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パラサイト・エヴェレット parasite_Everett  作者: 野生のreruhuさん
本編:第4章 不毛に響く白鳥の歌
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128節 巡り合わせ

 時刻は8時を過ぎた。南国風でありパンケーキが売りなこのお店は、午前講義のない大学生に人気だ。或いは、持ち帰って学校内で食べるつもりか。

 木製のカウンターに観葉植物と、明らかに女性を意識している内装もあったが……。

 こんな所でばったり出会うとは。


 目の前にいる2人組の少女。両方とも見覚えのある顔だ……一人は道に迷っていた所を案内し、一人はゆずきの友人で。また、魔法少女として戦ってる所を援護したこともある……ようは顔見知りと言うわけだ。

 魔法少女部隊ハナズオウ。保安庁が設立した対機械生命体対策組織は、昨今世の中を賑やかせ注目の的だ。

 ニチアサのようなものが実際に出た好機の目線、所属している少女たちの美しい容姿に注目する飢えた目線……様々な種類があるが注目されているのは一目見るまでもない。


 大きな宝石が付いた髪飾りに注目する白百合の少女(まり)

魔法少女は寄生体と非なる存在であるが同じくマナを動力源としている。つまり、マナの動きを何となく感じ取ることが出来るだろう。

 半敵対関係の人間に気が付き、相手はこちらを知らない状態になっている。資金目的で改造され性欲に溺れようとも、目の前に驚異が居れば流石に起きる。

 少女ではない、まだ科学者であった頃の知的な光を瞳に灯し海斗を前に半歩さがる。


 喋れ……と言う事だろうか?それとも身を躱せと言う事か?

 どちらを選択するにしても対話をしなければ。

 もっともこちらの緊張感を無視して話しかけてくるものが居るのだが。


「元気?元気だった?元気そうだね!前は助かったよ」

「誰かな君は?勢いすごいんだけど」


 ドンドンドン!疑問形から自ら結論を導き自己納得しながら来る少女に、待て待てと押される御子様。そんな様子を見た茉莉は欠かさず主導権を握ろうと口を開く。


「はぇ、別嬪さん。私の名前は牡丹一華……正義の味方だよ」

「は?」

「ぁあ”あ”あ”。すみませんこの娘こう言う子で」

「……俺、この絡み2回しか見てないけど何となくどんな感じなのかわかったわ」


 元気、元気、元気!前向きさを前面に出しまるで太陽のように明るい。寝起きには鬱陶しいほどだ。

 こう言うものは俺は苦手だ。こちらの事を考えず土足で踏み込んでくる。霜は、ラインを超えた少女を無理やり引っ張り戻す役目なのだろう。

 だが、こんな所で押し問答や漫才をしていても客の迷惑になる。見た所、双方食べ終わっているようだ。

 親指で外を指し、一同外出を促した。


「なるほど、私達が合った案件に関して報告したのに朝食を取っていたと言う事ですね?」

「えぇ、そうです」

「見た所、そちらの二人は?同僚なのでしょうか?」


 駅とショッピングモールを繋ぐ人道橋。2階と2階を繋ぐ道路を跨ぐ道路……車が二台通れそうな空間には、緑の装飾であるコキヤが植えられその間には石で作られた長椅子がある。

 そこに、二人を座らせ俺らは立つ。そんな風にしながら話をした。

 内容は単純に茉莉のバックボーン。同僚、医療担当兼雑用係であり精華が同年代だから一緒に食事をさせたと言う事になった。戸鞠に関しては単純に保護者だと。


「しかし……」

「なんです」

「いえ、貴方はそんな人ではないと言う印象を持っていたのですが」

「そんな?どういう事」

「頬にタトゥーをした女性と一緒に居るような人ではない……と、思ってました」


 ……。

 なるほど?そう言う事か。

 反射的に、頬を抑えようとする茉莉の右手を握って止める。絡め合うようにしっかりと握ったのを確認し話半分に思考をずらす。

 基本的には、マナを使った偽装は同じくマナを見れない者に対して絶対的に解かれることは無い。これは電子機器を通したとしても覆らない事実。だが、視えている。俺でも魔眼を使わなければ見破れないものを。

 まずい、もし()えているとしたらコアが露出し即敵対関係待ったなしだ。それとも、寄生体になりたてで突貫工事でやった茉莉だけなのか?


「まぁ、本人を前にして言いたくはないが……近寄りがたい印象はあるけどきっちりやることはやってくれる。変態だが」

「失敬な。私のような美しく完成された容姿と体を持つ女性を見て、白く純粋なキャンバスに絵を描いて欲求を満たそうとは思わないのかい!?」

「ぅーん?と、言う訳で。海外出身の方だから文化が違うと思ってくれ」

「はぁ……?」

「ほぇ……」


 君は綺麗な壁が有ったら落書きしたくないのかい!?で黙らせた茉莉。

 確かに、機械生命体襲来から世界各国の治安は急速に悪化したが日本では廃墟都市周辺を除き高水準を保っている。

 これは、戦後から続けられてきた武装解除国家としての教示とそれを守る日本人特有の勤勉さからかもしれない。で、あるが故に外国人観光客の推移はそこまで低下していない。人間が3割物理的に吹っ飛んだことを加味してもこれは胸を張れることである。

 だからタトゥーを掘った人を都心部では見るように比較的なったのだが、忌避感と言うのは拭えないのだろう。

 現在進行形で引いてるのは忌避と言うより「まじかぁ……」と言う方が多そうだが。


「胸の宝石もきれいだし、何処で買ったの?ネックレス?白縹色(白多めの青)若紫色(白多めの紫)のコントラストがこう、何て言うかな」

「ぅっ、うーん。故郷のイギリスかな?今はどうだろ、あるかな」


 ピンク色の瞳を揺らしながら答える茉莉。声を震わせず動揺を捉えられないようにしているが、顎を伝わり地面を潤わせる汗の量が明らかに増えている。


「マスター、あの淫乱科学者やばいね。見えてるのは彼女だけで私達は見えてないようだけど」

「ですねぇ。私の服装とかもろ上の部分出てますし」


 コツコツと姿勢を崩すように膝を曲げ耳元に唇を近づける礼とゆずき。

 双方とも面倒になって来たのか、或いは見られて戸惑っているのか……やや半身になりながら胸の上に手を置いた。

 ゆずきが着用しているのはノースリーブだ。鎖骨から上にかけて布が無く、平行四辺形のコア一角が露出してる。一方、茉莉はVネック……ようは襟が深くギリギリ胸の谷間が見えるか見えないかを攻めた服装だった。障害物である上着もほぼ被せただけのようなものだし、隠せているとはいいがたい。


「けど、色々探られるのは不快だからね。本人にその気は無くとも無理やり腰を折りに行こう」

「きっちと考えたいこともできましたしぃ、りょーかいです……。あ!そう言えば私達、2日前の機械生命体に襲われた件で病院に行くように言われてたんだった!」


 会話を裂くように声を上げ、割り込むゆずきに一華は少し目を細めたが用事があるのであれば仕方がないと引き返す。


「そっか、ごめんね!引き留めちゃって」

「警備会社員には定期的な診断が義務付けられていますし、致し方が無いですね。ゆずきさん、お時間が有ったらまた」

(はぁ)ぃい」


 離れていく、二人の少女に向かって軽く手を振るゆずき。

 会話が聞こえないであろう距離まで離れたのを確認したのち俺は茉莉へと振り返った。


「おい……(ほう)けるな。話しながら歩くぞ」

「……いやいや、つい恋人繋ぎで」

アホ抜かせ(馬鹿を言うな)、絶対目を付けられたぞ。マナで隠してるんじゃなかったのか?」

「そのはずなんだけど、ね?こんなことならマリオネットドールの失敗作に移るんじゃなかったかな」


 はぁ、小さくため息を付く少女。今回は高い自尊心を持つ故ども、己が一方的に悪いことを理解しているらしい。

 パッと、軽く振りほどいて恋人繋ぎをしていた腕を解く。

 頭を抱えたい所ではあるが、本来の目的を果たしていない。

 俺達は純恋(すみれ)さんが経営する病院まで足を運ぶのであった。


 橘純玲が経営する病院は北関東統合都市で珍しく傭兵の治療を行っている。何度でも言うが、現代の民間警備会社は社会にあぶれた弾き者が人の世に踏みとどまれる最後の境界。警察ですら肉盾に使うのだからどれくらい負傷率が高いか言わなくてもわかるだろう。

 だから、傭兵は保険適用外が多い。自らそう言った職種に付き警察や軍の規律にも従わないのだから……権利を与え責務も与え、組織に所属していないのだから守る責務(保険適応)はないだろうが政府の言い分だ。

 そんな訳で、治療を施す病院は少ないのだ。まぁ……怪我をする人間を受け入れていると言う事はそれなりに経済が回り、他の病院より余裕で黒字をたたき出しているのは皮肉であるが。


 そんな病院の地下。地下駐車場よりもさらに下。

 ここは緊急時用に作られたシェルターの一部だ。非常用電源に、貯水層、食糧庫、医療品。病院に求められる……いや、やや過剰なほど整えられた施設。

 それはそうだ。本地下施設は表沙汰で使うものではなく、建物を建設した施工会社すら知らない秘密基地なのだ。知り合いの傭兵に頼み紹介してもらった業者が1年で片付けてくれたと自慢気に純玲は言った。

 ややひんやりとした室内に、ガチャガチャと機材をいじる少女。その周りを心配そうに囲む男女。

 ふぅ、息を吐きながら六角レンチを上に投げキャッチするを繰りかえす。これで最後と天高く投げるとともに立ち上がる白髪の少女に、少年は横から手を伸ばし空にあった工具を掴みとって懐に入れた。


「これで良し」

「……随分と違うんだな。お前の所では試験管みたいなやつに入っていたが、コードとは」

「まぁ、ねぇ?患者のデータを詳しく見てこれが最適解だと思ったからだよ。見せてくれるかな?」

「なぁーんでちょっと偉そうやねん……ええけど」


 眼鏡をクイっと上げた後、橘純玲(たちばな すみれ)は懐に入れていたタブレット端末を差し出した。

 これは……レントゲン写真だろうか?

 だが、これは明らかに白い。手足が無いのは事前に知ってるいるから戸惑うことが無いが明らかに白い色が多いのだ。


「レントゲン写真の簡単な概要くらいは保険の授業で習うやろ?放射線の一つであるX線を用いて、身体から透過した差で骨か肉かわかる。骨折とかはわかりやすいで、なんせその部分に骨が無いんやから透過量が上がって黒になる。逆に骨や金属があれば透過量が下がり白になる。で、その写真見てどーおもった?」

「ふむふむ、あっきらかーに白いですねぇ?筋肉とか脂肪とか透過率が高いからこんな風にならないはずです。つまりぃ、透過率が低い……例えば機械とか埋め込まれてるって感じですかぁ」

「大方、制御するための機械類だろう。首筋にある端子も、マソを補充するための物なんだろうね。彼女が動かないのは一重にマナ切れさ……。しっかし、随分と雑にやったもんさ」

「雑?」

「あぁ御子。これは量産重視だ。コアの半分は寄生体じゃなくて機械生命体を使ってる。手に入りやすいエインヘリャルってとこか」


 どうやら出力不足を補うために機械生命体を使用しているらしい。

 しかし、車に航空機用のパーツを使うのと同義じゃないか?

 本来の用途として想定されていないものを無理やり組み合わせたら。


「柔軟性に欠けるだろうし、肉体にどんな影響が出るかわからない。寄生体の順応能力は高いけど、マソが無ければおしまいさ。だから量産品と言ったんだ……事実、有線接続とか戦闘中どうするつもりか気になるね」


 つまりこういう事だろう。

 電気で例えるなら機械生命体はマソを得るために、わざわざ明かりを付けて太陽光パネルで充電すると。直接コンセントから引っ張ってくればいいのに態々3クッションぐらい挟む。それに、電池の容量がリチウムイオン電池ではなくコンデンサーだ。

 対して寄生体は、直接コンセントから繋いでくるからロスが少ない。

 俺達は、そもそもワイヤレス充電と言ったところか。


「問題は、機械生命体のコアを使った事で活動時間が大幅に減少している事だ。それを無理やりどうにかしようとして、尚且つ機械として使えるようにしたんだろうさ。って事で、さっき作ったのはその充電器とコード。マソは、空気中から貯める機械があるから1人ぐらいであれば今の施設でも問題ないかな」

「ま、安楽椅子ちゅーことやな」

「これ以上の進展を手にするなら、もっと指を折る必要があるだろうね。情報を回収できるか定かではないが、今後使えるかもしれない。増産準備をしておくさ御子」


 これ以上、俺が出来る点は無いようだ。

 態々来てくれた純玲に対して軽く会釈をしながら俺達は帰路に着くのだった。


 ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。

 また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!

 ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!

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