117節 事情聴取
別に遊んでから忘れてたわけじゃないのよ。
エアコンが聞いたリビングに熱い日差しを遮るカーテン。冷たい麦茶が入れられたコップの表面に水滴がポタポタと垂れるのは風物詩と言う訳か。
何時も通りの日常、何時も通りの風景。
そんな中、今日は一つの異物が迷い込んでいた。
俺は、一か月前から漂う甘い匂いに混じる、新たなる華気に向け視線を動かす。
そこには、麦茶の氷を揺らしながら話を聞いていた魔法少女。松雪霜に関して思考を照らしていた。
松雪を伴って玄関をくぐったのは午後1時半を過ぎた所だった。田舎特有の無駄に余ってる土地と、部屋の多さに驚きながらリビングの椅子に座り話を話をする。
可愛らしいメモ帳を取り出したのを見て疑問を吐露するが、どうやら提出するものは書面でなればならずボイスレコーダーをそのまま出すのは出来ないらしい。
結局、デジタル庁が出来ても上が老人だからやり方が変わらないと言う事か。チラリと舞にスマホをいじる舞に視線をやれば不可思議な電磁波はない、本当に書類だけでやるらしい。
「まず、貴方の学生手帳は一度拝見させてもらいましたがもう一度よろしいですか?そちらの御二方もお願いします」
「わかりました、こちらです」
「あーい」
「わかった」
通学用のリュックから生徒手帳を取り出す。こう言ったときに楽だなと強く思う。
現在持っている身分証明になるのは学生手帳と会社所属の保険証。保険証には負担いてる会社名……つまり、傭兵であることが書いている。
世間的な体で、怪我をしやすい傭兵は健康保険やらなんやらの加入が義務付けられており、本来なら落ちない銃創やらの治療費も3割負担になるのだが、やはり煙たがれるイメージがある。
その点において、学生手帳はそこら辺にいる市民と同じなので何かあった際にはそちらを好んで提出していた。
「はい、こちらの方確認いたしました。えっと、ゆずきは?」
「私ぃ?学校めんどーい」
「えと、まだ学校決まってないんですよ。意図的ではなかったとはいえ、小学校を中退して5年間も学習教育を行っていなかったので……厳しいくて」
「ぁー」
「ま、そーですね。最悪通信に通いますよ。わったし地頭は良いですし、哀れみより恥ですよ」
と、目を補足してゆずきは語る。
睨みつけるとかそう言うのではない。どちらかと言えば「ふーん」とか「ほーん」みたいな少し抑えた目。
きっと、彼女は何か困った時には手助けをしていたのだろう。それは、育ちの良さかもしれないし本来の優しさかもしれない。
ただ、度が過ぎれば舐められるのと同意味。
だからこその発言なのだろう。事実、次に出す言葉を引っ込めるように唇を縫い閉じ、次の言葉を話そうとしたときにピンポーンと電子音が引き裂く。
チラリと目線をくべれば手を横にしてどうぞの合図。そのまま、玄関を移動し扉を開ければ青い制服を着こなした2名の警察官が。
「実吹海斗宅でよろしいでしょうか?」
「えぇそうですが」
「おい」
「そうか、午後1時38分。家宅捜査令状が出ている……協力してもらうぞ傭兵」
「は?」
どかどかと難しいことを書かれた書類を眼前に見せながら強引に迫ってくる警官相手に、無理やり体を滑り込ませて止める。
それを気に食わないのか紙を持っていないもう一人が俺の胸がらを掴み壁にドンと押し付けた。
「その年齢で傭兵など、生意気な。所詮お前らなど路地の残飯を食い漁るネズミでしかない」
「が、目に付いたらどんなに薄汚れてるか調べなきゃならん。どれだけ蓄えてるか知らんが、おとなしくしろってんだ……おい聞いてんのか!」
「……聞いてますよ、話してください。息苦しんで話せないじゃないですか、それと」
「何事ですか」
物音を聞きつけたであろう、真っ先に駆けつけた霜。目に飛び込んだのは少年を壁に叩きつけて恐喝する警察官の姿であった。
明らかに愕然としながらも視線は令状にしっかりと映り、決意したのかポケットの中に手を入れながら一歩踏み出した。
花のように甘い香りを漂わせる彼女に、これもまた虫のように鼻を伸ばしながら近づく警察の男は舐めまわすような視線で。
「あー、すんませんね。警察官なんですよ、ちょっとお宅の子が備品である拳銃を無許可で発砲いたしまして。この年齢でありながら傭兵に所属してるとのことだったので、怪しいなと思い家宅捜索に来ました」
「と言う訳で、すこしお時間をいただけませんか?お嬢さんは車の中にいてくれればいいですから。冷えてますよ」
「必要ありません」
「はい?」
「必要ないと言いました」
彼女は今までどこに隠していたのかと思うほど威厳のある気配を漂わせ、ポケットの中に入れていた手を眼前に持ってくる。
その掌には身分証明書が収まっていた。警察官だけが所持できる警察手帳、そこに描かれたハナズオウの文字。
明らかにダムが決壊したかのように汗を流した警察官二人組に向け、小さい少女は海斗の胸倉をつかむ手をメキメキとなるほど握り突き放す。
「事情聴取はこちらですでに行っております。家宅捜査に関しては犯罪性がないと私が判断しました……いいですね?」
冷たく刃物のように形成した瞳。
大の大人が十代の女の子に威圧されてる様は、非常に面白かった。
「……わかりました。では、我々の方は撤収させてもらいます」
「それでは」
すこし、表情の変化を見せながらされど公僕はお得意の人のよさそうな顔を作りドアを思いっきり閉めて帰ってた。
ふぅ、と汗を袖で拭い霜の横を通り話し合っていた机に帰る。
「ここまで酷い物ですか」
「何が?」
土間とリビングを仕切るドアの間に佇む少女がポツリと声を漏らした。
余りにも、信じられない物を見た。と、声色でわかってしまってつい返答を返す。
振り向いた少女の表情は地面を見ていてあまり見えない。けれど、何となく憧れていたものが違ったかのような、落胆のような良い事をしたのに怒られた子供のような雰囲気で。
「なんなんですか、あの言い草は。仮にも警察学校を卒業した方でしょうに」
「ま、私はだからだと思うよ」
「え?」
「ゆずきから聞いたけどお嬢様だったんでしょ?なら傭兵について詳しくしらないや。傭兵って言うのは肉盾だったんだよ。9年前の機械生命体が現れた時、たくさんの警察が死んで多くの死亡退職手当を払わなくならないといけなくなったのさ。町の復興費を考えたらもー禿げ上がるってもんよ」
「……」
「で、目を付けたのは会社を破壊されてあふれ出た失業者。こいつらなら公務員じゃないから死んでも国庫減らなくていいじゃんて思った政府は、全速力で民間警備会社法を作って適応。死んでもめんどくさくないのができあがりーって感じ」
そう、それだ。
傭兵、PMC、それらは哀れにも社会で再就職できなかった者たちへの蔑称だ。
たくさんの人間が死に、たくさんの施設が破壊された日本を立て直すのは平和ボケした政治家には不可能だった。
それ故に、平時で行われた支援が全て打ち切られ自分たちの利益を守ろうと動き出したのは必然で、不満が出た貧乏人を黙らせるための言わば穢多非人なのだ。
それが……。
「今や、1警察官より豪華な装備を持っていてお金を稼いで人を守ってるのは皮肉だよね。何時間何万円かけて大学卒業したエリートより、中卒傭兵の方が金もらって活躍してたらエリート精神歪むんだなこれが」
「ってわけだ。実際、こっちが傭兵だとわかれば態度を変える奴らも多い。銃を持ってる奴はきちんと整備されてるかの確認で持ってかれて借りパクされたなんて、ネットワークでよく聞くぜ」
「そう、ですか……」
「でも、僕は貴女みたい人が居るなら。これを見て酷いと思えるほど感情がある人が上に立ってくれるなら、ある程度良くなるんじゃないかなって思う。上がダメだと下がダメになるしね……だからその感覚を忘れないでほしい」
「パンっとね!そぉーんなシケタ話をしてないで、とっとと事情聴取終わらせてゲームで遊びましょうよぉ」
そうですね。と瞼を閉じ、気持ちを切り替えたのか席に着席しようとしたとき。もう一度、ピンポーンと来客を告げる。
さすがに怒ったのか、こちらが止める間もなく霜が扉を開け。
ばったりと、まるでパンを加えた少女とぶつかったかのように眼前に広がる赤髪に驚いた。
「まさか、遊ぶ約束をしていたのですか?臨時休校になったからって随分とまぁ……あの警察官が戻ってきたんじゃないかと言う心配を返してください」
「あら?何を言うと思えば、学生など暇があれば友達と遊ぶなど普通と思うのですが……そもそもわたくしが話した話聞きました?やぁっと遊べるんですのよ!お暇が無いと連絡が無い3週間。どれだけ待ったと思って」
「それはすまんと言うか」
持ってきたお茶とジャムでロシアンティーを作る。冷たいながらも鼻に抜ける香りとイチゴジャムの甘酸っぱさで舌を打ちながらクッキーを食べる。
最低限の仕事はしたとしてゆったりとしながら、保護者のように一定の距離を取りゆずきを見守る霜はポツリと。
「皆さん距離が近いんですね」
と、つぶやいた。
確かに、年頃の女の子が年頃の男の子と肌を触れ合う。性的そして思考的価値観を持つそれは、異質に見えるだろう。
実際には、女性の方が肉食で食おうとしてるのだが……そこには触れないでおく。
「まぁ、色々あれば色々感情とか変わるんですよぉ。もしかしたら助けられてむねきゅん何てことあるかもね」
「そうですか。貴女が言う事ならそうなんでしょう……さて、私はそろそろ御暇させていただきます。親友の様子も見れましたし、雑談楽しかったです。お紅茶もまたぜひ」
コップを流し台に片付けこちらに会釈しながら立ち去れる霜。
俺達は彼女が玄関を出るまで見守った。
一番初めの人物設定とか見やすいようにレイアウト作り直そうかな……。
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