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パラサイト・エヴェレット parasite_Everett  作者: 野生のreruhuさん
本編:第4章 不毛に響く白鳥の歌
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124節 娘と母

「隊長」

「どうかしたか?彩」

「捕虜と被保護者についてです。どうします?」


 高速道路を4台の自動車が並んで走る。一見すれば中小企業などで資材運搬として使用されるハイエースのようなバン形状の車体だ。だが、その中は魔改造されている。

 このような擬態は数々行われてきた。機械生命体が出現したからと言ってもそれはたった9年前のお話、年齢を重ねた中年より上の世代は銃火器と言うものにいい感情は向かない。武力を示す装甲車などもだ。

 故に、一警察組織と言えど一般車を改造して運用されていた。

 そんなびっくりドッキリカーを運転するのは元機械生命体対策(SS)部隊である咲であった。

 

「今の私達の立場は非常に危ういものです。ある程度自由に使える施設はSS解散と同時に取っ払われてしまいました」

「研究者の少女に、無人攻撃機のパーツ少女か……何かあった際、対応できるようにせめて30cmの金属製留置所があればいいが」

「寄生体。あちらで言うなら天使ですか……半分の出力とは言え瞬間火力は歩兵戦闘車と同じですからねぇ」


 だが、話す内容に関しては覇気がなくなっていた。

 彼女達を取り巻く環境は非常に怪しい。

 魔法少女と言うとても便利で象徴的な物が現れてから、予算削減と言うなで解散され現在は所謂社内ニート。

 市民を守るためであれば上官の命令すら無視するSS。だから、上司からの印象はものすごくわるいのだ。

 現在は体のいい飼い殺し状態。まぁ、だから普段勤務時間でもこんなに動けているのだろうが。


「どうするんだぁ?何処に拘束しよう……」

「石竹さんの所に置いておくのが良いんじゃないでしょうか?あそこ、地下は武器弾薬の貯蔵施設になっていて万が一爆発が起こっても問題ないように壁が厚いのでしょう。なら、良いじゃないですか」

「てっきり、殺す……何て言うと思ってたんだけどな。成長したか?」

「成長?成長ですか?違いますよ。只、諦めた。それだけです」

「そうか……諦めは心の養生と言うが、君は当初から張りつめていたからな」

「……張りつめるに決まってますよ」


 そう言いながら、彼女は胸ポケットに入れたブローチを服の上から握るのであった。


 時刻は午後8時を過ぎた。8時と言えば、もう既に良い子であるならば布団に籠り始める時間であろう。或いはやんちゃな子供は遊び惚け、大人は帰宅するか日頃のうっ憤を酒にぶつけに行くところか……とにかく、まだ街中に人通りは多い。

 そんな喧騒から少し離れた民間警備会社の敷地に4台の準中型車が入ってくる。

 物資搬入用の地下駐車場に止めてシャッターを下ろし、車から降りる。

 迎えに来た精華たちが銃を構えながらタナトスを拘束し連れていく。一方、ドローンに組み込まれていた少女は病院から向かいに来た橘純玲が近くに駆け寄っていた。

 藍沢さんからは、生きて帰ってきてくれたことをほめられ休息を求めるように言われた俺達。ここから、家に帰っても時刻は9時を回るだろうし、散乱した窓ガラスの修理などがある。ここで寝泊りしたそうがよさそうだ。


「?」


 一瞬、擦れ違うタナトスと純玲の視線が深く交差した気がした。

 けれど、すぐに離れ患者のもとに駆け寄っていく。只、単純に体が気になっただけなのだろう。

 そのまま、地下室への扉を開けた所で一人の女性が廊下の中央で立ち尽くしていた。

 白髪を腰まで伸ばし瞳をピンク色に輝かす一人の女性。自身の身長に不釣り合いの二つの果実を胸から垂れ下げる少女はこちらに気が付いたのち一礼をした。


「戸鞠さん……でしたっけ?」


 疲れていた脳みその中から泡が弾ける。

 そうたしかあの研究施設から助け今日の朝、もと展望台に設立された図書館にいた少女。戸鞠美兎(とまり みう)であった。

 普段、名前を覚えるのが苦手である俺もあのような強烈的出来事があれば流石に覚える。でも、一体なに用で訪れたのであろうか?


「……この女。僕たちに何かよう?」

「いえ、何処か似たような波長を感じたので……」

「ふーん。そぉーなんですかぁ。じゃ、私達はそう言う事で」


 タンと、今だ戦闘衣装のままヒールで地面を鳴らし一歩出る礼とゆずきに対して戸鞠は夢に浮かれるような足取りで俺達を通り過ぎていく。

 彼女の目線の先には、両手両足に拘束具を取り付けられた。同じく白髪を腰まで伸ばし赤紫色の瞳を輝かせるタナトスを見て。

 そして、拘束された少女も自身に突き刺さる視線に瞳を動かし認識し。


「茉莉ちゃん」

「お母さん?」


 と、双方声を漏らしたのを聞き取った俺達は。


「は?」

「え?」

「ふぇ!」

「っす!」

「な?」


 …………。


「「「「「「「「「「「「はぁあああああああああ?????」」」」」」」」」」」」」


 拡散した驚愕が、地下駐車場の壁を反射して爆発した。


「……つまり、母体となった赤ん坊を生んだのが戸鞠さんであると言う事?」

「お話を聞くに、そうっす。今、橘さんが色々やってるみたいっすけどね」


 先ほどの喧騒から少し経ち、精華と夏はカップに注がれたコーヒーに舌を乞わせながら話をする。

 彼女はタナトスの事を娘と言い、タナトスも少女の事を母と呼ぶ。もっとも、タナトスの場合は思考の揺らめきが零れ落ちてしまったと言うべきだろう。発言をしたのち、自らの瞳孔を揺らし動揺していたのが見て取れた。


「会話ログと持ってきたPCデータから精査してるみたいっすけど。どうやらマジな可能性高いらしいっす」


 本来、予備の爆発物保管庫として作られた一室を簡易的な牢獄として改造した場所にタナトスは拘束されていた。

 さすがに全裸のままと言うのは色んな意味で問題であったので、適当にあった制服を着せているがやはり頬のタトゥーなどが異質さを漂わせている。

 PCに映し出されている映像は強化ガラス越しに尋問する映像だ。女性の傭兵に取り調べをしているが彼女は何か隠すことなく協力的に話しているようだ。


『棚から牡丹餅と言うのはこういう事を言うのかな?幸運……とは、ちょっと違うと思うけど』

『抵抗しないのですね』

『抵抗?私は彼の味方だよ?本当は順序よく行う予定だったんだけどね……ほら、ゲームとかで最初のフィールドの敵が強すぎたりしたらお話進まないだろ?だから、彼を覚醒させる必要があったんだ。もっとも、それはご破算になったわけだけど。あ、君たちのせいじゃないネームレスが強すぎたのさ』


 はは、とかわいた笑みを携えるタナトス。その表情からは、なんとも落胆したかのような……憑き物でも乗っているのではと思うほどだ。


『先ほどの件。私もまったくの偶然だ……入れる前に採血したのだろう?なら結果はそろそろじゃないかな?この年になって娘とは、なんというか複雑な気分だよ。体に引っ張られている……胸を燻る衝動に私は我慢してるんだ。甘えたいと言うね』

『面会は禁止されています』

『そりゃ、とーぜんだろうね。なんせ体をいじくりまわした本人だし……それと、PCは回収したかい?そこに、私が話したことの裏付けがある。そして、もう一つ……君たちの回収した達磨少女の事なんだけど。それの延命に使える培養槽データも入ってるから使うと言いさ』


 コンコン、扉をノックする音が静かにそして確かに響き渡る。

 ソファーから立ちあがり赤みがかかった髪を揺らしながら、夏はドアノブをひねると純玲が白衣をはためかせながら入室してきた。

 コーヒーを受け取った彼女は、適当に角砂糖を4つと濃縮ミルクを入れたのちゴキュゴキュと喉を鳴らし終えた後、データが入っているであろうタブレットを脇から机の上に置いた。


「で、どうだった?」

「うんやぁ、想像通りやったでぇ。血液と細胞片を使ったDNA簡易検査結果からは親子判定が出た。もっとも、簡易やから精密には病院に行かんと行けへんが……容姿もほぼ同じやし確定やろ」


 肩までかかった茶色髪を指でいじくりながら吐き捨てるように言う医者に、双方ですよねーと言う感情しか出なかった。


「しかし、何で分かったのかしら……会った事無いんでしょう?」

「そりゃ、寄生体やからやろ。天使とか言われてるみたいねんけど元は寄生体や。あいつらは、自身の細胞で武器とか作ったりするからなぁ。要するに自分の手足のように自身の細胞を操作できるんや。だから、親子関係であるならDNA的に細胞も似たり寄ったりになるっちゅーもんよ」

「つまり、かっこよく言うと。共鳴、共振が起こったってことっすか」

「せやな。そーとしか故へん、なんせデータが無いからなぁ。うち、海斗君がかかわってきて寄生体とか見るようになったけど、その赤子は知らんもん」


 もうお手上げだっぴ!っと両手を上げる橘純玲に関してこちらとしても判断のしようがない。

 とにかく、何かしらつながりがあると言う事だから脱走に利用されないように面会は決められた人物のみにう制限しておいた方がいいだろうと言える事ぐらいか。


「それで、保護されたもう一人の方は?」

「そっちは重体やねん。ちょっときついねん……まず両足両手切断、関節が無いから義足を付けても歩行は困難で、目や耳も機能がないと言うか接続部になってるんだわ。あのドローンの映像音声を脳に直接出力してたんやろ」

「っ。この背中のものは?」

「体に埋め込む外骨格やね。背中にボルト止めプラス一体化してたから外れへん……金属製のパーツに細胞が根を下ろしてるとかもう名前通りに機械生命体やねん。どうやら、マナ管理デバイスっぽいな。脊椎の光で残量が分かるみたいや」


 そんなゲームあったなぁとこぼす橘に精華は、口どもりながらちょっととこぼしそれを聞いた彼女はごめんごめんと軽口を叩く。

 だが、ここからは仕事人の表情に。


「まず、今の技術やとこんなんや。ただ、な。天使の教会にあったデータ内にいい感じのものがあるみたいねん。それを作れればワンちゃん行けるで」

「そうなんだ」

「せや、だからな……私をタナトスっちゅー科学者と面会させてほしいんよ」


 そう、純玲は眼鏡を光らせていった。

 ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。

 また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!

 ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!

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