140節
「クソが、マジでどこ製だよコレ!」
セレクターをフルオートからセミオートに戻しながら走る。
当たらない弾なぞ、にぎやかしにしかならない。使用しているのが安物の銃弾だったら、もっとひどい事になっていた。
「ウォードックリーダーから各員に通達。二階まで全力疾走、最低限の交戦に留め止まるな。多少のアクロバットは許す!」
「「「了解」」」
発見されたのなら仕方がない。監視カメラに映ろうとも、死ぬよりはましだ。
「前、足音」
「各員、横に逃れる!非常階段が……ち、崩れてるか。だが、3階には降りられるか!突っ込め」
礼が一番に、脇道に逸れエレベーターを通りすぎトイレ横にある階段へと向かった先には幾らかの遺体が散乱した通路だった。
新築された壁床天井が全て血潮によって塗り替えられており、ざっくばらんに男の死体が捨てられている。
そして、その陰になっているところに
「あ”?」
複数の男が少数の女の上に圧し掛かりよろしくやっている所だった。
服を乱雑に脱がされているのは共通しており、髪を掴まれ口に突っ込まれてる者、胸を使われている者、下腹部に突っ込まれ腰の上下運動に使われている者等、小学生から20代後半までの美しい少女たちが例外なく弄ばれていた。
人質8、敵17。下半身を出してる間抜けは即戦力としてカウントしないがそれでも数は多い。
避けるべき状況、だが両者は既に見合っている。ならばやる事は一つ。
「強硬手段!」
礼は走りながらアサルトライフルを構え瞬時に発砲を開始した。
一応、銃の撃ち方程度は教えられている。もちろん、あくまでかじった程度なので20メートル以上離れればまともに当てる期待値は雀の涙ほどに低下するが彼女はそれを憂いてはいない。
単純に当たる距離まで近づけばいいと思っているし、実際にそれが出来るほどの身体能力があるからだ。
「ふっ」
わずかに酸素を取り込んだのち、バネのようにしなやかさな足で廊下を蹴り進む。もちろん、持っている銃を発砲しながらだ。
礼の……と言うか、寄生体の身体能力は人間より遥かに優れている。それは、姿勢制御にも表れ本来であれば照準が難しい走りながらの姿勢でも、体感がズレないため狙った射撃が可能だ。
パパパン、まず近くに居た男どもに向かって3発。
狙いは全て頭部、大脳を一気に吹っ飛ばし一瞬の内に仕留める!
「ガっ」
「なんだ!」
まずは、戦力になる奴と近い奴を削る。
行為に混じっていなかった……正確には順番待ちをしていたであろう男、一番近くの女性顔横に居た男、同じく一番近く腰を動かしていた男。それらが一瞬で赤い花を咲かせた。
銃声によって快楽から目を覚ましたテロリストたち。
数の上ではまだ劣勢だ。だが、ズボンと共に銃を下ろしちゃぁ戦闘員としては論外だろ!
「てめ」
「やらせるかよ」
瞬時に、壁から身を乗り出し射撃を開始するゆずき。そして、俺は彼女に被らないよう飛び出しながら状態を少し起こし地面と水平に構え発砲する。典型的なモディファイド・プローンだ。
息があった射撃で確実に殺害していく。
「コンタクト!」
数が半数以下になった所でやっと戦闘状態。
礼や俺達に向かって発砲する。礼は瞬時に死体になった男を盾にして前進し、ゆずきはそのまま引っ込み俺は茉莉に引っ張られて退避する。
寝転がった状態で飛び上がるなんざ出来ないから、茉莉はナイスアシストをしたと言える。
あらかた銃声が止んで、銃を構え身をさらせばちょうど礼がナイフで喉元を切断したところだ。彼女の頬を赤く染め髪からは生暖かい血潮が滴り落ちている。
圧倒的な暴力……。災害に対して人間と言う軟弱者は抵抗できないのだ。
「動くんじゃねぇ」
あらかた一掃され残る敵は二人程度。一人は弾丸を腹にこさえのたうち回り、もう一人は遊んでいたのであろう汚れた少女の髪を無理やり引っ張り立たせる。
腰が抜けているのか、フラフラとする女を無理やり抱きこめかみに銃を突きつけた。
「この女がどうなっても良いのか!」
「ひ、やだ」
戦闘開始から約4秒でやっとこさ、遊び道具ではなく人質としての価値を見いだせたか。
捕まった少女は喉奥からか細い悲鳴をだしてかすかに抵抗しようとするが、充血した右目に映る銃におびえている。
ニタニタと有利を取ったと認識したテロリスト。訓練を受けていないと仮定するならば、なるほど少しは頭が回るようだと感嘆してやろう。
もっとも、わきの下から持ち上げ支える手で胸を揉み表情を溶かしているのは論外と言わざる負えない。
そして、もう一つお粗末な点がある……それは。
――、相手が自分の命を顧みるより他者を助けると言う誇りが無かった事だろうか。
ダダン。
頭蓋骨と言う装甲に守られた大脳が大穴を開け、隣接した女を肉片と共に赤く染める。
まるで、糸が切れたかのように膝から崩れ落ち女と共に地面へと転がった。相違点は、瞳に光があるかないか。
もう一方の弾丸は、のたうち回りながらホルスターから銃を取り出そうとした男の眉間に滑り込んでいる。生物としては死んでいるが、細胞は生きているのだろう……時々ピクピクと筋肉を痙攣させながら永遠に現世から離脱した。
「行くぞ!」
脅威を排除し、派手に祭りを開催した事で敵も集まってくるであろう。
早く離脱しよう。倒れた死体から軽く弾倉だけ拝借し、白濁に汚れた少女たちの間を縫って階段をおり――。
「待って」
と、同時に靴が緩みこけそうになる。
声が聞こえた方向に視線を落とせば、少女が手を伸ばし偶然にも俺の靴ひもを掴み引っ張っていた。
茶髪の女性だ。所々に薄い菜の花色のメッシュをしたラビットスタイルツインテ―ルの少女だ。つり目で黄色な瞳がこちらを力強くこちらをにらんでいる。
血の海に沈んだ体を起こし、腕だけを使ってこちらに近づく彼女。
「お願い、連れて行って!」
「は?」
「助けて」
「無理だ。そう言うのは警察官がやるもんだろ」
命乞いを速攻で拒否、責任何て取れはしない。
かわいそうだとか哀れみだとかは持ってはいけない。自分が出来る事を逸脱し、高望みしたところでたかが知れた結果しかない。であれば、諦めてそのリソースを他の所に分配した方がマシだ。
「警察……私は警察学校所属よ。足手まといにはならないわ」
「その恰好でですかぁ?明らかに結構な時間、強姦からの輪姦されたとお見受けしますけどぉ。そもそも立てるんですかねぇ」
キッと睨みつける彼女。赤い血潮と白濁液にまみれ、右目を弄ばれた彼女には迫力はない。
「……茉莉」
「ぎっくり腰矯正キック」
「グっ」
「あらぁ、なんて乱雑治療」
無理やり立たせ、茉莉に蹴りを叩きこむ。背負われている舞ですら小言を挟むほどの酷い治療法だ。
だが、一番効果的なのはこれしかない。
「っつぅ」
「悪く思うな。8人背負えるほどの余裕はない、人殺しも出来ない温室育ちのお嬢様には構ってられねぇんだ。自分の身は自分で守れよ、そこら辺に武器は転がってんだから……行くぞ」
「ちょっと待って、もう!みんな今はお姉ちゃんに付いてきて……小学生だっているのに、アイツ」