125節 内緒話
「よし、小説書くぞ!午後10~午前2時までは筆が進むぜ」
「いや、明日8時に起きろよ。もう寝ろ」
「!?」
「お彼岸って……対してかかわったことない奴の墓参りしろって言われても困るんだが……遠くの親戚より近くの他人だろ。今回こそ、ルビ振りとか誤字確認と全体の修正を」
「明日も8時に起きろよ」
「!?」
多分今回色々間違ってるが……いっか。
白衣をはためかせ同じく清潔な事をイメージさせる上履きを履いた女性が堂々と廊下の中心を歩いていく。
ドラマの撮影か?或いは名医なのか?体から染み出るオーラが廊下で作業をしていた傭兵たちを自然と立ち退けさせる。
硝煙が鼻孔をくすぐるのを鬱陶しく感じながら、橘純玲は重武装をした兵士の前に立ち止まった。
横幅も筋肉量も多いガチムチマッチョ2名に挟まれた彼女は、動揺することなく見張りが開けてくれた扉をくぐる。
「おう、あんたか」
「へー、あんさんがか……なら頼もしいわ。獅子王ちゃん、仁はん、直樹ちゃんも」
待っていたのは獅子王陸であった。
社長なのによく前線に出る精華の影に隠れがちだが、小火器と銃火器双方を操るスペシャリストで柔道や合気道を収めた立派なソルジャーである。
一方、日に焼け肌が少し焼けている高身長細身な体系を持つ男が仁だ。副隊長を務め、よく感で行動する陸に対して補佐をする役割を持っている。
直樹は、他二人と比べ突出している所は存在しないが治療行為や射撃等、どちらかが負傷した際にポジションを任せられるほどの優秀さを持つ。
所謂、突撃部隊何時もの3人組に出迎えられた純玲は傍聴室にあるソファーに座り込みながら話の続きを促した。
「聞き取りはどないなっとるん?いや、私が聞きたいのはそう言うもんやなくて患者を生かすための培養槽関連の技術や」
「あぁ、それなんだがな……。その……」
「んや、歯切れが悪いな?滑りが悪いんちゃいますの?」
「ある意味、滑りが良いのかもしれない」
「どーゆこっちゃ仁はん」
歯切れが悪い陸を見かねた仁は、実際に聞くより見た方が早いと思いスピーカーのスイッチとスモーク機能が付いたマジックミラーを起動させた。
耳に届くのはぺちゃぺちゃと粘性の音と暖かく湿った声、ガラス越しに目に映るのはべったりと汗をかいた少女が体をベットにこすり合わせているところであった。
「……やー、うーん?その、なんや……仕事柄生物本能が刺激されて溜まっとるんやと思うんやけど、羞恥プレイは流石に引くで」
「そう言う訳ではない」
「えっと、タナトスって言う人。捕まえた後しばらくたって、昔飼ってた兎みたいになっちゃって」
「そういうことだ、受け答えは結構しっかりしてるんだが目と耳に毒でな……人目を気にせず盛ってやがる。なんど、やめろと言ってもそう言う風に作られてるから無理だと一点張りで」
なるほど、ふむふむ。彼らは異性の体を見たことくらいはあるはずだ。治療の際に、服を脱がしたりするのは当然だし戦闘服はすぐに止血が出来るようにパージしやすくなってはいる。
ただ、それはあくまで戦闘状態と言う極限であって視界にあって入っていない状態だ。
このように、仕事中に喘ぎ声とかは想定外だろう。
もっとも、私にとっては結構あるけれども。
昨今の世の中、廃墟都市なんかが出来た都合上……危ないお薬が回ってくることが多くなった。その中には、そう言う行為中に使うドラックも含まれる。
ぽたぽたと、太ももから少しずつ緩んだ蛇口のように垂れ出る黄色い液体がシーツを汚すぐらい見慣れた物や。
「なら、いい。私がやるわ。きーといたる」
「はぁ?正気かよ」
「正気も、狂気もあらへん。それがいっちゃん手っ取り早いんよ。患者が待っとんのなら迅速に処置するのが医者の使命。それに、礼ちゃんみたいな能力構造が根本的に寄生体ならちーきついが……半端もんに負ける筋合いないで」
白衣のポケットから掴みとりだした大型メスをペン回しの要領でアピールする。
精華達を見ていて少しずれを感じるが、傭兵と言う職業は元々失業者などであり社会に不安を持つ荒くれ者が多いのだ。殺る可能性のほうが高いが制圧くらいできるで。
「でーじょーぶや。見た所、犬みたいにリードを括り付けて見てるみたいやしな。映像は嫌っぽいけど声はちゃんと聞いとんのやろ?ほな行くか!」
「あぁ、ちょっと」
直樹の伸ばした腕が白衣の裾を掴むことは無く、彼女はそのまま扉を開け進んでしまった。
あー、と口をぽかんと開けた彼と違い仁は冷静にスピーカーの電源を付け、マソ探知機起動する。
マソは言ってしまえば、酸素のようなものだ。機械生命体が人間を襲うのもマソを貯める人間を殺害吸収し分解することでエネルギーのマナに変える必要があるからだと言われている。マナを感知する機械は無いが……マソを観測は出来る。
出番がないと良いが、そう思いながら獅子王陸はHK416のチャージングハンドルを引き初弾を装填した。
ガチャリ、ドアノブが捻る金属のこすれ音が耳に届く。今まで閉じ切られていた部屋から新しい風が敏感な肌を撫でたことを感じてベットに埋めていた顔を少し持ち上げる少女。角度が何時もよりあったのは、自身が発する蜜の匂いに花の香りが混ざったからであった。
新しい人が来たのであろう。タナトスはそう思い持ち上げたのであった。
「随分な匂いやね。改めましてあんさんの聞き込みをする純玲や。よろしゅーな、そんな局部弄ってるもんやから男性連中がたまんなくてな。話し合いは出来るかい?」
出入口近くに置いてある椅子に腰かけ、テーブルを肘置きとしつつ指をトントンと音を鳴らさないように叩く。
「ん?あぁ、ちょっと迷惑だったかな……んっ。問題ないよ、3割ぐらい思考がそっち行って手は止まらないけれど、きちんとできるからね」
そう言いながらタナトスも弄っていた右手を糸を引かせながら前に持っていき、トントンと音を鳴らさないようにベットの縁を叩く。
一見、医者と患者の面談に見られるし実際聞いている限りではその通りであろう。
ただ、後ろではきっちりと内緒話が展開されていた。
『ずいぶんと無様な姿やね?英国の天才科学者が今は色狂いとは……ケンブリッジを飛び級で卒業したもんとは同一人物に見れませんわ』
『そっちは、少し老けたかい?自慰行為はしょうがないだろう、そう言い風に作った身体なんだから逆にやってないと禁断症状があらわれて何も考えられなくなるんだから……それで?わざわざモールス信号で話しかけてきて、内緒話がしたいのかい?』
――モールス信号。
それは、まだ科学技術が高度でなかった時代。単純な音でしか通信が出来なかった頃に開発された文章コードの一つだ。言う一つのボタンを短く押すか長く押すかを組み合わせ、トンとツーで文章が作れる。
この技術は、電波状況が悪く多くのデーターが遅れない地域で今もなお使用されている立派なものだ。
本来は音による交信であるのだが、今回はマイクが付いていると言う事なので指が付くことで代用している。
『そんで、聞きたいことがある……何で今頃現れた?』
『君は天使の教会の前身……国連機械生命体対策本部に日本から出向していただろう?私達の目的は人類を救う事だよ』
『はっ、科学者が神など信じ酔って』
『科学者だからこそだよ、人が神を信じるように今は人が科学を信じている。只、対象が切り替わっただけで本質は違わない。科学で解明できない事は神であり、人が証明できれば科学だ』
純玲がタナトスと内緒話がしたかった理由。それは、旧友であったからだ。
9年前機械生命体が出現した際、国連は瞬時に各国の科学者や医者や言語学者を集めて機械生命体を調査した。
もっとも、解ったことは機械と生物を合わせたようなものを持つものとマナと呼ばれる魔法を使用することぐらいだったが……だが、寄生体の出現によって変わる。
なんとタナトスたちは寄生体を神の恵みとして信仰し、数多の人体実験を行ったのだ。
そして彼らは一つの結論を出した。寄生体は進化の限界に陥った人間を昇格するために来たのだと。
『私達の考えは変わらない。寄生体を導く存在である御子を祭り、我々は新たなる地平へとのし上がる……それこそが私の望み』
『で、見つけたのが海斗君ってわけか』
『もっと早く覚醒していれば私も……タラればの事を言っても仕方がない。最初の邂逅は寄生体単体だけだった、先輩と言っていたし人間のころの人格が強く残っていたのであろうと……だが、失敗作から連絡を受けて私は水面から飛び上がるように絶頂した。やっと見つけたんだ現代のイエスに』
『そーかい。なら、今まで行ったことに関しては逆効果やな』
『その通り、今では深く反省している』
彼、いや彼女の状態は目の前にずっと探していたご飯を見つけたのにガラス越しだから取れないと言った状態だろうか。
もし、ガラスを突き破ったとしても全力で逃げるだろう
『あんさんは天才や。だから、自分が思う通りに動いてほしいと思ってたんやろ?道路標識の代わりやな』
『あぁ、私は少し調子に乗っていたようだ。おこがましかった、今では自分の事を使ってほしいし使われたいと思っているよ。彼が言うのであれば私は全てを投げ捨てよう』
『おぉ怖いわぁ、狂っとる人は……裏切りはしなさそうやけどな』
そろそろいいだろう、聞きたい事は聞いた。後はきちんと味方になるようにすればいいだろう。
直に寄生体に触れてきたのは私の方が上だ。タナトスは天使の体にさらに天使用の寄生体を入れているため胸の宝石が油絵のように混じっている。
今はそのような感じであるが……。
(あいつは売春行為をコネと金そしてマナを得るためと言った。体もそのように最適化してるみたいやが……制御しやすいように半分にしたのにもう半分入れたみたいやな。もう数時間経てば今より重度の禁断症状がでるやろ……)
転がしていた舌も止め、表でしていた話をやめる。
元々前身となる組織の属していたのだ、データを見れれば簡単に作れる。
「話は以上や、それと」
「ん?何かな」
下腹部に戻そうとしてる手を途中で止め純玲が放つ言葉に耳を傾ける。
「今夜は、ぐ~っすり寝れるとええな!」
そう言いながら彼女は立ち去って行ったのであった。
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