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パラサイト・エヴェレット parasite_Everett  作者: 野生のreruhuさん
本編:第4章 不毛に響く白鳥の歌
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120節 残痕

 銀だこの福袋を買ったんですね。

 これでたらこチーズかてりたま食べようって思って、今日チケットもって銀だこに行って来たんですよ。

 そしたら、チケットの有効期限が8月からだった。

 な、んだと。

 階段を下りた先には凄惨が待ち受けていた。

 床はまるで絨毯が毛を伸ばすように真っ赤な血で隙間なく染まっていた。壁や床にもたれかかる或いは寝転ぶ彫像は、もはやその残痕ですらアーティストが作ったかのように素の姿からかけ離れたものに変わっていて。


「うっわ」

「これは、酷いですわね」


 どくどくと流れ出てきた液体が少しづつ、だが確実に水かさを増している。どうやら新鮮らしい。

 まるで、救ってくれと手を伸ばすように糸を引く血液を靴から振り払い一歩前に進む。

 人と言うぬくもりが消えた空間であるからこそ、襲撃者の位置がまるわかりなのだ。


「あいつか」


 チラリ。壁に手を当て音が出ないようにゆっくりと体重移動させて半身になる。

 片目越しに移るのは二足歩行で動く鉄塊だった。1メートル半ほどの長方形の箱に、踏破用の逆間接の足が取り付けられている。

 側面には閉所ように銃身をぶった切ったであろうブローニングM2機関銃が取り付けられていた。

 そして、その横にはアーマードレスを着込んだ女性が佇んでいた。純白な鎧と翼が這えたかのように広がるスカート。腰まで伸ばした金色の髪にすこし吊り目になっている蒼眼。クールでありながら、いやそのクールさで美しさを表現していた。

 もっとも、頬や髪……衣装を赤くぬめ付いた血化粧をしていなければの話であれば。


「そして、手に持つ武器は近代兵器チェーンソウですか……。蛮族ですわね」

「後ろにいるのは1分隊。装備はスカーH、わざわざ大口径を持ってくるのは天使対策か?」


 とにかく、多勢に無勢。

 第一目標は救出なのだから、第二目標の資料放棄はこの際外していい。無駄な戦闘は避け堅実に――。

 何故だろう、見られていない。そう、光も音も出していない……完璧であったと言える。

 だが、この突き刺す視線はなんだ?

 あのドローンとカメラ越しではなく、目と目が合った気がした。


「ッ」


 瞬時に後ろに倒れこむようにバックステップ。

 今まで顔を置いていた角が抉れたのち、パンと甲高い銃声が当たりを響かせる。

 やっば、俺は礼の胸に受け止められた頭を瞬時に持ち上げ転進した。ここではダメだ、重機関銃を防げる障害物はない。あるのは、目の前にある自動販売機だけだ。


 ん?と少女の声が聞こえるのを無視して、俺達は駆ける。

 礼が跳躍、角の部分を掴み全員が通り抜けた瞬間地面へと倒した。

 移動が遅いからなのか、ゆずきに持ち上げられながらも俺は拳銃の照準を通路の先に合わせ敵が着た瞬間に撃つ!

 パンと放たれた銃弾は、空気を割きながらも出てきた逆間接のドローンに当たり逸れていく。

 瞬間、真っ赤な瞳で観察した俺は叫んだ。


「バリアだ。9mmAPじゃ抜けん!」

「「なら、僕が」わたくしが」

「だめだ、ブローニングは防ぎきれないし。ヴェロニカはタメが居る……ともかく直線通路はこっちが圧倒的に不利。とにかく、部屋に……出入口が二つ以上ある部屋にっ」


 ズガン!と後ろで銃声。

 側面に抱えられた重機関銃の弾丸がこちらに襲い掛かってくる。

 7.62mmである個人用弾丸のたった1.6倍の大きさと侮るな無かれ。エネルギー計算でいうなれば単純に8倍の威力を持つ、言ってしまえば今までの弾丸は自転車が突っ込んでくるようなものであったが今回は倒木が群れを成して流れるに等しい。

 当たれば穴が開く所では済まない。車載機銃と言う固定でしか扱えない銃は、本当に手足を引きちぎる威力を誇る。

 顔を引きつらせながら必死の抵抗で銃を撃つ。

 ダダダダダダ、カランカランカランカラン。

 火薬のまるでチェーンソウでも動かしているかのような音と、地面を薬室が叩く音がベースとなり激しいヘビーメタルを奏でている。


(精度は良くない。固定機銃として扱うものを逆間接の移動式ドローンに搭載して、尚且つ銃身を切り詰めてる。これまでの弾跡数から見て景気よくパなしてたと考えて銃身も多少変形してるだろう。だが、威力がやばすぎる。掠っただけでも終わりだ、一番身体能力がある礼でも防ぎきれるかどうか……)


 流石は機械、徐々に暴れていた弾道が所々近づいて行って。

 最後尾に走っていた礼が、レーヴァテインを構えながら振り向いた。

 ガコンガコンと鉄板をハンマーで思いっきり叩いたかのような鈍い音が辺りへと響く。

 大きさを感じさせず、くるくると振り回し遠心力を助力とし数個叩き落していくが……ガキィンと甲高い音が揺らしたのを感じ視線を向ければ。

 大きく剣を振りかぶり、いや違う。あれは無理やり持ち上げられたんだ。まるで状態起こしのように正面が隙だらけになった礼の姿が。


「くぅうううう!?」

「礼さん!」

「っち、厄介です、ねぇ!!」


 左手で俺を支えながら、右手で持ったムチを振るい紫水晶の壁を作る。

 だが、明らかに持ちそうにないしゆずきのコアが黒く濁り息も絶え絶えだ。

 これ以上の魔法の使用を決行してしまえば、只の女の子ほどのスペックに下がる。所謂、オーバーヒート状態になりかねない。

 今回は、もしなったとしても供給元である俺が非常に近くにいるため。大人しくしていれば5秒とかかるまい……だが、音速を超える銃弾にとって1秒などコンビニ行ってこれるほどの余裕だ。


『右方向に先ほど貴方が言った条件と適したフロアがありますが』

「了解(ヤ―)。曲がり角でサイドステップ。3、2、1!」


 ベルトからスモークグレネードをレバーごとしっかりと握り、ピンを抜く。

 ぎゅっと、サイドステップの慣性で体が引っ張られながらも通路に投擲するのであった。

 紫色の煙が視界の端に見えたのを最後に、ヴェロニカが蹴破った部屋へ突入した。


「ここは、製造室か?」

「或いは調整室ですかねぇ。どっかで見たことがある透明でチューブ状の培養槽。あいつの研究室だって嫌でもわかりますねぇ」

「しかし、どうしますの?身を隠せる障害物には適してますが……ん?これは、一つだけ割られてますわ。ガラスの破片から内側からでしょうけど」

「それは、今は許容しない。僕は突っ込むから、その直前に後ろにいるであろう歩兵を吹っ飛ばして。マスターこれを」

「えぇ、言われなくても。この緋弓と呼ばれた実力、見せてあげますわ」


 胸のコアからHK416を礼が取り出し投げ渡してくる。

 マガジンを装填し、チャージングハンドルを引き薬室に初弾を叩きこむ。

 アンクルドフォアグリップ、要は銃前方部に追加で付け足した斜めになった握り手を掴みホロサイトの電源を付ける。照準合わせ(ゼロイン)は室内だからしなくていいだろう。

 トップスに繋がり肩パッドから伸びた一体型の長い指ぬきオペラグローブから、紫色のマニキュアが塗られた指が俺の腰を添えていく。ゆずきが、一緒に来てと言う事らしい。

 俺はゆずきと一緒にもう一つ後方の、培養層の影へと隠れた。


 静寂が訪れる。

 迫りくるモーターの機動音と軍靴の固い底が廊下を踏みしめる音。

 ガシャンガシャンと部屋に侵入してくるドローン。その後ろに歩兵がスクラムを組みゆっくりと突入してくる。

 焦るな。焦るな。早い。このまま身を乗り出しても廊下に戻られる落ちだ。

 セーフティからフルオートにセレクターを倒し息を吐く。もう少し、もう少し……今。

 俺は、背を預けていた培養層から立ち上がりアサルトライフルの引き金を引く。

 ダダダダダとアサルトライフルが子気味良く銃弾が発射される。ゆずきも、俺のホルスターから拳銃を抜き出し、自分の胸がつぶれるほど障害物に密着し射撃を開始する。

 瞬時に相手も、ドローンと言う障害物に隠れるが。


「我が焔はあだ名す敵を焼きつぶすものなり」


 銃声に隠れて少女の鈴の音がしっかりと響く。

 炸裂音で気が付くのが遅れたのか銃を向けた際にはすでにタメが終わっていた。


「なれば我が炎火をもっ……良いから早く四散しなさい!チェルノボグ!!」

「詠唱いる!?」

「装飾ですわ。やる気の問題ですの!」


 まるでゲームのように矢じりに炎のらせんをともした火矢はちょうどドローンの間を抜け、スクラムを組んでいた歩兵を一網打尽にさせる。

 相手のケブラー繊維製のボディーベストが溶けている事から500度は軽く超えた爆発だったのだろう。

 そんな事をしてしまえば、空気の膨張とか色々でこっちにも被害間違いなしであるが流石は魔法。そんな事もなく直径5mほどだけを灰化させた。

 それを、天井に張り付いてみていた礼が腕から力を抜き自由落下。

 近くにあったドローンを一刀両断する。


「!?……?」


 魔法障壁を切り裂いて鉄板を切断しささくれのないきれいな切断跡。

 だが、ぶった切った礼は訝しむように表情を曇らせた。

 その違和感は海斗たちにもすぐにわかる事だ。


「な、なん」

「血、だと!」


 油が噴き出るのはわかる。基本的に機械は油圧式が多いからだ。シリンダーが壊れた際にペットボトルロケットの要領で吹っ飛ぶことが多い。

 だが、明らかに油分。正確には工業用油ではない液体の雫が混じっていた。

 それは真っ赤な鉄の液体。一般的に人体に多く含まれるヘモグロビンと呼ばれるものであった。

 じゃあ、中に入っている物はなんだと言うのだろうか?


「く、」

『……そういう事ですか』

「だ、ダルマ」


 そう、ダルマだ。

 ダルマと言うのは中国で生まれ今も日本で縁日などで売られているあの赤い物……ではない。

 両手両足を切断した姿から、まるでダルマのようだと言われ四肢欠損した状態の事をダルマと一部の人が言うようになった。

 長方形の部分に収められていたのは小型化したマナエンジンではない。()()()()()()()()()()()()()だったのだ。


「礼!」

「わかってる!」


 残念ながら一体目は真っ二つに両断してしまっている。そりゃ普通電子機器が入ってると思ってたら、中から脳髄や腸が零れでるわけないと思う訳で。確実に死亡してしまっただろう。

 だが、もう一方は助かる。

 礼は着地した体制からローキックを繰り出すようにレーヴァテインを切り払い逆間接を両断する。その後、ブローニングを切り捨て推定される装甲厚分ぎりぎりで縦に切り裂いた。

 スーツケースに収められるように入った少女を礼はヴェロニカにぶん投げながら、上体を逸らし割り込んできたチェーンソウを回避する。

 ブルルンと回転する刃が礼の三つ編みにされた髪を撫でる。勢いを利用したバク転、その後すぐに敵対者に向けて剣を振るうが。


「!?」

「ふーん。これが寄生体か」


 安易に受け止められ、まるで花火をたらしているかの如く火花が舞い散る。


「つまらない任務かと思ったけど……かわいい子がいるし、食べちゃいたい。そのベネチアン(目元を隠す)マスク素敵よ」

「、まっずい!」

「あら、逃げないでよ。っち、男がうっざたらしい!」


 つばぜり合いから離れたのを見て、リロードが完了したアサルトライフルをすぐにぶっ放す。

 多少仰け反るもののすぐにチェーンソウでガードされる。おいおい、あの紐エンジンを始動させるものじゃなくて持ち手のカバーが展開して盾に変形させるためのものかよ!


「うっそ……ここまでとはね」

「どした、それは……」


 こちらに着地した礼がレーヴァテインに手を添えながら信じられないと目を見開く。

 そこには2cmほどの切り込みが入っていた。


『お気をつけを。そのチェーンソウは科学と魔法を組み合わせた兵器のようです……魔力量が寄生体より少ない魔法少女は魔法だけでは威力不足と判断したのでしょう。回転する刃を何度も当てる事で細胞を削り取るようです。つばぜり合いは控えてください』

「みりゃわかる!」

「切断をしてるわけではなくて、切削しているわけですのね」

「なぁーんて頑丈な鎖鋸なんですかねぇ……」


 鉄板すらバターのように切り裂ける刃、ロケット弾並みの威力を防げる礼が生み出した剣に傷を入れただけで脅威なのはわかる。

 随分と最新鋭の装備を持ちやがって!ここまで装備が充実していると裏に繋がってる話に信ぴょう性が出て来やがる。


「随分と、大剣みたいに改修しやがって。やる気満々じゃねぇか」

「あなたのような汚らわしい男の血を浴びるのが大好きですの」

「そうかよ、だから下に転がってる死体にもわき目を振らないわけね。ミサンドリー(男嫌い)でも限度はあるぜ……っ」


 わきの下を抱えるヴェロニカを見て腰についていたスモークグレネードを全て起動する。

 パチンとバネが飛ぶ音を聞いてすぐに相手の魔法少女も身を伏せるが、これは破砕手榴弾ではなく煙幕。

 視界をしっかりと塞ぎ、横にいた礼からクレイモア(地雷)をもらい乱雑に仕掛けて部屋から飛び出した。


「な、男なのに逃げるとは臆病な。きゃ!」

「プライドじゃ、飯は食えないんだ!じゃあな」

「そういう事でぇ、ばいばーい」

「できれば永遠にさよならですわ」

「まぁ、当たり前だよね」


 急いで駆けつけたのか、炸裂音を聞きながら廊下を走る。

 俺の受けた依頼は、救助と破壊工作。殲滅じゃぁない。殲滅、救助……殲滅、破壊……同じ言葉に聞こえたかな?

 破壊も第二目標だ、余裕がない今知ったことを。救助だけすれば後は問題ない。

 あとは、救助対象がいるかどうかだが。


「どう、しますの?こっちは抱き枕、抱えてますわよ」

「走るしかない。あのマリアってやつが話を通してくれれば面倒じゃないが」

『流石に報告はしておりますよ。テンションの上がり具合と言ったら』

「俺は、夢の国にいる着ぐるみかなんかなのか?」


 と、雑談しながら走っていくが当たりはない。

 このまま、援軍を呼ばれたら数で押されて終わりだ。帰還もマリアが握ってる、どうにかして背中を気を付けながら探さなくては。

 そう思った矢先、キーンと言う不快なハウリングが奥から届いた。


『そこの御子さん!こっちさ』


 HMDのズーム機能で拡大すれば、壁から白く小さな手がひょっこりと飛び出て手招きしている。

 判断に迷っていると、マリアから向かうような催促が。

 俺達は、まるで運動会をしているかの如くコーナーを曲がり、足が地面から離れた。

 階段!?大きく前傾姿勢でバランスを崩しこのまま全身を強打するかと思いきや。


「はい、キャッチ!」


 突如、隣から飛び出してきたものに受け止められる。二つの柔らかいクッションと、白を通りこしてサフラン色(紫がかった灰色)に視界が押しつぶされ。


「よっこいしょっと、ね?」


 少女は壁に取り付けられたアクリル板を壊し、頑丈なレバーを下に下ろした。


 ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。

 また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!

 ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!

 作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします。

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