16節 一発の弾丸に込めて
あらすじ少し変わったのに皆さんは気づきましたでしょうか?
2020/8/12
誤字修正を行いました。
耳に届いたのは独特な機械音。
電車などとは違う不規則に揺れる体。
(ここは、何所だろうか)
重い瞼を開け半身を起こす。
「っ。あに。あにぃ!目が覚めた!体大丈夫?」
「ぐえ」
突如視界一杯に妹が映り衝撃。腹部に響く痛覚を押さえようと右腕で抑える。
「あ、ごめん」
どうやら我が妹は目覚めた嬉しさに飛びついたようだ。
ぼんやりとした思考で辺りを見渡す。
輸送車内だろうか。自分がいる荷台には多くの椅子が固定されている。
右を見れば予備の銃と弾薬が、左を見れば衣料品が眼に入る。
視線を落とせば腹部には治療を施した処置に、右腕には点滴の針が刺さっている。
そして、妹の隣には藍沢さんがいる。
「いやぁ、キチンと起きてよかったっすね。取り合えず死んで無ければ問題ないっす」
「……れいは?」
俺は礼と同じ場所にたどり着いていた。
もしあの場で倒れていたのならば礼が近くにいたはず。
「れい……ちゃんはね。発見できなかったっす」
「見つからなかったって……っぅ」
「わー。まだ動いちゃだめっす!腹ぶち抜かれたの忘れたんすか!」
「腹?」
「何かよくわからないもので塞がってるんす。害のない物と言うのは分かるんすが。まるで壊れたものを補ったかの様に」
補った?何がどうなって。
「そうだ。後輩、こういう時こそ酒飲んで冷静にってな?」
ドアが開く。先にいたのは陸、仁、樹の三人であった。
「陸さん」
「ともかく状況は把握した。お前のHMD備え付きカメラで戦闘も見た。粗が多いが……出来た方だろ」
「カメラが壊れてなければ足取りもつかめたんですけどね。気にしても仕方ないですよ」
「仁さん、樹さん……」
まぁ、酒は二十からだけどな。がははは。そう言いながら腰を下ろす三人。
「嬢ちゃんの捜索は誠意を尽くしているが、時間はない。お前が目が覚めたのは戦闘から六分後だ。あまり遠くに行っていないと思いたいが」
『どうでしょうね。れいちゃんの身体能力は自動車と並列するほど高いから』
精華さんの声が備え付きのスピーカーから聞こえる。
どうやら今彼女がこの車を運転しているようだ。手を離せないため返事だけでもと思ったのだろう。
「精華さん……すみません」
『謝罪は後で、とにかくれいちゃんを探さないと』
「けど、人目が付かないように退避する猶予時間はわずかです。残りは十分ほどかと」
そうだ。礼を探さなければならない。
しかし、舞のハッキング能力で一面を調べてもらったが監視カメラにもそのような影は映っては居なかったようだ。
手詰まり。
そんな言葉が出てくる。
『まず、一つ。君は魔力の流れを瞳で捉え、干渉ことが出来るようになったわ。言ってしまえば魔視の魔眼ね。私が視ている視界を投影することが出来るの』
諦め、目を伏せた少年に言い聞かせるように声が届く。
その声はあの夢の少女と同じであった。
俺がその魔視の魔眼を使えれば礼の魔力を追えるのではないか?
そんな馬鹿な。第一あれは幻、本当だとしても異世界の出来事で。
いや、出来る。
昨日だ。確かに俺の瞳は赤く変色し、白い靄のようなものが見えた。
それに、拳銃を無効化するほどの頑強な装甲を持つ機械生命体相手に、市販品のナイフで断ち切れていた。
それに腹部の傷はまるで夢の少年が契約した時と同じように塞がっている。
『戻ってきてね』
もし、異世界の自分と繋がっているならばあの少年と同じことが出来るはずだ。
集中しろ、もっと奥へ、もっと深く、意識を鎮めるんだ。
線だ。自分と繋がる細い糸。
ちょっとした風が吹けば千切れ散ってしまうほど華奢な繋がり。
それを俺自身が掴み、覆うことで頑強なものにしていく。
これが契約……。
糸を辿り自身のスイッチを入れながら礼を探る。
魔法……違う、魔術は物理的距離を無視し大いなる間を往来する。
故に、建物など物理的障害物を無効化し感知する事が出来る!
「なんですの……この気配」
同時刻、ロシアから派遣されてきた少女。ヴェロニカが異変を感じ取っていた。
何故だろう体の震えが止まらない。熱い。火照って仕方がない。
畏怖。違う根底にあるのは歓喜。
やっと宝物を見つけた。そんな嬉しさが胸の内から張り裂けんばかりに湧き上がってくる。
駆け付けたい。その身を捧げたい。
「おい!何やってる。さっきまでの威勢はどうした?」
アァ、ワタシ。
「おい!いい加減にしろ」
「!?」
「何だぁ、戦場で思考停止するのがシベリア産の兵隊かぁ……っ。良いからとっとと矢を番えてぶっ放せこの畑人」
しかし、彼女は本能に飲み込まれることは無かった。
理由としては多々ある。
若人と言えど軍人。冷静沈着になるよう教えられたとか。
……実際には機嫌が悪い咲が怒鳴っていただけなのだが。
それでも、彼女の成り立ちが寄生されたのではなくイレギュラーである。
脳が震えるほどの歓喜の答えを誰も示さない。
「確かめないと……っ。く、邪魔ですわ!」
だが、ここは戦場。駆け付け確かめてみたいと囁く志に蓋押して、弓を放った。
「……この国には何かあります。上に報告しましょう」
瞳を灯す。
ほんのりと赤くなった視界に映るのは、煌めく白。
靄のような曖昧なものではなく水のような流れ。
「あに。目が。両目が赤くなってるよ」
「……見つけたぞ」
「あ、ちょっとどうしたんすか!」
慌てる六名を無視し視線を定める。
糸を辿った際に大雑把な状況と状態は把握した。
もしこの中で魔力を捉えられる生物……言ってしまえば礼やヴェロニカが居れば緋の両瞳に炎を宿しているのが見えていただろう。
だが、そんな流暢なことは考えている暇がない。
本来ならば礼と半径五メートル以内に居なければ使えないのを無理やり発動しているに過ぎない。
偶然、幸運。その他、様々な要因があってできているにすぎずいつ見失ってもおかしくない。
「北北西。1.5キロメートルのビルの屋上」
「え?北北西のビルっすか?えぇと、確かあそこには廃墟都市になる前に建設された大型な複合ショッピングマートがあったハズっす」
「そこに行ってください」
「おい、落ち着け。まずは目を何とかせないかんだろ。それに何の確証があって」
『わかったわ。ここまで来たら渡りに船よ』
「社長!?」
『実際に海斗君の感は当たってた。なら、行ける。そう、感で』
「感て。……わかりましたよ。我々は突入準備をしてきます」
ダメだ。今から向かっても礼が持たない。
共有した視界から礼の状態を感じる。
バイザーの少女を端に追い詰めているが、こちらは既に戦闘不能状態だ。
せめて、此処から攻撃できれば。
「ぐ」
「あぁ!立ち上がっちゃダメっす。点滴の針も強引に抜いちゃ」
うまく力が入らないけど立てる。
「藍沢さん。狙撃用の銃ありますか」
「え、えと」
「機械生命体用狙撃銃ならあるぞ。埃を被ってるが」
そう言い仁は親指で立てかけてある銃を指さした。
バレットM580。
2026年に発表されたアメリカ陸軍向けの体物ライフルである。
要塞型にダメージを与える事を目的とした銃であり、重量23.3キログラム、全長1950ミリの超巨大ライフルである。
多大なダメージを与えられることで開発初期には数多の組織が購入していたが、現在では日を浴びることは無い。
何故なら、重い、デカい、反動ヤバイの三点拍子が付いたものである。
重いデカいは言わずもがな。確かに九年前と比べ人類の身体能力は上がったとデータはあるが、こんなもの持って走り回れる人間がどこに居よう?
そして使用弾薬はブローニングM2マシンガンを超える18.5×98mm弾を使用。
撃つのに支えが二人必要なうえ装填は一発ずつである。
こんな地雷銃ではあるがバイザーの少女に有効打を出せるのはこれしかない。
「まさか、狙撃するんすか!?それで!?反動で吹っ飛びますよ」
『ちょ』
サンフールを起動し車の上に身を乗り出す。
「あーもう!しらないっすよーだ」
そんなこと言いながら藍沢夏は上に持ってくる。
約23キログラムなのに両腕で持てる可憐な女性に口を開け、唖然としながらも身を乗り出す。
「詳細な位置は!」
「スコープ越しでも見えない。物理的には……けど視えた」
「ちょっと意味わかんないんすけど……撃てるってこと?なら支えるっすからブッパなして」
夏さんに支えながら構える。
赤い視界の中敵の姿が浮かぶ。
狙うは魔力の中枢。
殺れなくてもいい。勝利条件は礼の救出なのだから。
干渉し一番影響を与え相手を戦闘不能にできる場所は……。
(礼、避けろよ)
届くように思いを込めて。
相手のクリスタル目掛け銃弾を放った。
ドゴンと空気を壊すような銃声と腕が捥げるような反動を受け、海斗は車から落ちる。
「耳がァァ。ミミガァ。おっと危ないっす」
事はなく。藍沢さんに首根っこを掴まれぶら下がっていた。
『さけろよ』
声が聞こえた。
マスターの声が。
あの後、僕はマスターの元を離れ敵を倒そうと孤軍奮闘していた。
僕が死ねばマスターとの契約は無くなる。
そうすれば巻き込まれることはない。
けど、想いを思念を受け取って。せめてもの夢で。
左に倒れこむように避けた。
相手にはただ限界がきたと思っただけなのだろう。
だから、地面から飛び出した大口径の弾丸に気づかなかった。
バキンと相手のクリスタルにひびが入る。
寄生が完了していないなら致命傷の一撃。
相手は瞳を曇らせながら地面へ投げ出された。
「……マスター」
マスターが近づいてきているのがわかる。
死のうと会えない想っていたのに。
――結局僕も寂しがりやだったんだ。
何とか這いながら向かう。
もう少し行けば扉だ。必死に手足を使って。もっと早く。
「あ、迎えに」
怒られなくちゃ。日常に戻るために。
一緒に居なくちゃ。守るために。
壊れた扉を潜りエレベーターに。
でも、ちょっと眠いや。
瞼が落ちてきて眠ろう。
「迎えに来たぞ」
体が温かい。
ゆっくりと瞼を開ける。
「マスター」
「随分ボロだな。俺もか」
抱きながら頭を撫でられる。
「マスター僕、僕ね。がんばったよ」
「そっか。でも、治ったら怒られような。精華さん……ピンク色の髪の人にも迷惑かけたし」
「うん」
「感動的な再開やってるとこ悪いけどずらかりましょう。来てるみたいだし二人とも負傷してるし」
「っうっわー。ボロボロじゃないっすか!これ全治年単位っすよ。って再生してる……」
「多分だけど、兄が近くにいるからじゃないかな。ほら昨日も」
言い合いをしながらエレベーターで降りていく。
「マスター」
海斗の肩に寄り掛かりながら耳元で礼が囁く。
「俺の事……だよな」
「ありがとう。好き」
そして僕はマスターに正面から抱き着いた。
ここで、後日談を挟んで第1章が終わります。
長かった。去年から始まってるから……うわぁ、私の速度遅すぎ!
後日談では様々な人たちが物語に介入しようと動き出します。
どんなキャラクターが出てくるかお楽しみに。
次回予告
「ふふ。一人に独占はできませんか。あの距離で私のクリスタルにヒビ入れるなんて流石ですね、寄生が完了してなかったら死んでましたよ私。けれど、折角です。出会うなら少しおめかしして行きましょうか。待っててくださいね」
少女は暗がりから立ち上がる。
「変な感覚を捉えたか。こちらでもマソの濃度に変化があった事を捉えた。ヴェロニカお前を新たなる任務に任命する」
赤い少女は立ち上がり敬礼をした。
「うわぁ。なんかすごいボロボロの患者が来た。どうしろと」
廃墟都市にある闇医者がいる病院それがここだ。
次回、時計の針は止まらない。
◇作成中のため、物語の細かいところが予告と変わる可能性があります。