114節 目を閉じて
どうしてこうなった。
おかしいおかしい、と小さく息を吸い込めば湿気が乾いた喉を少しずつ潤す。だが、気管から逆流する女性のにおいが嗅覚を揺らすのだ。
眼前に広がるのは三人の美少女。
いつの間にかに湯を張っていたのか礼は湯船から上半身を乗り出し、舞は後ろで座り、ゆずきは俺の腕を胸で挟んでいる。
「せめてタオルで隠してくれませんかね」
「いやだけど」
「無理ですねぇ」
「私は気にしないから、お好きに」
黒い瞳の前に広がるのは酒池肉林だった。正確にはこの四字熟語自体に女を食い散らかさすと言う意味は含まれておらず、世の権力者が豪勢な酒と食材を暴食する様子であり、じゃあ女の子も侍らせてんじゃねと言う想像によって後世によってつけられた意味だが、確かに眼前の光景ではそのような意味に変化するのが体感できる。
アニメやイラストなどではなく現実で温度も39度と言う訳で水蒸気が視界を隠すほど出ると言う訳でもなく、照明も太陽のようにギラギラしているわけではないので謎の光が局部を隠すと言うわけではない。
つまり、丸見えなのだ。二つの巨大な丸も下腹部のぷにっとした口も全部。
「ん?気にしない?舞も高校生なのだから僕たちと違って恥ずかしがると思っていたのだけれど」
「私はめんどくさがりやだからね。ゲームのイベントが終わった時とか体力尽きて体の隅々まで洗ってもらってるのさ」
「それは、その?」
「もちろん胸の下も下腹部もだけど?蒸れやすいからね。よっこいしょと持ち上げながらスポンジで洗ったくれるから楽でいいのさ」
「まてまてまてまて」
確かに、確かにその通りだが。そりゃお前が「燃え尽きたぜ……真っ白にな」って感じになって要介護要員になるからだろ!今この場で、性欲を持て余す二人を目の前にして言う事か!?
ジロリと胸を湯船に浮かす妹に向けるが、眠たそうにしているばかり。
「なるほど、ある程度慣れてるからですかぁ。魅力が無いとかだったらショックでしたけどぉ……くふっ。きちんと興奮してくれてるんですねぇ。つんつん」
「おいこらやめろ」
「ぉお、なるほど。そうやって大きくなるんだね、勉強になる」
「何を言ってるんだお前は、そんな事より機械生命体に襲われた時に魔法少女と出会った事を話したいんだが!」
「……へぇ、詳しく」
つんつんとなぶるように俺に触れていた指が止まり、きっちりとした視線をこちらに向けてくる。
こういう、きちんとした切り替えが出来るのが二人の性格だろう。
四人と少し手狭だが、元々は祖母が住むように作られていたので座ればギリギリ湯船に付く。俺は礼の胸を踏まないようにして縁に腰かけた。
「――と、言う訳だ」
「なるほどぉ、大体わかりましたが」
「映像に関してはこちらを、最近のスマホは耐水対砂完備だからね。湯船に沈めるぐらいじゃ壊れないし漏電もしない。お風呂で話し合うのに最適でしょ?」
恰好は話し合うのは最適じゃないが、と口から出かけた言葉を飲み込む。妹以外、基本的には露出している所に目線が自然に行く。ゆずきはガン見、礼と俺はちらちらと思考が逸れて噛みまくる。
舞はスマホに目を落とし普段通りだった。
「んん”っ。まぁ、わかりました。もう一度寄生体についておさらいしましょう。寄生体は文字通り人間に寄生する機械生命体です。胸元にコアになるクリスタルが根付いてる事が特徴ですが、それ以外に外見的差違はありません。見てみてください、どうです?胸以外違いがありますか?」
そう言って湯船から立ち上がるゆずき。
そのまま、全裸である事を……いや、全裸であるからこそと考えて体を見せつけているのであろう。
確かに、その体は少女の物だ。差違は胸に埋め込まれた、正確には植物のように生えているクリスタルだけ。目を凝らせば皮膚の下に、根っこのような筋が見える。
彼女は俺の腕を握って、自身のコアに触れさせた。
「コアは心臓と肺を合体させたかのような器官です。これに損傷を受けると致命傷になります、逆にそれ以外であれば肉体の損傷はマナによって治療できます、具体的に言うと頭千切れても1時間ぐらいは生きてられます。コアも、多量のマナを使用すれば問題ないです」
「それは、何となくはわかるが」
「逆に言ってしまえば、この部分にコアがないと不自然になります。思考をつかさどる頭部とエンジンの心臓……両方に一番近いのがここなんですから、わざわざ遠い所に持っていく意味がないですね」
「そもそも、寄生体は非力な存在だから遊んでる暇なんてないしね」
確かに、あの寄生体もどき……天使と呼ばれていた人口寄生体も半分に欠けていたとはいえ、コアの部分は谷間の上。鎖骨の間にしか見られなかった。
「マナによってコアはある程度隠す事が出来る。逆に言っちゃうとマナが不自然に溜まってる状態だから同族には一目同然なんだけれど」
「逆に、人間にはマナを感知する機器が無いのでわかりません。マソではないので。だから戦闘においては少しでも回すために基本隠しません」
「そう、だから寄生体ならマナの動きが肉眼で確認できるから実際に見たいって何回か言ったわけ。多分、マスターならもっとはっきり見れるんじゃないかな?時間制限かかるだろうけど」
なるほど、合点がいった。ずっと、テレビ越しでコアがあるのかないのかは隠されている可能性があってわからない。マナの流れを見えるわけだから、半分なら天使の可能性があると判断できると。
それには同意出来る。
「それより、あれをどうやってやってる技術の方が気になりますねぇ。あれ、そこまで変わってないですよ……わかりやすく言うと30円のバッタもんコーラ見たいなぁ?」
「……なんかすごいわかりにくいたとえじゃない?」
「舞ちゃんはわかるけど、君って元々お嬢様だったんだよね?」
わぁ!とお湯をかけあう、少女たち。
ぷるんと揺れる果実を脳内にこびりつかせながらふと、考える。
一瞬、そう一瞬だ。
俺は、アネモネと名乗る両刃刀使いの少女を手助けする際……魔法をためていたカトンボを落とす時、少しだけ魔眼を使っていた。
その刹那彼女の体内を流れるマナの流れが背中……具体的には脊椎の上お腹の裏。胸椎と呼ばれる所に集まっていたのを。
「はぁ……アネモネさん。いえ、一華さん話を聞いて?勝手に出撃しちゃだめなのわかりますか。もし、私達が倒れちゃったら誰が守れるって言うですか……」
「そんなことを言われても、救える人は救いたいから!」
「えぇ、貴女の志は素晴らしいですが話を聞いて?」
此処は関東統合都市にある地下施設に二人の少女が歩いていた。
片や猪突猛進、片や話を聞かない相方に振り回される少女。
スノーホワイトと呼ばれていた女の子、松雪霜は頭頂部に手の甲を当てながらため息を付いていた。
今回の件に関しては不可抗力と言わざる負えなかった。彼女二人が現場に駆け付けたのは一華が突撃したのが発端だったし、何よりの理由は近くにいたからにすぎない。
(はぁ……昔の友達と話して舞い上がってしまっていたら巻き込まれてしまいました。どうせ報告書など彼女が書けるわけありませんし、私が仕事をしないといけないのでしょうね……とほほ)
魔法少女と言う技術は想像を絶する時間と費用が掛かっている。きちんとしたバックアップ体制を確立した上での出撃が義務図けられている。
それらの多大な責任の対価として、基本的には平日でも休暇が取得できる。
と言うか、これらの作戦行動が無ければ訓練などを除いてフリータイム。パートやアルバイトと同等の時間で基本給は平均の二倍で保険も完備の緊急手当てもある。
そこら辺は公務員きっちりとやる。故に、このような単独行動は見逃されない。
「やっと来た」
ふと正面から声が掛けられる。反射的に視線を前に向ければ、壁に寄りかかりながらこちらを見つめるハナズオウのリーダーである跳戸梨花の姿。
腕を組み目線は細目で、明らかに不機嫌ですと言うような態度と気配をまき散らしながら彼女は壁から立ち上がり。
「何度言ったらわかるの?きちんと報告連絡相談をしなさいと、一華!魔法少女はまだ発展途上の技術よ、データも安全性もまだ不安が残るのだから大人しくなさい」
「しょ、しょうがないじゃないか。目の前に襲われてる人が居れば、正義の味方として助けるわけには」
「保安庁所属です。そんなフィクション現実にはありません……貴女もです霜さん!なぜ、貴女と言う人が居ながらこんな事を」
「いえ、それは。私の力不足と言いますか」
「もういい」
青いメッシュが流れた髪を揺らし、彼女は肩掛けバックの中に入っている物をぶん投げた。
「診断後にきちんと報告書を書きなさい、返事は」
「「……はい」」
「よろしい、調整室まで駆け足!」
脱兎のごとく走り、調整室へと駆け入る。
調整室は主に魔法少女の力の源であるリザレーションを整備、調整する部屋である。
内装はSFなんかにある実験室と保健室が合わさったような感じで、出入口のすぐ近くには着替えられるようにロッカーが備え付けられていた。
なれた手つきで衣服を脱ぎ、全裸となる。
「はぁ、なんかいやっても恥ずかしいなぁ」
「そんな事を言ってないで早く終わらせましょう?このデータも報告書に必要なのですから」
「でもでも、スタッフには男性もいるじゃん」
「あくまで、精密検査と同兆のために仕方ないのですから。それに、裸体が表示されるわけではないのですよ」
はぁい、と両手で胸と性器を隠す一華と通常通りの霜がぺたぺたと裸足で設備に向かって歩き出す。
それは、カプセル状のベットだった。半透明なプラスチック製のカバーが前面に、まるで揺り籠が手を開くように空いていた。
手前には何かを入れるようなくぼみがあり、慣れた手つきで変身器具であるリザレーションをはめていく。
その後、ゆっくりと足を上げ装置の中に寝転んだ。
「なにか、嫌なんですよ毎回」
「え?どうしたんですか」
「病院で過ごしていた日々を思い出して。この自由は夢で、今もなおあの雪のように白いベットの上で見る夢なんじゃないかって」
「だいじょうぶですよ、瞼をつぶって。深呼吸をしながら……ね?」
横目に見れば目を閉じる一華の姿が。
それに合わせて私も睡眠の世界に沈んでいった。
横倒しになっていたベットがカバーのカプセルが閉じるとともに、立ち上がる。その姿はまさしく試験管のようだった。
ブクブクと下方と上部から淡い緑色の液体が培養層を包み込み、無数のコードが彼女たちの体を巻き付ける。
まるで、拘束具のようにそこかしこに針を突き刺し中和剤を投入すれば同化していた部分がまるで、息継ぎをするように浮かび上がっていた。
背中の脊椎にまるで目玉が付いた肉の塊のようなものが埋め込まれ、霜にはそこから少しだけ伸びる軟体のコブのようなものと、昆虫のように這える足の姿を。
うっすらと開いた瞳が赤く光った気がした。
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