112節 あれ、この娘だめかもしれない
2023/12/16
一部描写を修正
それは、まさしく幸運と言わざるおえなかった。
アネモネと名乗る魔法少女が後ろ向きに放棄した拳銃を礼が、パシッ!っとキャッチしたのだ。もし、礼ではなかったら怪我では済まない速度であったが、寄生体である彼女には容易。
そのまま、すぐにこちらに拳銃を渡してくる。
これは、SIGP220か。スライドに桜にWの刻印がある。
「ナイスキャッチ」
「当然だね」
「しかし、ハナズオウと言えど自衛隊時代のおさがりか……武器が手に入ったんだから文句は言えねぇが」
軽くスライドを引き薬室内にきちんと装填されているか確認する。先ほど投げ捨てていたから心配だったのだが、暴発からの閉鎖不良には陥ってはなさそうだ。
残弾数は一回撃っていたから7~8。シングルカラム特有の装弾数の便りなさ。フレームも金属を多用しており重い。
だが、武器が偶然にも手に入ったの心の安寧につながる。
そのまま、彼女が敵を殲滅してくれればいいが。
「……やっぱり、出力が弱いね」
「プレイヤースキルで補ってる感じかな」
あの扱いにくいであろう両刃刀を使いこなせてるのは凄いが、明らかに速度と攻撃力が足りていない。近接特化の礼なら蹴りの時点で仕留めてたし、ゆずきなら鞭で振り回しながら立ち回っているだろう。
見ていれば敵の攻撃によって軽く打ち上げられ、クレー射撃のフリスビーのように無防備な状態。
よく見れば、飛んでいる奴が魔力をため決めようとしている。
「っぅ」
瞬時に狙いを定め引き金を引く。
金属特融の重めなトリガープル。何時もより力を込めてはなった弾丸は寸分の違いなく、形成された魔力に向かって飛来し暴発した。
ほんのりと赤くなった目を、銃器資格で隠しながら。
「俺は、銃の使用資格を取得してる!お荷物にはならないから弾を投げよこせ!!」
「ぇえ?いきなり何を言ってるんですか!」
「敵から視線を逸らすな、後ろは気にせず敵を倒せ」
発砲者が幼い事に気が付いた彼女は後ろに振り向き叫ぶ。
そんなアネモネと名乗った少女に向けて気にせずにもう一度銃を撃つ。放たれた弾丸はドレスが無い大きく開いた絹肌を傷つけようとしてた刃を弾き出した。
金属がぶっ叩いた音と火花によって状況を理解した彼女は、振り向きながら両刃刀を回転させけさ形切りで一刀両断。
エインヘリャルを切り捨てながら、多分ポケットから取り出したのだろう。剛速球で投げ渡してくる。
「私、正義の味方ですから。本来だったら学生の手を借りてはいけません……でも、負けたくありませんから」
「そう言うのは、生きて帰ってから言うもんだ!礼、妹を背負って下がれ」
「わかった」
受け取った予備マガジンをズボンのポケットに入れ俺は機械生命体に向けて走った。
銃には最大射程と有効射程と言う概念がある。最大射程は弾が45度で飛んでいく距離で、有効射程は現実的に敵に当てられる距離である。ハンドガンは良くて50メートルだ。
この、旧式で回収もされていないであろう自衛隊時代のおさがりとHMDがない状態ではまともに狙いをつけるには半分の25メートル以下が現実的。
魔法少女のお手並み……近くで拝見させてもらおうか!
こっちだって伊達に夏休み中戦闘をしてたんだ。場数も違うし、精華さんと空き時間に訓練をしている。回避に集中すれば接近戦でも捌けるさ。
「上の奴は俺が叩き落す。あんたはその重装歩兵を頼む、こちとらドッチボールでは最後まで残るほうでね」
「……頼みます。今から貴方は戦友です」
その言葉を耳にしながら空を飛んでるカトンボどもに向かって発砲。まずは、その見下ろしてくるのを落とす。
パンパン!腕が捥げた機械生命体の腰に付いている羽。マナによる常時飛行で少しでも燃費を抑えるために耐久性は薄いアルミ並みだ。ハンドガンでも貫通できる。
パキンと生命線が容易く叩き落され、重力と言う絶対力に逆らえずフリーフォール。
基本的に空に居る生き物は足が退化するものだ。もし、耐えられたとしてもダッシュなど激しい運動は出来ないだろう。
「せぇあ!」
一方、アネモネと名乗る少女は敵の中心で大暴れしていた。
突き、横なぎ、ジャンプ切り。そして、最後にとどめをさすと手際よく敵を刈っていく。
そして辺りを見渡すと中心部の避難民に突撃するエインヘリャルが。
「どっせい!」
アネモネは両刃刀を分離させ逃げた機械生命体にむけ、半刀を蹴り飛ばした。ザクリ!と深々と突き刺ささり吹っ飛びながら機能を停止する。
武器を片方捨てたと判断したドヴェルグが一気にメイスで叩きつぶそうとするが。
「ほぉい!」
いつの間にか足につけていたもう一つの半刀を駆使し連続で刺し殺す。
「ごめんね。結構足癖は得意なんだ。こういう風にね!つむじ斬り!」
バク転?違う。逆上がりの容量で前進しながら股関節から真っ二つに切り裂いた。さしずめサマーソルトキック。
よし、と小さくガッツポーズをし後の一体を探すが突如最後のエインヘリャルがこちらに吹き飛んでくる。
それをびっくりしながら回避し、擦れ違いざまに両断した。
視線の先には蹴り飛ばしたであろう三つ編みの少女がいた。
「ふぅ」
「助かった。けど、背中に乗ってる舞が」
「あば、あばばばばば」
「仕方がないよ。こっちは仕事をしたけど相手は抜かれた……マスターに妹を守れていわれていたから蹴り飛ばすしかなかった。飛んで行ったのは偶然だよ偶然。」
ハイキックの影響でパンツがもろだし状態だがうろたえる様子はなく、こちらに向き直り多少不満そうに胸を揺らす。
後ろでは目を回しながらしがみついている舞の姿が。
確かに、いきなり0から時速50は反動で目を回すわな。舌をかみちぎってなかった分マシだと言うものを。
「今のは……」
「おい、どうする?」
「へ」
思考にふけていたのであろう、固まるアネモネに3人は歩み寄って指示を促す。
この場で一番指示が出せるのは彼女であろう。いくらPMC所属だからと言ってこっちは非正規だし年齢も若い、舐められるだけだ。
「このまま、ここにいるのか?それとも避難所に行くのか……俺は学校に行こうとしてたんだが」
「えっと、そうですね。市役所も手かもしれませんよ、あそこは警察署と病院それぞれ近いですしここから歩きで10分ほどです」
「……だが、この大人数守り切れるのか?」
「それは」
辺りを見渡せば座り込む老人や子供の姿が。
車、無理だろう。何処も事故って埋まってる、かと言って歩きで行くとなれば座り込んでる者は捨て置かないといけない。
尚且つ、ヒステリックでも起こされて隊列を崩されたらカバーできるほど人員が居ない。
「こちとら傭兵だが、何でも屋ってわけじゃない。第一に自分の命優先、仲間優先、そして有象無象だ。でも、あんたらは違うんだろ?公務員」
「いやな言い方ですね本当に……でも、何も言い返せないっ」
「……あーしんど、ねぇ。ハナズオウってテレビに見たときに13人ぐらい居たんだけど、応援は?」
「あ」
「あ?」
「忘れてた」
おい、と鋭い視線を向けるがだって新社会人一年目ぇえ!と先びながら携帯電話を取り出す。
携帯電話の回線なんて圧迫されてるからダメだろ、そう言いながら彼女の腰についてた無線機を投げ渡した。
わわわっとと、落とさないように必死に手を動かし結局落とした彼女。有線式なので地面には落ちず宙ぶらりんになるはずだが……。
「あ、あー。こちらアネモネです、聞こえますか」
『――。アネモネさん!こちらはスノーホワイトです……貴女はどこにいるんですか、今機械生命体が』
スピーカーモードになっているのを指摘せずに耳を傾ける。
もしかしたら何か役に立つかもしれない。
「その件なんですか、図書館前公園で市民を保護しました100人ほど。今、傭兵と一緒に守ってますけど手がたりませぇん!助けてください!」
『はい?勝手に行動して貴女と言う人は……わかりました、私が近いのでそちらに行きましょう。警察官も連れいていきます、よろしいですね』
電話の返答に来たのはスノーホワイトと呼ばれるこれもまた少女であった。スクリーンが付いているわけではないので確証はないが。
その吐息が混じった癒し系の優しい声から聖母のイメージが出るが、どことなく血管を浮き上がらせているのが想像できる。
アネモネと名乗ったこの少女、本当にただ魔法が使えるから採用されただけ?
「ハナズオウって案外ガバイ組織なのかもなぁ……」
「こんなのに、うちの相続税取られてんの。政治のやみだね」
はぁ、と兄妹は深くため息を付いた。
「……あれは確かに僕たちが使う魔法のそれだ。けど、コアは見当たらない……人が人の形でどうやって」
礼だけは若干にらみつけるようにアネモネを見て、桜色の唇をへの字にゆがめていた。
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