非常用電源が生きているのだろう。中は思ったより暗くは無かった。
『兄、礼ちゃんと咲さんはどうやら逃げれたみたいだよ。今は一般人に紛れて交戦エリアから避難中』
わかった。と小さくつぶやき銃をホルスターに仕舞う。
どうやら無事っちゃ無事なようだ、今は安全エリアと戦闘エリアの中間地点にいるのだろう。
一息つき、四方がコンクリートの灰色塗れな通路を進んでいく。
「お前は居たい誰なんだ?何で複製品だとしても、鍵なんて持ってる」
「ごめんなさいね。いくら倒れていたところを救ってくれた恩人だとしても、言えないことはあるのですわ」
「そうか……」
「私が信用ならないのでしょう?」
そう言い彼女は止まりこちらを振り返る。目を伏せこちらに謝罪するような態度でつぶやく。
「貴女にとって私は二回ほどしかあった事のない人間。そんな人間に命を預けてくれと言うのはおこがましいでしょうから」
そりゃ、ね。
もし、彼女が自分は警察官だとか大使館警備員とか在日米国軍人ならば無条件で信じていただろう。
それに、そんなコスプレみたいな恰好されたらな。明らかに戦闘には不向きだ。
「仕方ありませんわ。私はロシア軍のスカーレットクイーン部隊所属なのよ」
「……は?」
言えないことがあるんじゃなかったのかよ……っ。
明らかに俺は今、息を詰まらせ引きつった表情を見せていることだろう。
精華さんとの会話を思い出す。
『咲が消える前、ロシアの部隊……スカーレットクイーンが寄生体を探しているらしいのよ』
『えぇ、裏取引がある事は確定ね。それを知って咲たちが防ごうとして潰されてらしいのよ。どうやら一般人に被害が出ても見逃すそうよ』
いや、んな!?バカな。可笑しい、発言も格好も。
何故、一般人を救おうとする。見捨てればいいだろうに、他国の人間なんて知ったこちゃあないと。何故、こんなことを俺に話すんだ。
歩きながら彼女は話し続ける
「本来であれば日本の特殊部隊と共にある作戦を行うはずでしたの。けれど、トラブルがあったようで単独での作戦に踏み切りましたの」
『ちょっと待ってそれじゃ色々おかしすぎる!』
「因みに……部隊名は?」
「SS部隊と言いますわ。まぁ、ドイツ第三帝国の親衛隊と同じ名前なのは不服ですが」
……。これは、何か根本的な事が間違っている気がする。
そんな嫌な直観が。
舞が通信を入れてくれたみたいだけどこれは、一刻も早く帰還しなければ。
そう思い五分後、鉄で出来た重厚な扉が現れる。ドアノブではなくバルブが付けられている事から本当についたのだろう。
「ここですわ。ちょっと手伝ってくださいまし」
「あぁ」
そう言い俺たちは手にかけ右に回していく。こんなのホラーゲームでしか見たことないが開け方はあっているのだろう。
キィと黒板を引っ掻いたような不快音と共に扉のロックが外れていき、先の景色が飛び込んでくる。
灰色のコンクリートで覆われた空間だった。天井には所々に照明が点灯し、それを支える太い柱が規則正しく鎮座していた。どこかで見覚えがあるのは、この施設の元になった首都圏外郭放水路と同じ構造だからであろう。昔は特撮のロケ地として選ばれていたため少年だった頃から、脳裏に焼き付いていたのだ。
しかし、画面で見るのと目視するのでは距離感が違う。俺は構造物の大きさに圧倒されながらも中に入った。
「ここは貯水池の最上階。つまり、巨大台風レベル水をためる場所。まぁ、そんな台風何て月一しかきませんから、緊急用の避難所として使えるようにしたらしいですわ」
『確かにホームページを見るとおんなじことが書いてある』
「詳しいんだな」
感心する。自分が住んでる町の避難所を言えと言われても俺は出来ないのに彼女は、日本にそれほど長くないのに知っているなんて。
近くの柱に腰かけ、打撲した場所を応急手当てする。医療キットと言うか、全体的に礼と一緒に行動する事を前提として動いていたため、物資が足りないのだ。本来であれば必要に応じて礼が取り出すが今は居ない。今あるのはポーチの中にあった、サポーターと包帯、消毒液だけだった。
衣服を脱ぎ、肩に出来た擦過傷を消毒していると、一応異性なので距離を取っていたヴェロニカが喋った。
「ねぇ。一つ聞きたい事があるのですが。よろしくて?」
「別に構わないが……」
「――貴方と一緒にいた三つ編みの女性……あれは何ですの」
Q・首都圏外郭放水路ってなんだよ?
A・たまにテレビに出てくる地下神殿。因みに作者が一番印象に残っているのは仮面ライダーの「クロックアップに対応できないお前など、敵ではない」「そうかな?とも、限らないぜ。付き合ってやるよ。十秒間だけな!」ってやつです。
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