137節 浮上
いや、母親が入院してて忙しかったんや……。
決して、決して、ゲームの全国大会を見てて忘れてたわけじゃないんよ……。
しかし、なろうの仕様変更で作成途中の設定資料集が消えたりしたけど……予約投稿で10分毎に指定できるようになったの便利やな……。
「……ぅ」
水面から意識がゆっくりと浮上し、身体の制御を取り戻していく。
体の隅々を流れる血液がだんだん温まり、動け動けと促す。
ゆっくりと、瞼を開ける。右半分が赤い視界の中、柔らかな光が降り注いでいる事だけが分かった。
「よかった……目が覚めたんだね」
「茉莉、か。どうなって」
「おっと、動いちゃだめだ。まだ治療の途中だよ……頭部に骨組みとして使われているパイプが落ちて来たんだ。幸か不幸か頭部から出血してたから、血が頭蓋骨と大脳に溜まって脳圧死何てことにはならなかったようだけどそれなりの血が失われたはずだ」
「短文に纏めろぉ……」
「傷、治した、まだ動くな」
つま先から指先、身体の中心点から遠い場所からゆっくりと力を込めていく。すぅはぁ、酸素と言う着火剤を入れゆっくりと筋肉に栄養を回して感覚を確かめる。
指が欠損とかそう言った事は無い。全身の感覚を取り戻すほどに、神経が痛みを訴えてくるが些細な事だ。
右の視界が赤く染まっているのは、眼球がつぶれたのではなく血液が流れ込んだ影響だろう。
無事な左眼だけを動かし、覗き込む茉莉の顔から視界をずらした。
当たり一面には瓦礫と滑り台を構成していた鋼材で散らかっている。空をさらけ出す穴からは水が滴り落ち、地面を瑞々しく濡らしていた。あの浮遊感……どうやら下の階層まで落っこちてしまったのは確実のようだ。
聞こえる音はうめき声や助けようとする良くある音。どうやら、魔法がバレる事を嫌って大き目の瓦礫の影に隠れていたらしく当事者の姿は伺えない。
腕を上げ、時計を確認するが気絶していたのは数分。問題は無い。
ゆっくりと膝枕から頭を上げる。立ち上がり、滴り落ちる水で血を洗い落とし視界を確立させた。
「礼とゆずき、舞は」
「一緒にあっちにね。君の妹は礼とゆずきが庇ったから五体満足さ。……すまない、私の身体能力が低いばかりに」
「いや、いい。生きてりゃいいさ」
「そ、か。なら、名誉挽回で頑張らなくっちゃね。私の魔法は見ての通り回復だ……珍しいヒーラーとしてサポートしよう。と、言っても直せるからって無茶はしないでくれたまえ」
あぁ、返事をしながら立ち上がる。
下層に落ちたと言うのであれば問題は無い。プールの下にはレジャー施設があるはずだ……水圧で壊れようとも出る事にはさして問題は無いだろう。
それに、ここに居る事の方が問題だ。いくら速度重視の軽量であるリニアと言えど時速約700キロで突っ込んできた。地震が多く、建築基準法が厳しい中作られた建物と言えど、崩落の危険性はある。
「あとは、敵が来る可能性か」
「うん。だろうね、ここは一般区画だからまだだけど警備区画は既にドンパチやってるのが聞こえるよ。早めに動いた方がよさそうだ」
「rhfってな」
「逃げる、隠れる、戦うね。確かアメリカの銃で襲われた際に行う事……だったか」
今は丸腰だ。正確に言うのであれば礼やゆずきや茉莉は丸腰状態で無双でき、俺は不可能であるが礼が仕舞っているいる武器を取り出し戦闘は可能。
だが、それを周りに人が居る状況化で行えないと言うだけだ。
他人は他人。まずは、自分の事を優先にだ。
見せびらかしたらSNSでアップされるか、泣きついてすがられるに決まっている。
力を持ってるなら助けるのが普通だと、常識だと。馬鹿馬鹿しい、常識や普通などと言葉は己が願望であると理解してる者がいない。なのに、勝手に裏切られたと騒ぎ建てる……ボランティアじゃねぇんだぞ。
それに元々大勢を助ける力量は無いしな。
「兄!」
「マスター、大丈夫?」
「あぁ」
「先輩、荷物なら回収しておきましたよぉ」
でかした。
やや時間が経ったとはいえ濡れたままの状態で気持ち悪いが羽織る。素肌よりはずっといい、特に靴は重要だ。
「逃げるぞ」
「なら、舞ちゃんは私が背負っていきますよぉ」
ゆずきが妹を背負ったのを確認して走り去っていく。
肉塊と化した物に跪いて泣く女性や、痛みで悶える男性の間を抜けて廊下に出る。
ショーケースは割れ当たりに散乱し、鋭くとがったガラス片が撒菱のように散らかっている。
靴底が厚いからと言ってあまり踏むべきではないだろう。
「ねぇ、ちょっとパクっとかない?」
「何を言ってるんだTS科学者は」
「電源落ちてないからカメラ稼働中だよ?わざわざ暴れるつもりなの」
おっとと、口に手を当て控えめに笑う茉莉。大方、緊張をほぐそうとしているのだろう。
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