107節 赤い糸
新関東統合都市のある地下。白い鋼鉄で出来た廊下を歩く少女たちが居た。
もし、ここに世間の事情に喧しいものが居るのなら……彼女達が魔法少女であるハナズオウのメンバーである事が理解できるであろう。
戦闘の女性がポケットに忍ばせていたカードキーをかざせば、目の前にある重厚な扉が予想に反して滑らかにスライドしていく。
目の前にあったのは無骨で大きな車であった。それこそこの少女たちが全員乗っても余ってしまうほどに。パトリアAMVと名図けられたフィンランド産輸出仕様の装甲兵員輸送車であった。
態々見られてもはっきりとした所属がバレないように、内々で輸入してきたらしいけど。もっとも、政府のお偉いさんが考える事なんてあまりよくわからないわ。こんな事に使うならライセンスを買えばいいのに。
「ええ、本当に俺達だけで行くのかぜ!」
「えぇ、私達はSS以上に自由裁量件が認められています。公僕たちが場を整えてる間にとっとと実戦戦績を重ねなければ資金がおりません。それに、まだ引率が必要な年齢なのですか?」
たっくよ、と吐き捨てるのは男勝りな一面を持つ紫の髪をなびかせる少女。
それをバッと切り捨て運転席側に乗り込むのは、テレビでも映っていた跳戸梨花であった。ぶっきらぼうに皮肉を交えながらバックミラーに映る仲間たちに視線をやる。
魔法少女機関ハナズオウは13名の魔法少女を所有している。無論、後方支援などを入れればそれ以上の人数なのであるが今は此処に居ない。
それだけ、魔法少女になるには素質ありきなのだ。故に、一定以上の素質があればある程度の不祥事は黙認して動かなければならないと言う事で。
「すみません。おくれました」
「おそいぞ、実戦で孤立したらどうするつもりなんだ」
どたどたとまるで、遅刻した生徒が教室に駆け込むように急いで乗り込んできた茶髪の女性。彼女は悪い意味で有名だった。
所々でやらかすドジっ子、メモを渡してるのにお使いが出来ない、チークひっくり返し女と悪い異名と類稀なる戦闘センスで上位の実力を持つアタッカー牡丹一華であった。
毎日やらかしたすえ小言を言われる……これが彼女達の日常であるのだ。もっともこの場でやられるのは迷惑でしか何のだが。
「あらあら、良いではありませんか。戦闘でミスをされるよりか遅刻の方が数倍マシ……と言うものです。幸運と不運は平均化すると言いますし、ね?」
はぁ、と小さくため息を付いて私は席から腰を浮かし私は緩衝材になるべく口を開いた。
よく貴女の声はこう華やかで芯が透き通っているねと言われたことがあった。もう、話していた彼女は遠い所へ昇ってしまったのだけど。こう言った点で私のウィスパーボイスは良いのかな?
「まぁ、ここでグダグダしてても仕方ありません。乗車」
「はい」
そうして彼女は後方の扉を開けて駆け込んでくる。
9月と呼ばれれば猛暑は過ぎ去り少しは落ち着く季節だと思われるが、未だ暑さは変わりない。汗をかいている一華に彼女は折りたたまれたタオルを手渡しする。
「霜さん。ありがとうございます」
「いえいえ、ですが本命を言うのはあまりお勧めしません。誰もがカメラを持ちうる社会……警察が門前払いしているとしても何処から個人情報が洩れるのかはわかりません」
「そっか」
「ハナズオウには未成年もいるのです情報は気を付けて。私もこう見えて中学生ですから、松雪さんだったり霜さんと言うのは控えた方がよろしいと思います。愛称のスノードロップと呼んでください」
こういうものはぱっとした所から漏れる物。人の噂も七十五日と言うけれどそれはインフラが整っていない過去での話。今では一生残り続け改悪される……私はそれで犠牲になった人を知ってる。
もう、誰かの上に立つ事はやめました。それでもお節介な私に背中を押させてくださいな。
「なぁ、何で俺達は銃が無いんだぜ?」
「銃なんて必要ありませんね。私のデータによりますと、マナを活性化させた機械生命体は魔法障壁を持ち物理的なダメージを一定量防ぎます。それが、10以上打ち込んで対処と言うのですから費用対効果がありませんね」
眼鏡をくいっと上げタブレット資料に目を落とす新夏香眞純。大方、私達が持たされてる武器に不満を持っているのだろうか。
性能的には信用はしてる。けど、接近戦が怖いと言うのが正直って感じかしら。
「ですが、私達魔法少女は相手の守りを破る武器と相手の攻撃を防ぐ盾があります。そのコスチュームは各々に設定された一番効果が高いものです」
「なるほどだぜ……何でこんなコスプレしないといけないかと思ったが」
「出なければ、こんな格好しませんよ」
私もため息を付きながら視線を下に向ける。
ビキニ水着を着用し、上に申し訳程度に羽織もの?マント?を付け下半身はスカート。いや、スカートかコレ?横にある結び目を引けばすぐに麗しき乙女の素肌が垣間見えるだろう。
いや、うん。銃を使った耐久テストでこれが一番固いと思いますを体験はしたけれど――っ!流石にこれは無いでしょ!
ダメダメよ、こんな事を考えては。また羞恥心で顔が真っ赤になって笑われてしまうわ。
私は、自分の武器である指輪に備え付けられた糸を確かめるのであった。
「っし。敵は歩兵型のエインヘリャルと高速型アールヴ。戦車型は無し……いや、歩兵型の重装甲持ちのドヴェルグが居るよ」
「各員恐れるな。我々を傷つけることなどできはしない。ゲーム感覚でやれ」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」
さて、始まった初めての実戦。彼女達は今まで管理されてきた環境と状況で鍛えられてきたが果たして、名だけの案山子なのかがこれで決まる。
まずは、各メンバーが2か3人チームで分かれコンテナヤード内を走っていく。
元々はここは埼玉県内で一番流通が多い場所である。しかし、機械生命体の襲来によって東京が瓦礫の山。
東京を中心に一定範囲警戒線と干渉線が出来、ここは干渉線の範囲内であった。だから、人の気配が建物の割に全くないのである。
そんな廃墟の中13人の美少女たちは白銀の化け物相手に大立ち回りをしていた。
槍を持った紫色髪の少女を前衛に霜はドンドン全身していく。糸を使って相手の体制を崩し、そこに前衛がとどめを刺す。
順調ですね。そうアイコンタクトをし、担当エリアの最深部に入ろうとしたとき曲がり角から宙に浮く高速型に歩兵型。
「前方にドヴェルグ1、側面にアールヴ3でござる!」
「了解です。私はアールヴを落とします、その間の足止めはよろしくお願いします」
「任せるでござる!」
露出度の高い甲冑を着込んだ少女が、目の前の鎧に向かって吠えながら槍の切手先を向ける。私も、求められた役割をしましょう。
視線をこちらに移せば空を飛ぶ相手も自信を脅かす敵だと認識し、腕に備え付けられたボウガンのようなものから魔法で出来た弓を発射してくる。
光の翼を放つ高速型から発射された赤い色の矢を、まるでダンスするかのように霜は回避し手に持っていたコインを相手に向けて投げたのだ。
しかし、その投擲物は敵の顔一つ分右にずれ外れる。それを嘲笑するように雫顔を持つ怪物は小刻みに震えもう一度、コンクリートが融解する威力が込められた魔弾を放とうとするが。
『!?』
「いらっしゃい」
ガッとまるで万物に逆らえぬ重力のように強い力で一体が地面に叩きつけられた。
何故?そんな事を考えられない化け物は身に巻き付く透明な糸に気が付かない。先ほど投げたコイン……アレには5円玉のように中心に穴が開けられていて、そこには魔力で編んだ糸が付けられていたのであった。
これが霜が持つ魔法、糸を指輪を起点に生成しクモの巣のように絡めとる。
「糸、たったそれだけ。けれど私の編んだ特注品……力を込めてしまえばこうやって――っ!」
リボンを持つ手を思いっきり引っ張ると、じわじわと装甲を貫通し体内に肉を切らせ侵入してくる。透明な糸が少しずつ青く染まっていく様は、一種の工芸品のようだと思えてくるだろう。
そのまま、足りない腕力を補うべく遠心力を使いアル―ヴをコンテナに叩きつけたのだ。
「いつ見ても気分がいいものではありませんね。さて、残りは2体」
物言わぬ骸となった機械生命体から血のりを落としながら回収し残った敵に相対した。
残った怪物も一人は、地面に叩きつけられぬよう糸を引っ張たら勢いを利用され飛び膝蹴りを食らい。もう一体は逃走を試みすでに貼ってあるクモの巣に絡まり落ちていった。
「おわったでござるかぁ?」
「えぇ、ありがとうございます」
「拙者はだいじょうぶでござるよ。いつも通りに」
「わかりまし……った」
ドヴェルグは歩兵型の中でも非常に硬い装甲を持つ重装歩兵だ。外見としてはフルフェイスの騎士のようなもので身長は2m半と巨大。大きな盾を振り回している様はまさしく怪物だ。
故に、生半可な攻撃はほぼ効かず槍による刺突は分厚い障壁で逸らされ油断すればバッシュが飛んでくる。
せめてもの救いがエインヘリャルよりは遅いことだろう。と言っても時速30kmは出るが。
故に、私の仕事は糸により高速しマナがなくなるまで殴り続ける彼女の補佐。
まずは、先ほどと同じようにコインを投げる。今回は、コントロールできる10こすべての投擲です。それを、関節を固めるように絡ませて後は踏ん張るだけ。
「ぐぅ――っ!このタイミングだけは私の体重が軽い事が裏目に出ますね」
まるで、胸を防ぐように糸から伸びる腕をクロスする。もし、握る握力を弱めてしまったら指が逆パカ……或いは千切れ飛んでしまうだろう。
湿気が多い夏の夜だからか、それとも緊張の影響なのか……。緑色の髪が汗の影響で垂れてくる。
長くは持ちこたえられない、そんな事は前衛もわかってる。今までの牽制的な攻撃をやめスケートでもしてるかのように勢いをつけ、時には回転し頭部を弾き飛ばそうと奮闘。
「これで……どうでしょ!」
何度かの打突とフルスイングによって頭部が宙に舞う。安心してはいけないこれでもまだ生きている。
そのまま、紫色の少女は天高く跳躍し切断面に向けて槍を突き刺した。
パキっと何かが壊れるような音がかすかに、だがきちんと聞こえ……重厚なる鎧の担い手は地に付したのであった。
「なんとかなったでござるなぁ」
「えぇ、そうですね。ゲーム感覚で戦えとリーダーは言っていましたが……果たしてそれは良い事でしょうか」
「かぁ、スノードロップは頭がいいでござるねぇ。自分は早く仕事を終えてお風呂入りたいっすよぉ」
「……そうですね、わかりました。後もう少しで担当は終わりますから駆け抜けてしまいましょう」
「はーい」
そう言いながら少女たちは駆け抜けていったのであった。
「これは?」
「はぇ……摩訶不思議」
最終目標地点、そこはちょっとした広場であった。戦闘があったのであろう銃弾の後と機械生命体の死体が折り重なっている。
確か、ここは元SSの担当地域でしたね。それならば銃創があるのは必然的ですか。
辺りを見回し神経を研ぎ澄まし敵が居ないのを確認すると、糸を出していた指を開き閉じ血流の流れを良くしながら帰ろうと。
「待つでござる」
「なんですか?」
「これ」
振り返った所で呼び止められた。紫色の少女がある機械生命体の死体の前で座り込んでいる。
彼女は単純的な娘だけれど、感はするどい。何を発見したのか彼女の背から見てみると、そこにあったのは一刀両断されたエインヘリャルの死体だった。
「死体ですね」
「いや、そうでござるが。こんな一刀両断できるかなと思いまして」
「!?」
「腐敗具合から多分一か月ぐらい経ってるんじゃなかろうかと思うのでござるが」
確かに、切断面を指先で撫でてみる。毛羽だった所もないきれいな斬って跡。
処理するために切断するならチェーンソウが用いられるがここまで綺麗に両断されていない。それに気になった点はもう一つ。弾痕が無いのだ。
魔法障壁を破らなければならない都合上、無数の弾痕があっていいはずなのにそれが無い。
まるで、私達と同じ力を持つ誰かが戦ったような。
「こちらスノードロップです。不審物を発見しました……鑑定をお願いします」
邂逅の時間はゆっくりとであるが着実に近づいていった。
霜「両断されてる、こんな事現代兵器じゃ不可能です」
礼「うにゅ!?」
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