134節 メイドさん
母親が入院したり、動画の再生数が上がったりと色々忙しくてなぁ……量が少ないのじゃ、すまぬ。
「と、言う訳で自らの欲望と快楽を満たしたわけなんだけど、私が居る理由はもう一つあってね」
「もう一つ?」
背伸びしていた足を正し、「おいでおいで」手を振る。
ペタペタ素足でフローリングを歩く音がかすかに耳に届く。使っていない洋室の扉が開かれ照明によって明かされた姿は少女であった。
黒いセミロングに濁った茶色の瞳。やや血色は悪そうながらも膨らんだ唇につり目と、表情が変わらぬその姿に、女性らしさはありながらもどちらかと言えば作り物めいた人形だと思えてくる。
手足は黒色の肘上まで覆う手袋と膝上まで長い靴下に包まれている。
ブラウスの上にコルセットとゴシック調の衣類に身を包んだ少女であった。
「ビスクドール?」
「お。舞ちゃんは女性だからか詳しいね……そう、二度焼きさ」
「二度焼き?なーに言っとんじゃい。焼き土下座でもさせてたん?」
「例えば、CDとか複製する時に焼くって言わない?語源は青写真からなんだけど……うーん、その反応だとわかってなさそうだね。もうちょっと説明しよう」
まず、彼女が目覚めたのは俺達が学校に行き時間を過ごした1時間目……午前9時半頃だ。
まるで機械がスリープモードからアクティブモードに切り替わるように、光が無い瞳が瞼から現れた。
「情報とかは無いよ。そもそも、起きた時点で彼女は人として壊れている。機械にするには人間って弱いからね……」
食事も出来ない、認識もしない、自分すらわからない。と言う三点拍子、困った茉莉はパソコンの電源を入れ尾てい骨部分に取り付けられていた端子に接続した。
機械生命体を混ぜてようが本元は寄生体。侵食した物に適応し増殖する特性を生かし脳に取り付けてあるであろう制御装置の書き換えをしたのだ。
「まぁ、わざと記憶容量が少なくされていたから……結局頭割って機械入れて脳を記録溶媒にしたんだけど」
「頭を割った!?」
「えぇ、じょーだんですよねぇ?」
「ホントホント!大丈夫、寄生体って頑丈だから再生に使うマナ補充しながらだったら頭割って機械埋め込むぐらい造作もないよ。と言うか、私そう言う専門家だし……ただ趣味じゃないかな人形遊びって」
そう言えば茉莉……当時はタナトスだったか。彼はずっとマリオネットドールと言う己が考え柔軟な思考で実行する天使を作ろうとしていた。
それの完成系が翡翠であり、それ以外を開発費回収と評して売りに出していた訳か。
「と、言う訳で色々改造を行った後。納入兼これからお世話になる事を伝えに来た妖精って感じかな」
「確かに妖精だな」
いたずら好きとも可愛らしいと言う意味でも確かにあっているが……。もと、TSマッドサイエンティストので今もなお全裸でくっちゃべってると言うのには触れないで置けばいいか。
「なんだい御子。じろじろ見て、私はこれでもFカップ。彼女はBカップだよ。え、Fなのに小さく見えるって……それは純粋に身長が小さいからその分小ぶりなだけ」
いや、胸の大きさとか聞いてないが……。
「一つ聞きたい事がある。彼女、四肢が無かったはずじゃないのか?」
「あぁ、それに関しては彼女自身が作ったものだよ。生成過程は武器に近い……義手と違って壊れる心配はないし応用も効く。ただ、逆に言ってしまうと武器を作るリソースを全てそちらに割り振っている事になるから、戦闘行為は不可能。文字通りハウスキーパーさ」
「名前は?」
「無い。正確にはあるんだろうけど、型番だろうね。肩とかに付いてるタトゥーは私が管理しやすくするために付けた識別コードだから違うよ」
「僕が思うに、識別コードはわかるとして……背中から腰まであるタトゥーは貴女の趣味でしょ」
「そっちはそう……。で、彼女の名前はどうするかな……君が決めていいよ」
「俺が?」
「そう、利用者だからね。因みに、後で破損部位や保護のために耳としっぽを取り付ける予定だから犬みたく気軽で」
人の名前をそんな気軽に決めていいものなのか?
昨今、きらきらネームとか人に付けるにふさわしくない重荷を付ける親が問題になっている。
生まれてすぐ本人にはどうしようもできないハンデキャップ。彼女が一般社会に溶け込めるかどうかは定かではないがきちんと決めるべきであろう。
うーむ、頭をひねり俺は考える。
態々茉莉は「犬のように」と言う言動をしていたから、本当に犬耳としっぽを取り付けるであろう。少ない関りであるが茉莉が行うのは容易に想像可能。
「……じゃあ、ルプスで」
「ふーん、狼ね。了解、設定しておくさ」
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