126節 青天の霹靂ってやつさ
N〇ROが悪いよNU〇Oが。
最近通信が安定しない。どうした物か……。
会社員の朝は早い、しわ一つない長袖のスーツを炎天下の中着こなしビジネスシューズでコンクリートを鳴らして歩いていく。
関東統合都市は、廃墟になった東京の反省点を生かし中央省庁をある程度分散させている。それは大企業も同じだ。この時間に電車に乗るものは20分以内に職場にたどり着ける者たちであろう。
そして、その中に混じる少し背の低い男女たちは半袖の体育着を着て十色の装備持つ学生たち。きっと、朝練でもあるのだろうか?
そんなことをボケっと窓越しに眺めていた俺は、騒がしさに目を細め視線を戻す。
駅に隣接し人道橋によって繋がれたショッピングモールの2階。色鮮やかな南国風に装飾された看板にパンケーキの絵が描かれたロゴ。明らかに女性が好み付加価値が高そうな料理が出てくるカフェに、不相応な格好をして俺は食事を行っていたのであった。
イチゴとバニラアイスが乗った大盛りのパンケーキを食べる少女4人衆。その様子を見ながら、櫛でばらけないように止められたアボカドハンバーガーを味わい租借する。
「なんだい。こーんな美少女に囲まれておしゃれなカフェに入れる人間は一握りしかいないと思うが……どうやら心狭そうに見える。私のお金だもっと楽しみたまえよ」
「……お前のお金はもうないだろ――タナトス」
同じように、と言っても同じなのは食べるものでフォークとナイフを使いお上品に食べる目の前の少女。タナトスは、口の端に付いたホイップクリームをチロリと飴のような真っ赤な舌で舐めとり肩を傾げる。
白髪の髪を流しほんのりと輝くピンクの瞳。白のロングスリーブワンピースの上に肩出し上着を着ている。上着もきっちりとしたものではなく、胸の前部分しか止めていないがそれ故に下に吐いているワンピースが映える衣装だ。
もっとも、清楚な服装と容姿ではあるが耳には3個ほどピアスを付けており。耳を澄ませばちゃらちゃらとした金属のような音が服の下から聞こえるだろう。ボディーピアスに括り付けられた鎖が動くたびに体を小さく痙攣させたり、飲食中にちらちら見える下にはボールピアスが取り付けられていたりと中身は何も言えない。
そんな彼女は、ナイフで切り分けたパンケーキをフォークで突き刺し俺の口に無理やり突っ込ませたのち。
「言っただろう。茉莉……と。呼び方は任せる、マリでもマリンでもマリーでもマーリンでも呼び方は任せるさ」
「もぐもぐ……んぐ。それは、心機一転と言う腹つもりか?」
「まぁ、それもあるけれど……ようは体の問題かな?タナトスとして過ごしてきた記憶も人格もある、けどそれはレンズ越しに見た事にしか思えないんだ。今では茉莉と言う方がしっくりくる……それに、君にとってもそちらの方が都合がいい、だろう?と言うか、妹を置いて行ってしまっても良かったのかい?」
「それは、問題ない。妹は休日は午前11時半過ぎに起きてくるからな……それと、2人で共謀するのはお勧めしない」
「……まぁ、それはわかっているよ」
彼女の隣にいる白髪にピンクと、インナーカラーであるライトブルー以外瓜二つの女性……戸鞠美海を人睨みしながら俺は告げた。
それを受けって茉莉もゆっくりと頷く。
本来であれば、彼女は俺達と同じ机を囲む資格などない。そのまま営倉に囚われたままであった。
だが、少女が持つ情報と俺が一緒にいた方が安定性があるとされリスクとリターンを天秤にかけた結果、会食が実現している。
「立ち姿が尋常じゃない。軍事訓練を受けた眼光だ……怪我か何かで退役した傭兵の後釜なんだろう?福利厚生、転職推進、しっかりとした企業じゃないか」
「そーかい」
「睨みつけないでくれたまえ、私は君の味方だ。ちょっと出会いが良くなかっただけ、もっと早く知っていれば穏便に……って話が長いか。聞きたいことがあるのだろう?例えば、君たちに敵対しているネームレスの事とか」
「敵対ね。僕は君たちの方がと思うけど」
「いや、敵対関係だね。そもそも基本的な考え方が違う」
キリスト教イスラム教みたいなものさ。
腕に顎を乗せたまま妖精のように可憐な少女は嘯く。
キリスト教とイスラム教。この二つは原点が同じである事を知る人は少ない。
イスラム教の教えは大雑把に言えばアラブ人だけが救われるものであるが、キリスト教は全てを救うと言う大きな違いがあると言えよう。
「私は、君の事をキリストのようだと言ったね。改めて問う、君が戦う理由は何だい?」
「俺は、俺のために戦っている」
「そう言う意味じゃない、それは人間の本能のお話だ。君、普段何してるのって聞かれて生きてるなんて回答しないだろ?もっと具体性を込めて……ね?」
「家族とか、友人とか、知り合いのためだ」
「つまり、自身が上位存在となり人間を支配したいとは考えていないわけだ。君はよく利己的と言うが、どちらかと言うとセーブのために使用しているね?自らの利益は追及するけど目の前で困っている人が居たら完全に無視はしない、けど何かあった際に責任は取りたくない。普通の人間だ、普通の人間なんだよ」
故に邪魔なのさ。と少女は口を開いた。
普通であるが故に、力を持った際に持つものと価値観を共有することが出来ない。
何時の世も権力者は、すべてを支配下にした状況を保とうとする。だからこそ、突出する凡人が現れた際に世界を変革させる者となる。
「絶望的な世の中に民衆と同じ価値観を持ち、支配者に立ち向かうその姿を……人々は救世主と呼んだんだよ?」
「それって、只の勘違いではぁ?」
「別に君たちの認識を聞いてるんではないよ。己が世界に存在するのを証明するには観測者が必要だ。観測者に助けられている以上、君は困難に立ち向かわなければならない。それに、君は目覚めてしまった。寄生体をすべて捨て日常に戻れるかい?」
「……マスター」
「嫌だ、奪われるのはもうたくさんだからな」
そうかい、と茉莉は妖艶にほほ笑む。
「なら、私達はやっていける。と言うか、君は私のマソと言う首輪を持っているのだから恐れることは無い。体を使ってもいいのだよ?抱き心地は結構、いい……」
「「あ”?」」
「っと、トラの尾トラの尾。僕はね?君の事が知りたいんだ、海斗君。どうやって力を覚醒させたのかを」
「力?」
「その契約する力だよ」
そう問いかけられ、俺は思考の沼に沈む。
俺がこの力、魔視の魔眼を得たきっかけ。
機械生命体に襲われたのが原因?いや、違う。そうであるのなら9年前に目覚めて居なければ帳尻が合わない。礼と出会ったのが原因?いや、もっと具体的でなければ始動としては物足りない。
ぽつぽつと1か月ちょっとの記憶を掘り起こしてみて。
「そう言えば、礼にキスをされてからだ。あの時は軍から脱走してきたって話で自我も薄くて、本格的な契約以外で細胞を交換した瞬間はそこしかない」
「なるほど、しかし軍か……日本国防軍だよね?自衛隊の後釜かい……ハハ!」
あははは、と口に手を当てながら形は淑女的にけれど声量は下品に。ラベンダー色の唇を愉快愉快と歪ませる。
急に笑った事で、瞳をジロリと向ける礼とゆずき。
突然、笑い出した事で驚いた俺達に唇に添えていた手首をペコっと90度ほど曲げ、ごめんごめんと軽口を叩く。
なんだ、突然。そう疑問に思い。
「いやぁ、ざまぁない!オリジナルコアを既に噴出していたとは、まさに青天の霹靂だ」
「は?オリジナル?何を言ってるんだ」
「おっと、失敬失敬。ついテンションが上がると周りが見えなくなる性質でね……このタブレットで資料を作るから待っててくれたまえ」
「え?貴女今から作るのかい?」
「花嫁に言われても準備不足なんだなぁこれが。でも、確実に言えることがある」
懐から、返してもらったのだろう。タブレットを取り出しペイントツールとパワーポイントを起動させた茉莉が、ピンと人差し指をこちらに向け。
「今の政府には天使の教会が入り込んでいる、それは軍も例外じゃない。万全を期すために政府まで動かした兵器の操縦権を奪い鹵獲した事で、試製品を魔法少女としばら撒かなければならないほど焦ったんだ。――これから、世界は動いていくのさ。君の意思など関係なく……ね」
関東統合都市にある一つの建物がある。周りには街路樹が埋められていて、他の建物と景観に差がない多目的ビルのようなものだ。
だが、そこの空間だけ浮世離れした空気が漂っていた。
コンクリートと鉄筋で作られていてよく見れば、窓ガラスから透ける景色が若干歪んでいる。これは、防弾性能がある窓ガラスをさらに太くしたためだ。
現代式の要塞と言ったところか、事実戦闘も加味して作られている事は確かなのだが。
そんな建物の最上階。新警視庁本部庁舎の最上階に男は座っていた。
9年前に東京が瓦礫の海と化した影響で政府機能は全て移転した。機械生命体がもう一度沿岸部を攻めてくる可能性を鑑みて、北関東に作られた其れは1980年代に作られたオンボロとは違いすべてが最新鋭の一級品だ。
今、男が尻で磨いている椅子でさえも庶民では手を出せまい。
そんな、彼が現在。机を挟んで前に立つ女……いや、少女に対して脂汗を掻きながら鬱屈していた。
「何故8月初旬中のSS部隊活動記録が無いんですか?」
「それは、独立性が高い組織なので」
「でも、管轄は警察庁ですよね?警視監殿」
外見はコバルトブルーにメッシュのショートヘアー、瞳はきらきらと輝いている少女であった。もっとも、向けられている視線は夜空より厳しいものがあったが。
明暗分かれるスーツを着用しタイトスカートで、どちらかと言えば服に着させられていると見える青二才。けれど、相対する中年と初老の中間に位置する男はエアコンが効いた部屋にいるのにも関わらず冷や汗をかき続けていた。
保安庁が新たに設立した魔法少女部隊、ハナズオウを活躍させるために既存のSS部隊を解体しろと指示したのはそちらではないか!と、板垣貴行は(いたがき たかゆき)激と唾を飛ばして声を荒げたいが少女が胸元に付ける胸章故に声が出せない。
彼女の襟部分には白銀に作られた花の紋章。彼岸花の意匠が施されたバッチが。
「それは、その……。付近の監視カメラが故障しておりまして」
「ボディーカメラがあるのでは?」
「そちらの方はまだ。主に現行犯逮捕ように使用してるので。き、機械生命体が銃を撃ってくるわけがないですし」
「っふ、ざけないでください。もういいです。こちらで動きます」
バタン、退出する際の一礼を忘れるほど静かに怒っていた少女。跳戸梨花は、コツコツとビジネスシューズを鳴らしながら携帯を取り出した。
「わたしです」
『もしもしもしもし!』
「そんなキャラではないでしょう」
『失礼いたしました。一華からは、適度にふざける事で場を和ませる効果があるとデータが』
「それこそ冗談でしょう。新夏香眞純、そちらで何かつかめましたか?」
ハナズオウ屈指の情報部門担当。新夏香眞純からの電話に梨花は耳を傾ける。
『いえ、何も。ただ、このようなケースが最近多くなっています。特に大規模なものとなると7月下旬に行われた廃墟都市ない戦闘ですね。そちらの方にも真っ二つにされた機械生命体の死体があることが分かっています。犯罪組織と天使の教会が関わっている可能性を考えて』
「廃墟都市に本拠地がある可能性が?」
『データが少ないので推測になりますが』
「そう、ですか。わかりました、勝手に動いた2人に任せましょう。一華に霜……彼女達であれば最悪死なない程度になるはずです」
『では、そのように』
ぶつ、電話が切れる。
スマートフォンをポーチに仕舞い。
「平和を荒らすものは必ず……殺してやるわ」
そう、決意を胸に秘めるのであった。
と、言うわけで。今回はお久しぶりのキャラクターが出てきましたね。
誰だ、この中年っと思ったそこの貴方方!しっかりと出てきてます。
ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。
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