119節 神の麓
夏風邪ひいた。
磯前神社、それは大洗町にある丘に建てられた神社である。重要文化財に登録された本殿のほかに海岸に浮かぶ神磯の鳥居が有名らしい。
鼻孔をくすぐる自然の山のにおいと共に海から漂う生臭さ。これは幻覚ではない。
ふと見れば、掛けられてる絵馬にはアニメのキャラクターがぎっしりと書かれていて知る人ぞ知る聖地と言う奴だろう。
しかし、何故?わざわざこんな所に魔法を使って連れてきた。
『作戦を説明させてください。タナトス様、失礼。貴方が戦った科学者が政府の子飼いによって襲撃されました。すでに瀕死の重傷を負っています』
「そんで?」
『依頼するのは彼……を救助或いは研究資料の破棄です。治療費と弾代はこちらで負担いたします、また施設に潜入している部隊の内未確認の魔法少女がいると報告されています。貴方方も情報が欲しいのでは?』
……俺はなんでも請け負うワタリガラスではないのだが。
だが、実質人質にされた妹がいて尚且つあの研究者が死にかけているのも気になる。彼は俺達にずっと味方であると叫んでいた。不利とか有利以前に、もっともモルモットとして求めていたのかもしれないが。
ここにいてもらちが明かない。
「敵の人数種別、施設の見取り図、魔法少女の事に関して教えろ。行ってやる、ただし突発的な状況だ正直失敗する確率の方が高い」
「マスター!?」
『話が早くて助かります。施設の見取り図はすでに送りました、生き残り敵種別は突撃銃を装備した歩兵一小隊、二メートルを超える自立ドローン2体。それを総括する魔法少女一名です』
「ドローン?」
『えぇ、魔法障壁を展開したことからマナエンジンを小型搭載したものと考えらます』
「はぁ?それてぇ、あれじゃないですかぁ。軍が使ってる二足歩行ロボットと同じエンジンを、あの小型化は不可能だって言われてた」
軍では大型の機械生命体を倒すためにアニメなどでよくある二足歩行兵器、ドールを運用している。
大きさは10メートルほどの鋼鉄の巨人であり、大きな特徴はマナエンジンを搭載していることだ。
これは、周囲にあるマソを吸収して分解。マナを取り出し、機械生命体が持つ魔法障壁を中和しながら攻撃が可能と言う優れものの機関だ。
わかりやすく言えば、酸性の物にアルカリ性の物を足して中和すると言ったイメージか。
けれど、そんな都合のいい物がホイホイと出来るわけがなく。マナエンジンは3メートルを超え、様々な付属物を考えれば戦車や航空機に乗せる事は困難。故に10メートルを超すドールにしか搭載されていないわけだ。
しかし、アメリカやロシアなど軍事大国が小型化の「こ」の字すらできていないものをどうやって。
『取得データからは出力は弱く、一般の傾向火器でも突破は可能ですが。その分物理装甲が固くなっているのでAP弾を使用するか7.62mmなどの大口径を使用するのがよろしいかと』
「なるほど」
「質問があるのですがよろしくって?」
と、今までの問答に口を挟まなかったヴェロニカが声を上げる。
確かに、彼女の正式所属はロシアであり指揮権はスカーレットクイーン隊長にあるべきだ。
「帰れないから、妹がとられているから大人しく言うと事を聞くと言うのは理解してますわ。ただ、廃棄予定の研究資料を分捕られる……その位は覚悟してきておりますよね?」
『はい、その程度は問題ありません。元々は廃棄を依頼していますので、敵に手に入れられなければ問題ありません』
軽くうっし!とガッツポーズをするヴェロニカ。
その光景を見て、軍人と言えどリアクションは年齢とたがわぬ娘なんだなと再認識。
生暖かい目で見ていたのに気が付いたのか口元を手で覆い、頬を染めた彼女の頭を優しくなでた。
「で、とっとと行こう。細かなブリーフィングは行きながらだ」
「そう、だね。出入口はどこにあるんだい?」
『研究施設の入り口は海岸に浮かぶ神磯の鳥居です。趣があるでしょう?』
鳥居の所をくぐるとそこはいつか見た白い廊下であった。
研究所や病院を想起させる。天井には一定間隔に明かりが設置され人がしっかりと予算をかけて作った施設のように感じられた。
もっとも、見えるのはその名残だが。
所々に銃跡そして焼け焦げたあと。あとはアクセントに血潮か……?
肉片も死体程度、見てもうわっとは思うが戦闘不能にはならない程度には慣れている。が、明らかに粉々すぎる。
視線を転がる肉塊にやれば、無数の穴が開きもはやチーズのようだ。
「そもそも、なんで魔法少女に襲われてる。保安庁と繋がりがあるから襲われないんじゃないのか?」
ヘッドマウントディスプレイを起動し、ナイフとSIGP320Cを構えながら問いかける。
『えぇ、そうです以前は』
「以前?」
『組織たるもの、規模が大きくなればなるほど御すのは難しいと言う事です』
「前置きが長いですねぇ、カッコつけてる暇が有ったらとっととしゃべってくださいよぉ」
『つまりは、派閥があると言う事です。世界で一番多い信仰者を持つキリスト教でさえ、プロテスタント、カトリック、ローマ正教等派生は上げればきりがなく。本天使の教会にも派閥組織が大きく分けて二つあります』
「二つ?」
マリアが言うには天使の教会は二つの派閥が存在すると言う。
1つ目がマリアや俺達が戦ったタナトスなどが所属するアーカム。先導師であり神と人の調停者である御子を支援し、ともに人類を進化させるのを目的としている。
2つ目は御子と言う存在を待たず選ばれた人類だけ進化し、その他の人間を支配することが目的なネームレス。
『最初はアーカムが一大組織でした。キリストと同じ感覚だったのでしょう……しかし、そうなると不都合が出てくる人間が現れたのです』
「不都合、で。ございますの?」
『多分、資本家じゃない?研究のためにお金とか出してるのに、自分たちの傀儡になるかならないかわからない不確定の奴なんか信用できないって感じの』
『その通りです舞様。彼らは、自分たちこそが愚民を支配すると。支配されてしまったら今までのメリットがパーになると、そういう風に考え自身たちが魔法を使えるようになるために研究を湾曲させたのです。現在我々アーカムはネームレスに駆逐されつつあり、一支部であった日本が現在では消去法で一番規模の大きい本部になってしまった事から伺えれるでしょう』
無線に耳を傾けながら、出来るだけ物音を出さないように歩きまわる。ヴェロニカは、廊下と隣接する部屋から色々なものを取り出し、礼が教えた通りに胸のクリスタルにしまっていた。
「じゃあ僕、気になるんだけど。あの夜保安庁の人間と接触していたのは何でなのかな?」
『それは影響力の拡大と視察のためです。資金提供者には政治家も含まれます、ネームレスから新しい商品が納入されたと言う情報を聞き揺さぶりに掛けたのです。もっとも、日本にいると確信した彼らが新商品をこんなに迅速にそして大胆にお披露目するとは思いませんでしたが』
「魔法少女……ですねぇ」
『その通り、何度か天使の失敗作を輸送してもう一つの注文……寄生体の本体。それの配達に来たところで』
「俺達とバッティングしたと」
つまり、初めての接敵は3つの勢力とも不可抗力であったと言う事か。
『はい、完全な不可抗力でした。物品を渡しトンずらした後、スカーレットクイーンと交渉の予定でしたがその前に貴方たちと戦うことになりごちゃごちゃに。しかし、タナトス様も困ったものです……言葉を交わせる寄生体に出会った事で御子様の存在を感じ、捕獲プラス誘き寄せをしようとするのですから』
はぁ、と心底疲れたかのようにため息を付くマリア。
なんというか、正直ならざまぁ無いぜ!と発音したいがこちらに被害が行ってるので、そうですかと有り体の返答だけ済ませる。
30分。30分だ。
この施設がショッピングモールほどに広いのか。或いは、ヴェロニカ達と共に証拠や薬品などを出来る限り回収しているからか。時間が経っていた。
いつからか、それとも妹がやることが無くて暇だったのか。HMDの右端にはサラッとフェイスウインドウまで作られている。
だからだろう……。
「!?」
「これはっ!」
「あれまぁ」
「硝煙……そして銃声だね」
鼻孔を硝煙が揺らし、反響した銃声が4人の体を包み込んだのを。
瞬時に、セーフティレバーを下ろし初弾を装填。礼とゆずきはいつも通り胸のクリスタルから石油のような液体を出し纏い、露出度の高い戦闘衣装を着こむ。
その後、チラリとヴェロニカを見合った。
「そう言えば、ヴェロニカって警察に見られてなかったか」
「あ、あぁ……てへですわ」
ワンピースをうまく着込み可憐な少女を目にして思う。そう言えばこいつ割れてんじゃん!
エージェントとか言って無理やり警察との作戦に保安庁の強力とはいえ介入して、新武器の試験とか言って魔法が使える弓もぶっ放してる。
もし、もしもだ。いや、過程の話ではなく情報通りならお偉い人には伝わるはずで邪魔した人の特徴に非常によくあてはまる奴が居るとなれば……。
「おぉっん前、割れるぞォっ。只でさえ目を付けられてるんだろ、作戦介入、内戦、保安庁とのとりひ」
「あー、あぁー。聞こえない聞こえないですわ!要はドレスコートを変えればいいのでしょう!えぇ、わたくしも思い出して作れるようになりました。ご覧あれ!」
彼女は演劇でもするかのように高らかに宣言し、胸のコアから潰したホースのように勢いよく細胞液を噴出させた。
黒く、オイルのような液体が体を包み覆っていく。
だんだんと、ラバーのような光沢のある衣服へ変化していき……頭には黒く染まったティアラを乗せ首周りにはワイシャツの襟だけ付けたかのような首輪が巻き付いている。
背中部分は大きく開き見える肩甲骨の間にコルセットピアスが垂れていた。
何時ものイブニングドレスは赤と黒が基調となり、スカートの部分が蝙蝠の羽のような形に変わっていた。
変化はそれだけではなく、キメの細かい白い肌が褐色に変化した。これは、今まで貯めこんできたものを遠慮なく吐き出すと言う精神性を表しているのかもしれない。
「これこそが、わたくしの愛のカタチ。ヴェロニカ・イルバージョンですわ」
やや、胸を突き出し腰に手を当てエッヘンとするヴェロニカに対して俺は。
「2Pカラーみたいだな」
「ぐはぁあ!」
と、率直な感想を述べた。
確かに細かな装飾は変わってるよ、全体的にエロい感じに。只……だ。
明らかにその下にある気品と尚且つ、装飾品以外は変わっていない。格ゲーキャラで色変えしたかのようなもうちょっとなんかあったろ感。
「急いで染め直した感がすごいね」
「うへぇ!」
「結局と背中のコルセットピアス以外、あんまり変わってなくないですかぁ?」
そして、それに続くかのように援護攻撃がクリーンヒット。
体をくの字に曲げたヴェロニカは、頬を軽く染めながら。
「あ、あ、あ……っ!じゃあ、もっと変えます。変えればいいんですわよね!」
と、もう一回戻しまた新しい衣装を作り出していく。
上半身がイブニングドレスで露出が少なかったが、今度はV字の紐のような水着を作り出していく。
「どう、どうですの!露出度を上げてみましたわ!」
「まぁ、うん。そっち方面行くんか」
彼女は胸の先端部を紐で隠し、他は全て綺麗なへそまで露出している。ほぼ胸が丸出しのトップレス状態だ。
確かに、大事なところはギリギリ隠れているが……。あ、いや、ゆずきも下乳丸出しだし礼も体のラインが出るボディスーツだから今更か。
「いえ、そうではありませんか。私のプロポーションは完璧……そもそも寄生体の戦闘衣装は自らの細胞で形作るのですから裸体と言っても過言ではありませんわ。そう思えば気が楽になりますの!」
「ふーん。じゃあ、見せつけちゃえばいいじゃないですかぁ。活躍を……ただ妖艶なだけじゃないってぇ」
「そうですわね。戦闘中でも魅惑のこの体、ぜひ焼き付けて差し上げますわ!」
「……いいの、これ?」
「赤面して動けなくなるよりは……良いんじゃないか?」
また違った露出に若干目を逸らしながら俺達は銃声の所在地に向けて向かっていった。
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