111節 アネモネ
なぁ、知ってるか……花粉症はな……、執筆作業にすごく影響するんだぜ……。
目が、めがぁああああ!(ム〇カ大佐)
何気ない一言、何気ない日常。
それを割いて引き裂いたのは電線に乗った鳥たちが一斉に羽ばたく音と、耳を穿つ警告音であった。
ウォオオオオン!と人間の危機的本能を逆なでする不快音。
「なんだ?」
「っ、ぉう」
「マスター!多分来てる」
「んな、獲物が少ない田舎にか」
何でこんな所に緊急警報が……っ!
寂れた商店街に、古く音割れたスピーカーからサイレンが流れ出す。反射的に腕を腰に回すが空を切った。……そうだ、学校だから銃を持ってきていない。
礼の胸に手を突っ込んで取り出す。いや、ダメだ。いくら過疎地域だからと言って下校中の学生が見ているかもしれないし、監視カメラを無効化するためのハッキングツールを舞が持っていない。
「っ、急いで戻るぞ」
「わかってる」
こういう時に一番頑強と言うか、都合が良いのが学校だ。元々避難施設として指定されているから自然と人にまぎれる事が出来るし、警察官もこちらによって来る。
あとは、交番のお巡りさんの仕事に期待するしかないのだが。
「ごめん、少し遅かったみたいだ。あそこ」
「げ」
「な、くっそ。アリみたいに地面から出て来たってのか!?」
礼が指さす方向には無数の白銀の装甲が歩いていた。
二車線の道路を埋め尽くすほどの大群。路肩に駐車していたワンボックスカーを鬱陶しいハエを払うかのように吹っ飛ばし、獲物を求め大きな巨体を前面に推し進めている。
それは、城壁が迫ってくるかの臨場感と偽現実を植え付けてくる。周りの人も一瞬動きが止まっているから、同じことを感じているであろう。
そして、一番動くのが速かったのはこれを一度以上目にした者たちであった。
「下がれ!」
具体的に言うなら海斗たちと夏休み中、或いはどこかで機械生命体に襲われた経験がある者たち。俗に言う経験者だ、面構えが違う。
あるものは身を翻しながら車に乗り込み、或る者は子を抱きかかえ走り去っている。
突如、ポーンと何かが吹き飛んだ。20センチほどの楕円形だ。
今だ唖然とする観客たちにサプライズプレゼントとして、頭部が届けられるとまるで悪夢で目が覚めたかのように一斉に走り出した。
「とにかく走れ、コケると人に潰されるぞ。経験済みだ!」
「駅、じゃ……なくてよかったねぇ!あにぃ!!」
「マシってだけだが!礼、舞をしっかりつかんでくれ。銃、無理だ……こんな所で持ちだしたら自衛するとか言って引き金すら知らないバカ者に奪われかねない」
出来るだけ大通りを進みたい。
辺りを見渡せば寂れた商店街は何処かしらをぶつけたのか防犯ブザーの音と、老若男女がコンクリートを靴で叩く音がベースドラムのように繰り返す。
こんなとこで、細道に行ったらすぐに終わりだ。
ここは……上に行って図書館の近くの公園を経由し、スーパー前を走って学校に向かおう。何かあれば図書館やスーパーに退路を変更できるかもしれない。
が……。
「やばいよ兄、公園ふさがれてる」
「ふざけんな!公園内に大型トラックが突っ込んでんじゃねぇ!」
そこには横転した大型トラックが、この状態では側面の道路もふさがれていると言っても過言ではない。
中からは、運転手を始末したのであろう片腕の刃を真っ赤に染めた機械生命体が見えるだけで12体。
退路は、すでに人の壁が形成されていて戻ろうとするものと入ろうとするもので中心がサンドイッチになっている。
「や……べぇ」
「あ、あ、あ」
警備員、いや、市営の場所だから武装した警備員なんて住人から非難が出るから置けないか。いま、上半身が分かれてるのが視界の端に見えた。
役立たずぅ!
そして、それを見た一部の人間が錯乱してさらに混乱を生み出すと言う悪循環。
どうする……もういっそ、そう思って礼に寄った瞬間、隕石が落ちてきた。
ドカンと土煙と千切れ飛んだ青草で落ちて来たものは伺えない。芝生のど真ん中に着地したそれは右手に持った剣を払うように空に向けて切り払い決意を示す。
それは一人の少女であった。
黒髪に金色のメッシュが所々に入りポニーテールに後ろを流している。服装は胸元を大きく開いたレオタード風の衣装であり、青、黒、金の三色を基調としたファンタジー世界にあるようなドレスにへそ部分には花のようなリボン。
そして、左肩にはマントのようなものが取り付けられていて右手に構えるのはまるで棒ロボットアニメのビームナギナタを連想させる。
足にはスケートシューズのような刃が装着されていて左手には拳銃を持った少女が剣を天に掲げ宣言する。
「私達は、ハナズオウの魔法少女……アネモネ!ここからは、通行止めだよ!」
一人の魔法少女が今、希望のために立ち上がった。
ゴッとまずは右足を一歩踏み込み魔力を使ってブースト。一瞬にして白銀の怪物、エインヘリャルに突貫した。
まずは、近くに居た怪物に向かって両刃刀をペン回しのように回転させながら上半身を切り裂いた。
一人を倒しても息は吐けない。瞬時に近くに居た大柄の個体であるドヴェルグが、所持してるこん棒を用い横なぎ。
コンクリート製の壁を壊す脅威を瞬時にバク転し回避。次は、右側から来たエインヘリャルの素早い刃を再度バク転し回避する。
次は上から来た、腰に昆虫のような羽がスカートのように生えているアールヴが両手に生えている弓のようなエネルギー放出機関が光っているのが見えたので、左手に持っている拳銃を向けて撃ちこむが狙いが甘いのか弾丸は太陽の方角へと変化球のように曲がっていく。
「っく」
左手の拳銃を後ろに投げ捨て、敵の魔法矢による攻撃を回避しながら両刃刀を分離させ市民に当たらないように弾いていくが、敵はまだたくさんいる。
甘い詰め方をしたエインヘリャルの右手を両断し、逆上がりの補助板のように踏みながら羽虫のように飛ぶアールヴに蹴りを叩きこむが浅い。
そのまま、着地を鈍重なドヴェルグのこん棒が掬い上げるかのように迫ってくるのを武器でガードするのだが衝撃を殺しきれず、まるでバレーのトスのように撃ちあがったのだ。
無論、最後にくるのはスマッシュ……先ほどの蹴りのお返しだと言わんばかりに両腕を前に伸ばし、高密度の魔法を放つ。
前に、バンと銃声が当たりに響き渡った。
貯めていて魔法に当たったからか爆発四散し、アネモネは地面へと押されるように着地する。
両手に持った剣を合体させ正面から来たエインヘリャルを一等両断し、遅れてやってきたドヴェルグを視界に入れずに腹に突き刺す。
両刃刀を引き抜き返り血を吹き飛ばしながら視線を向ければ、放棄した拳銃を構える少年の姿がそこにあった。
ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。
また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!
ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!
作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします。