27節 公僕との邂逅
やっとだ。やっと24節でやった次回予告まで行けたよぉ。
やっぱり対人戦。人と人との思惑がぶつかるこの瞬間をやりたかったんだよ。
公的正義を掲げ立ちふさがる警察。自分の周りだけを助けようとする海斗。この正否の対比。一方にも正義があり一方に悪があるとは言い切れない。
これから対人関係はもっと複雑に絡み合って行くのでぜひお楽しみに。
俺がやる事。俺がしなければならない事。それは礼が戦闘行為をしやすい場を作ってやることだ。
機械生命体にとって小口径弾は致命的なダメージを与えられるものではないし、接近されたら刃で真っ二つされるのがオチだ。
かと言って撃たないと選択肢は無い。いくら身体能力が高いと言っても数の暴力は健在で、二対一では圧倒的にこちらが不利だ。
正直に言って礼以外にまともに貫通する手札は無く、副案があってもそれは継続戦闘能力を大きく損なうため切りたくはない。
ならこの場合どちらを狙うかが問題だ。
一体は細身で両腕を刃にした白銀の敵、或いは盾を構え身を低くしながらこちらに歩み寄って来る灰色の楯持ち。
引き金を引く脅威は決まっている。
パンっと銃弾が放たれる。螺旋を持って相手を突き破る刃は楯を持ってして防がれた。
シールドバッシュの要領で潰れた弾頭が、防犯灯の光を反射しながら空しく転がり落ちる。
盾を構えていた機械生命体は明らかに、余裕なのだろう今までの慎重っぷりが剥がれたかの様に突撃態勢を取る。
そんな様子を|ヘッド(H)|マウント(M)|ディスプレイ(D)越しに見ながら海斗は冷静に思考を動かしていた。
(ですよねぇ……。けど、コレで良い)
機械生命体は本能のままに行動する。それは万人の知るところであり確定事項だ。
いくら破壊力が優れようと、この攻撃が罠とわかる知性が無ければ牙を捥いでやることが出来る。
そう、盾の攻撃は失敗射撃ではなく、相手を油断させる一石。自身に害する物が無いとわかれば、慢心して一足速く餌にありつく為に疾駆する事は読めていた。
数と連携の有利を捨ててさえ。
そう俺の狙いは単純、盾持ちを礼が担当して両刃持ちは俺が相手をすると言う事だ。
相方が駆けだしたに驚いたのだろう、少し遅れて白銀の敵も動き出した。急いで自分もお零れをもらおうと。けど、そうは下ろさない。
バババンと、炸裂音。三つの弾丸が相手の右肩に一寸狂うこと無く着弾し、両刃持ちは回転しながら半身を地面に叩きつけられた。
(こいつがあの時とおんなじ奴ならば、たかが拳銃弾で体制を崩すんだ。エネルギーが四倍以上高い小口径高速弾なんて食らったら、地面にお寝んねしちゃうもんなァ!)
これが俺が時間稼ぎできる理由である。
相手が仰け反れる攻撃を、舞が指示した場所に打ち込む。
やはり、動物と変わらない。灰色の奴はバックラーで仲間を防ぐことなく突貫するしか能がない!
そうして繰り返し弾丸で足止めをしながら盾持ちが十分近づいてきたところで、息を吸い。
「3カウント、3……2……1……今だ!」
「……ッ。マスター、行きます!」
掛け声と同時に曲げた膝をバネの様に生かし翔けた。
自身の速力と腕力を相承させながら彼女が持つ剣、レーバティンを横なぎに叩きつけた。
キィン!と、鉄板にハンマーを打ち付けるような衝撃音。盾は場外に弾き出されず、剣を受け止め顕現していた。
流石に礼に対しては警戒していたか。
どうやらあのバックラーは特殊な構造になっていて相手の魔力壁を中和する礼の刃さえと通りにくいらしい。かと言って大きな衝撃を与え体制を崩そうとしても近接戦でそんな大振りするわけにもいかないし、先ほどと同様なことをやろうとして距離を離そうとステップしても、相手は絶対に防止するだろう。
『どうする?』
舞に呼びかけられリロードをしながら正面を見据える。
礼は剣舞をするかの如く敵手に連撃を浴びせ、新体操の様に相手の頭上に飛び下に向けて回転切りをするが受け流される。今度は着地の瞬間に踵落としを繰り出すが反抗に出た敵の刃を食らいそうになりキャンセル。側転をしながら元の位置に戻って仕切り直した。
(……さっきの剣舞と回転切り、踵落としで6割の魔力を使ったな。数秒は回復のために避けに専念せざる負えないだろう。あちらは動けない、こっちが動くしかないか)
礼の性能は極端だ。攻撃力が高くて俊敏で突破力があるが、逆に防御力が無くてガス欠になりやすいと欠点がある。
わかりやすくゲームで例えるなら10ヒット以上のコンボを出そうとしてもスタミナ切れでバテるのだ。
そして、ただでさえ低い防御力が魔力枯渇状態になると拳銃弾すら受け止められない紙装甲状態になる。
故に、こんな膠着状態では誰かが助け舟を出すしかない。
「……。礼、合図を出したら――」
声は聞こえていたのだろう、礼が心で戸惑っているがわかる。
両手も視線も出せないってのにどうやって返事するんだろうと思ったが、繋がってるから彼女の大雑把に思っていることは感じられるのか。
「信じろ」
……。俺の発言に折れたのか、肯定の意思が伝わってきた。
ハンドガンに装填されているのはAP弾のはずだ。問題ない。
俺はタップ撃ちをしながら少しずつ前進していった。
白銀の敵が少しずつ近づくようにわざわざ射撃間を開けて、そうしてどんどん弾を撃っていくとカシャンとボルトオープン。弾切れの合図だ。
それを理解した俺は惜しむことなく突撃銃(HK416)を放棄。レッグホルスターからセーフティを解除しながら拳銃(SIGP320C)を抜き、盾持ちに向かって全力疾走を開始した。
ちょうど位置関係が均等になる地点で銃を盾持ちの頭蓋に向けて撃つ。
カコン!とフライパンを落とした様な音が鳴りやや体制を崩しながらも、こちらをギロリ……と視線を向けてくる。
つまり、視界内から礼は逸れた事になる。
「今!」
「うん!」
軽く礼はバックステップ。大振り出来る距離を稼いだのち、勢い良く横に薙ぎ払った。
受け止める体制をとって居なかったのだろう。右後部からの斬撃で大きく吹き飛び、俺とすれ違うように後方へ弾かれて行く。
俺が接近する間にも彼女は両刃持ち相手に、危なげなく先ほどの勢いを利用し反転、剣を切り下げからの切り上げ両腕を切断していた。
悲鳴なのか――と叫ぶ。人間が知覚できるヘルツ帯じゃないのだろう。少なくとも視覚情報で相手が既に死に体だとわかった。
てっ、事は魔力が空なわけだ。つまりあの鉄壁な防御力が無効化されている。
「っ……。う、おぉぉぉぉぉおおお!」
大丈夫だと分かっているが、怖いもんは怖い。雄たけびを上げ少しでも恐怖心を誤魔化しながら、敵に向かって銃を突きつけゼロ距離射撃を実行した。
相手が動かなくなるまで、撃ち続ける。
数発ほど銃弾を浴びせると先ほどの生きは見るほど落ち動かぬ骸となった。
「はぁ」
『敵一体沈黙。もう一体を』
「分かってる!」
再装填をし盾持ちの膝や肘など、体制が整えない様に妨害していく。
盾さえ使えなくさせれば脅威ではない。構えられず壁を飛び跳ね横に回った礼が懐に潜り込み、袈裟斬りをした。
青い液体を放出しながら吹っ飛びコンテナに大きな穴を開けて絶命した。
「……どうだ?」
「うん。マスターやれたみたいだよ」
「舞。伏兵は目視できたか?」
『機械生命体のき文字も映っていないよ。てか、礼ちゃんに聞いた方がいいんじゃない?』
「礼ほかにいるか?」
「……いないっぽい。様子見してたもう一体も、気配のかけらも無いから逃げたんだと思う」
「ふぅ。一息付けるなぁ」
そう言い俺は拳銃を仕舞い地面に座り込んだ。
暑い。ただでさえ湿気で汗が出るってのに、身を守るためとは言え長袖を着てるんだ。滝の様に雫が落ちていく。
腰のポーチから水筒を取り出し口に含む。水は生命の源だと聞くが、隅々まで恵んでいく感覚を通じその通りだと道理せざる負えない。
「礼、のど乾いたか?乾いたならもう一つあるけど」
「僕は大丈夫だよ。それよりマスターの方こそ大丈夫?」
「あぁ、ちょっと疲れたが平気だ。とにかく銃を回収しないとな」
よっこいしょ。重い腰を上げ立ち上がり放棄した銃の元に向かう。
そうしてHK416を拾い上げ、チェンバーを軽く動かす。
「どうやら壊れてるわけじゃなさそうだ」
『流石は軍用の銃。ちょっとはそっと雑に扱ったり、投げたりしても頑丈に出来てるみたいだね』
着いてきていた礼に突撃銃を渡し、辺りを見渡す。
派手に動いたものだ。コンテナの壁には切り裂かれた後に銃跡。そして、礼が吹っ飛ばした盾持ちによってできた大きな穴、向こう側の通路まで貫通していた。一応、機械生命体の戦闘で破損した設備などは国から補助金が出るらしいが、修繕にいくらかかるのだろうか?
「……とにかく精華さんに報告しないとな」
『そうだね!』
俺は胸ポケットに突っ込まれているスマートフォンに手を伸ばす。そうして電話を掛ける。
動作を突如、舞の『まって』の声でキャンセルせざる負えなかった。
ただならぬ、声量にと震えに何かが起こった事は明白。瞬時に拳銃を抜き辺りを警戒する。礼も俺が戦闘態勢に移ったのを理解したのだろう、もう一度剣を展開し俺の楯へとなるべく、移動した。
「何があった?」
『何かが来てる!暗闇でわからないけど12人。六時方向』
後ろ!?っ……戦闘の影響で後方の警戒が緩んだか!
いや待て、それはおかしい。機械生命体が持つ魔力を寄生体である礼は、道具も無しに感知する事が出来るはずだ。初めて戦闘した時もそれに助けられた。
そんな礼が感知できない存在……。
「ッ……!人間か!!礼、魔法でも何でもいいから顔を隠せ!」
「分かった!」
そう言い礼は顔に手をかざす。こちらでは変わっているようには見えないが何か細工をしたのであろう。
寄生体で尚且つ俺と契約している礼は人を襲わなくとも餌を得られる。だから、人間が出す魔素には鈍くなるのか。
くそ、失念していた。もし一人それも一般人だけだったら最悪、殺る覚悟はあったが舞の話を聞く限りキッチリと分隊行動を行っている。
どうか……どうか。精華さん達の仲間……俺たちの事情を知っている奴らであってくれ。
『来たよ兄』
「……」
「マスター」
迫りくる軍靴音。カシャカシャと装備が擦れる物音が俺の耳に届く。
そうして防犯灯に照らされ浮き彫り出た姿は。
「おい。貴様ら何をしている?」
胸に警察(POLICE)と付けこちらに短機関銃(MP7)を向けた、機械生命体対策部隊こと通称SS部隊であった。
おそらく隊長なのだろう。長い髪を三つ編みで後ろに束ねた長身の女性がこちらに呼びかけてくる。
(最悪だ。寄りにもよってあの人に……)
そうあの声、あの髪型、そしてフェイスガード越しから視えるその容貌。最近一番インパクトがあり印象に残った人物。
ショッピングモールで俺の事を職質し、俺がお世話になっている精華さんの友人でもある小鳥遊咲の姿であった。
『どうしてこんなところに公僕が!』
「もう一度問おう。貴様ら何をしている……?所属と階級を言え」
そう話ながらじりじりと前進する咲。その行為に警戒して礼は剣を向けながら立ちふさがった。
コンテナの影で肉眼で見えずらい場所から防犯灯の灯が当たる場所へと。出てきてしまったのだ。
警察部隊にも『貴様ら』と話しかけていることから複数人であることは理解していたのであろう。只現れたのが年端の行かない少女だとは思って居なかったはずである。そんな少女に自然と目が行き、必然的に胸元に埋め込まれている赤黒い宝石に目線が動くのは論を俟たない事であった。
「……っ!?その胸の宝石……基準測定値以上の魔力。貴様、寄生体だな!」
俺を守るためだったのだろう、その行為が相手の戦意を高揚させてしまっていた。このままでは戦闘になる。
どうする。自分が死んだり人を殺す覚悟ぐらいは出来ていた。ただ、警察相手に大立回りする腕も無いし装備もない。そもそも度胸もない。
寄生体。その言葉を聞いた敵の部隊は一斉にトリガーに指を添える。
「貴様はなぜ寄生体と一緒にいる答えろ。黙秘権があると思うな、我々は貴様らを捕縛する義務と権利がある!国家反逆罪で逮捕されたくなければ投降しろ」
「いえ、先輩。話を聞く時間が惜しいです」
銃を構えた中から先頭に躍り出た流れるような黒色長髪の女性。童顔でありながらも緑がかった眼球から放たれる、強く射貫くような視線と拳銃をこちらに向けながら咲に向かって確信を得たかの様に話し出した。
「先日との戦闘。すぐ隣にいるのに襲われていない人間。この物的証拠を得て、彼らが天使の教会の一員であることは間違いありません。即刻捕縛すべきです!」
天使の教会……?なんだそれは。
ちょっと待てと口を挟む暇もなく、引き金に置いた指が力んだのを視界を捕らえた。
「礼!くぅ……!?」
『兄!』
行動できたのが奇跡であった。相手が捕縛のために重要臓器から狙いを離していた事。俺が付けていたHMDにズーム機能が付いていた事。そして敵の分隊員がいきなり銃撃するとは思って居なかった事。様々な要因が重なり、何とか礼を押しながら盾持ちが吹き飛んだ際に出来た穴に退避できたのだ。
銃弾に遅れて銃声が耳に届く。
撃たれて……ない。急激な回避で横っ腹を地面に叩きつけた以外は無事だ。
「!?いくらマニュアルに書いてあるとは言え、早まりすぎだぞ!」
「ですが、テロ組織相手に迅速に対応しなければ市民に被害が出ます!」
「それは理解しているが……。了解。第一分隊は私についてこい!お前もだ、後で報告書は一人で書いてもらうぞ」
「はい。先輩」
どたどたと黒が近づいてくる。自身を犯そうと騒がしく。
『兄逃げようよ!』
「そうだな、うお」
「立ち上がってマスター!僕の手を繋いで」
腕を引っ張られる形で礼が無理やり立ち上がらせてくれる。すぐ動き出せるように俺の体を受け止めながら。
胸に抱き着くような形になってしまったのが些か不本意だが、こんな状態でラッキースケベを喜ぶ暇などなく、彼女に腕を引かれて暗闇に向かって俺達は走り出した。
人生初体験の警察との追いかけっこが始まった。
Q礼ちゃん弱くね?
A一対一性能は高いです。只装甲持ちにはちょっと工夫しないと勝てません。なおかつ礼は剣技を習っているわけではございませんので、ただ振り回しているのが正しいです。そりゃ、無駄の動きも多いし威力は出ないだろ。
次回予告
警察に追いかけられ逃亡する海斗たち。しかし、検討空しく一歩一歩距離を詰められてしまう。
万事急須。覚悟を決めて礼と一緒に正面突破を試み、拳銃を構えるが。
「あっれぇ。困ってるみたいですねぇ。じゃあ、ちょっとだけ助けてあげましょっかぁ?」
キーンと音が消える。ミルク色に染まった視界の中に腕を引かれる。
自身の視界に色が戻る時。
「おっしさしぶりですねぇ。昨日のショッピングモールぶりですかぁ?おにぃさん?」
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