131節 舞台裏
何で1月5日が休みじゃないんですかねぇ?何でなんでしょうねェ?
ふぅ、ため息を付きながら糸を解除し緊張をほぐすように詰まっていた二酸化炭素を吐き出した。
実践は、慣れない。適性があるからと言い半学生を戦闘員に仕立て上げるとか一世紀前かな……。
疲労によってナイーブになった思考を振り払うように首をねじり、一華に焦点を合わせる。
ヒールブレードを抜くために、バレー選手のように足を上げる彼女。誰も居ないからいいけれど、スカートの中が丸見えになってしまっている。
いや、そんな事よりも。
「何をやっているんです。逃げますよ!」
「ふぇ?」
「ふぇではありません!相手に感知されたのですよ、増援が来るかも」
「あーそれは、もう無理かも」
「はぁ?」
「だって、もう……お代わり来たみたいだから」
こっこっ、ほぼ役目を終えた塩化ビニールで出来た床を靴で鳴らしながら偶にアクセントで砂利っとガラスを叩く。
目を合わせる。考えている事は同じのようだ。
一華が指を3つ立てる。こういう時には、彼女に任せた方が良い。私は、折られていくそれを見ながら地面に転がっていた物を掴みとり。
「今!」
陸上のクラウチングスタートと似た構えを取った牡丹は、足の脚力を生かし爆発的な加速力を持って飛び出した。
クラウチングスタートを選択した理由は、単純に魔法少女だから脚力を強化できると言う点もある。しかし、もう一つの理由は姿勢が低くなることでよる表面積の低下だ。人間の視界は広いようで狭く、自分が見たいものだけにしか焦点が合わない性質を持っている。つまり……。
「っ!?」
呑気に歩いてきた襲撃者にとって意識外からの攻撃となる。
敵が持つ獲物はチェーンソウ。どんな装甲でも削り取るほどの威力を持つ、対機械生命体兵器だ。しかし、エンジンが回っていればと言う話。
スターターロープを引っ張る暇などない。
飛び出した一華は、足を延ばし回転しながら両刃刀を切りつける。足に取り付けられたスケートブレードの重さ分遠心力が加速する。
対して、敵が出来たのはチェーンソウを前に出して防御する事だけだった。
「はっ!」
「っぐ」
ガン!鈍い音が響き渡り襲撃者が吹っ飛ばされる。
視界が広がったことにより双方が相手を認識する。
純白な鎧を着こんだ金髪蒼眼の敵は、目の前に居る少女が公僕である事に驚き。魔法少女は、自身の攻撃を受け止められた事に驚いた。
「このっ」
急いで、ロープを引いてマナを流し武器を起動する。
これでお互いマナを消費し、仕切り直し。いや、一華の方が移動と攻撃の二工程なので消費が多いか。
このまま、戦闘を行えばガス欠になるのは魔法少女の方。羽のようなスカートをたなびかせながら跳躍しチェーンソウを振りかぶる。
無数の刃が少女の柔肌を削り取る……訳もなく。まるで、猫じゃらしにじゃれるように狂刃は空を切った。
「な」
理由は単純である。後ろから霜が糸を巻き付け一華の事を引っ張ったのだ。
そのまま、ドローンが出した入口に飛び込んでいくのを見届けながら少女はマナの供給をやめた。
ギュンギュンと唸っていたチェーンソウが主の意思をくみ取り沈黙する。ため息を付きながら、リキットタイプの電子タバコを口に加え肺いっぱいに吸い込んだ。
甘いリンゴフレーバーが舌を焼き吸い口を離す。わずかな口紅が付いたそれを、放り捨てながら通信機の電源を入れるのであった。
「ねぇ、いくら私が女好きだからと言っても魔法少女が送られてくるなんて聞いてないけど?」
『ごっめんね。姉さん、どうやら偶然っぽくてさ。まぁ、元々警察に見つかるようにして廃棄する予定だったし許してちょ!』
「はぁ……で、まだなの?そろそろ表で暴れたいんだけど」
『ダメダメ、取引先にもメンツと言うのがあるんで。魔法少女の敵役をしっかりと作ってからサ!今、紛争地域に魔法少女の作りかた流してるからまってよー』
「わかってるわよ……。CIAも来るんでしょ、舞台をきちっと用意するわ。それはともかく疲れたから遊んでいいかしら」
『TS同士が遊ぶとか只のBLやん!無りポ。じゃ、がんばれー』
ぴっ、通信機が乱雑に切られた。
チェーンソウをギターケースに仕舞い、彼女は去っていくのであった。
「はぁーないす、援護。助かったよー」
「ふぅ、出入口が敵で塞がっていたのでドローンが来たであろう場所に飛び込んでしまいましたが……ここは地下でしょうか」
私達がたどりついた先は、地下空間であった。もっとも、人の気配は一つもなく空調システムが動くファン音しか聞こえない。
追撃はこないし、厚い鉄板で製作されているのか通信電波も届かない。
携帯電話をポケットにしまった私は、右往左往する一華を何とか窘めながら一つの部屋にたどりついたのだ。
「ここは、なんでしょう……鍵が開いてますが。私室でしょうか?」
「霜ちゃん。これ、電源付きっぱなしだよ。パスワードもしないなんて不用心だなぁ」
白を基調とした部屋にベットと棚、ソファーがある。撤収でもしていたのだろうか、既に本や資料などは無かった。
だが、L字デスクの上にぽつんとパソコンが光を放つ。
どうやらこれだけ回収し忘れたようだ。
「これ、見れるんじゃない?よしさっそく、ちょちょちょちょ」
「何か?」
「え?これって見る流れじゃ」
「そんなの、SSD引っこ抜いて解析に回した方が早いじゃないですか」
「ロマンない」
「ゲームではないんですよ。何処か正規の入り口があるはず、地下だとすれば何時敵が空調システムを止めたりガスを注入したりと色々危険がありますから。とっとと出ましょう」
はーい。やる気のない声を聴きながら私はSSDや外付けHDDを仕舞い部屋から出るのであった。
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