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パラサイト・エヴェレット parasite_Everett  作者: 野生のreruhuさん
本編:第4章 不毛に響く白鳥の歌
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104節 白南風に背を押され

 ご飯食べてたら遅くなった。


 ……いやぁ、ちゃんと寝たり体調管理しないと病気になるねぇ。

 前話投稿し終わった後、この話を書いてたんだけどいきなり腕にぽつぽつと出来てそれが体全体に広がったんさ……。

 びっくりして医者に行ったら蕁麻疹だったんだと……こんな感じに体調が悪くなったらすぐに病院に行こうね。早くいけばいくほど楽に速く治せるから(戒め)

 はぁ、小さくため息を付きながらベットから起き上がる。パジャマ姿で一階に降りれば、珍しく妹が眠そうにしながら机に付していた。

 もごごご、多分おはようと言ったのだろう。妹からへにょへにょの声がする。そんな彼女の後ろに居て櫛で髪を梳いているのはゆずきだ。元お嬢様だからか、身の恰好に関しては実は結構うるさい。

 せっせこと忙しそうに手を動かしているのは今日から学校が始まるからだ。準備はしておいた、課題に筆記用具は前日にリュックに詰め込んできたのだ。


 いそいそと、朝食を食べ上へあがり身支度を整える。

 パジャマを脱ぎ、肌着を変え、壁に掛けられた半袖のワイシャツに手を伸ばす。薄い独特の生地が肌を撫でるのを感じながらボタンを閉めクリップ式ネクタイを付けた。

 ズボンをはきベルトを締め靴下をはいて部屋を出ると、部屋の前には礼の姿がそこにあった。


「マスター。どう、かな?」


 クルリと軽く俺の前で回る。

 半袖のワイシャツにリボンタイ。腹部を強く押し上げる胸を引き立たせるベルトスカート。

 非常に魅力的でありながらも、すっきりとした印象だな。


「似合ってるよ」

「そう、よかった」

「ふぁああ、ふぅ。準備できたんだ、早いねぇ」

「早いも何も、始業式から遅刻できるわけねぇだろ」


 ガチャリ、欠伸をしながら妹が緩慢な動作で廊下に出てくる。

 礼は、舞が来てる制服をじっくりと見ていた。

 同じものだろうに、それともあれか?客観的に見るのが初めてだからか?多分初めて着たときは俺も同じような感想を抱いていたのだろう。

 海斗はリュックを背負い礼たちを引き連れ階段を下りていく。ゆずきは学校に通っていないため家に待機だ。

 彼女は玄関の前で「家の事は任せてくださいねぇ」と手を振りながら見送っているのだった。


 三つに増えた自転車の一つにまたがり、ロックを外す。そのまま、ペダルを大きく踏み込み駆け出した。

 一方通行の道路を抜け商店街に出れば、今までどこに居たのかと思うほどいる学生たち。多彩な制服と多彩な年齢層があまたの分かれ道を進む姿は、学業への道しるべ。

 この一時の瞬間だけは、ここが過疎化が存廃されている場所だとは思われないさ。


「なんか」

「あぁ」


 前髪で目を隠しながら、わざわざ骨伝導のインコムを使い話しかけてくる舞。気持ちはわかる、わかるさ。

 本来であれば海斗たちはこの人波の中で泳ぐ一匹の魚のように見向きもされない存在だ。けれども、今突き刺さるのは視線の針。動物園の動物が人の視線でストレスを感じるように、ハリセンボンにされた海斗たちはあまりいい気分がしなかった。

 原因は……1つ。


「ん?どうしたんだい」


 目の前に走る礼の姿であろう。

 彼女の絹のように流れる髪に自転車をこぐたびに揺れる胸。あぁ、礼の発するオーラで人が勝手に避けていくのだ。

 それほど広い歩道ではないだろうに。あの娘は古代イスラエル人の民族指導者(モーゼ)だったのかもしれない――っ!


「んなあほな……。この舐めまわされるような視線やだ。行こ?」

「確かに」


 俺は、ペダルを踏み込むのだった。


「おはよ!なぁ、海斗。日本で限定モデルのコルトガバメントが出るらしいぞ」

「あ?あぁ、珍しいな。お前が朝から元気だなんて」


 教室の扉を開け、冷房の冷たい風が肌を撫でる。流れ滴る汗をタオルでふき取ってくるような爽快感を感じながら、俺は自分の席に座りリュックサックを腰かけた。

 すると、こちらに気が付いたのか一人の少年が中央に駆け寄ってくる。眼鏡をかけた細長い男だ。

 彼の名前は浅野敦史(あさの あつし)。端的に言うならばミリタリーオタクだ。

 銃の事に関して、クラス内で彼の右に出る物は居ないと思う。数少ない友人……と、言っていい人間だ。


「いや、寝てないだけだが。ゲームしてたら窓が青色になってたんな。あったま痛てぇ」

「えぇ?宿題は?」

「写した」

「で、さ。エングレーブ(レーザー彫刻)の施されたガバメントが出るんだってさ。お値段五万……買いたいぜぇ」

「免許とりゃいいじゃん」

「かぁちゃんが許してくれねぇんだもん。それに保管になるとそれなりの設備が必要だろ?四方が最低15mmのセラミックじゃないと。お前も保管はしてないんだろ?」

「あー……」


 確かに俺が持っている銃器操作資格と銃保管許可証は違うもので、資格が無ければ銃に触れてはならないと記載されているが銃に触れる事が出来るとは言っても保管は別である。

 これは規制が緩い海外でままある事なのだが、整備中の銃が落とした拍子で暴発し隣の家の壁に風穴を開けた事件があった。幸い住人が外出していたからよかったが、居たら最悪花が咲く。

 2022年第であればガンロッカーを所持していれば問題なかったが、個人所有可能な銃の威力が猟銃から大幅に増加したことによって保管している部屋も防弾にするように改正された。

 だから、俺が銃を持って……しかもちょっとした集積場並みに所持している事を知らない。と言うか考えられない。


「いや、俺はいいよ。派手じゃない奴の方が好きだ。もっとこう……スタイリッシュで20mmレールが付いててストライカー方式が良い。あ、ハンマーが嫌いってわけじゃなくてM92Fとかめちゃ好きなんだけど」

「わかる。グロックとかもいいんだけど、偶に古い奴握りたくなるんだよ!南部式とかルガーとかトカレフとか」


 何時も通りの心地よい会話に耳を躍らせ、話す。気が付けば席の4分の3が埋まるまで時間が経っていた。

 ガラガラガラ、ざわめく教室に扉から響く音が割る。独特の気配、子供が持つような身軽ではない大人な空気。

 きっちりとシワが無いスーツを着た30代ほどの女性が教卓の前に立つ。


「お前らおはよ。ほら、もうすぐだから席に着きなさい……点呼終わった後は廊下に並ぶわよ」

「――ウェエエエイ!!ギリギリセーフぅううう!」

「お前、今日は珍しく間に合ったな」


 出席簿を上げた彼女の前を割り込むように男子生徒が入っていく。何時もの、テンションが高い系の運動部だ。

 余り関わり合いもないし名前すら覚えていない彼らだが、毎度遅刻してくるのは知っている。

 今回は間に合ったようだが、スライディングで教室に突入してきたことを注意しようとして口を開い……前にチャイムが構内に響く。


「っち、遅刻無しかいいだろう。日直」

「起立、注目、礼」

「「「「「おはようございます」」」」

「着席」

「今日は簡単な日直を取ったのち、並んで体育館で始業式だ。そのあと宿題の提出に関しては各学科委員が纏めて担当の先生に提出してくれ。では、新井――」


 曲に合わせてのれんをくぐり入場。17年も人生を経験すれば、練習をしなくてもある程度見栄え良く団体行動が出来る。

 若干年月が経っているのかすす汚れた緑色のゴムカーペットの上を歩き、座っているメンツ確認。

 所々に人が居ないのは体調不良だからか、事件に巻き込まれたのか、式で出番があるから裏で控えているのか。それとも亡くなったのか。小さくため息を吐き、隣の3人とタイミングを合わせて着座。

 あとは意識を切り替え自動モード、起立、礼、着席、国歌、校歌。コレさえ出来れば後は何も考えなくてもできらぁ。


 長ったらしい校長と教頭の話を受け流しつつ時間が経ち、生徒会長がマイクの前に立つ。1か月ちょっと前とは違った髪色と瞳にざわっと会場が揺らめくが、彼女は凛としたたたずまいを崩さず演説を終えた。

 その後は、演奏に合わせて退場だ。体育館を出て野外に出てしまえば流石に気持ちがゆるくなる。

 学生たちが吐露するのは、髪色が変わった生徒会長の話題だ。もっとも、この世界ではマソと呼ばれる物質が機械生命体と同時に発見されていてこれらの成分が体に変化をもたらす事は知られてはいたけれど。


「あれじゃないの?ほら、夏休み中に関東統合都市でボヤ騒ぎがあったってあれに巻き込まれたんじゃないの?」

「何でも機械生命体の襲撃と同時に反政府団体が暴れたんでしょう?暇なんだろうね」

「それで、重症を負ったりしたのかも。でなきゃ白髪に近くならないよ」

「でも毛先になるにつれて、緑色になってくのちょっとおしゃれだなぁ」

「やめなよ、縁起でもないって」


 ……、こちらまで届いているのに気が付いていないのか?高い声と言うのはその分空気が響くものだ。古来より日本人は虫のせせらぎを聞いて楽しむ文化があった。馬鹿みたいに音量デカく音楽を聴いていなければこれくらい聞き取れる物。

 それが女性の性なのかもしれない。あんな風になってほしくないなぁと思いながら校舎へ駆け出した。


「放送委員会は仕事が無くていいねぇ」

「なら、なればよかったじゃねぇか。年に二回しかなくてさぼれるぞ」

了解りょー


 ファイルの中から仕訳終わりグビッと背筋を伸ばす。やはり久しぶりの学校と言うのは知らず知らずのうちに不可を掛けていたらしい。

 そう言えば、分かれて礼はどうしているのか?校長室で転校の手続きをしていると言ったがどれほど時間が掛かるのだろう。


 海斗は、自分の机に腰かけリュックの中から本を取り出す。白と黒の2色で描かれた絵と文章が脳内で新たなる世界を紡いでいく。

 やはり、未知と言うのは好きだ。人間には生誕から探求心と呼ばれるものが根付いており未知なるものに恐怖と愉快さを得ることが出来る。が、海斗には心躍るような事は思わなかった。知らない世界は作れる、けど未知を短期間で体験した性か心が余り動かない。

 乱雑に本を閉じ、リュックに突っ込む。気分転換にトイレにでも行こう……ついでに廊下の風にでも当たろうか。人は恒温動物ではあるが、エアコンの風に舐められすぎて冷えてしまったのかもしれない。


 俺は手を使い勢いよく飛び降りて、扉へと歩く。

 ガヤガヤ騒ぐ男子生徒を尻目に引き戸に手をかけて……ふと、備え付けてあるスモークが掛かったガラス越しに誰かいるのが見えた。2人だ。一人が扉の正面にもう一人は少し離れた所に。


「お前ら、ぁすまん。お前ら提出物は集められたか!」


 大きな声でこちらが一瞬(すぼ)んだのがわかったのだろう。謝罪をしながら教室に入ってくる。

 教卓の前に立ち席につけなんて言いながら未だ窓の近くに居る男子生徒を注意するのだ。三つ編みの少女を置いておいて。

 あらかた静かになり、クラスメイトが着席したのを見計らって先生が口を開くのだ。


「よし、では帰りの会と行きたい所だが。転校生の紹介だ……」


 お?クラスが外で鳴いているセミのように騒ぎ出す。昨今の事情、人が居なくなったり新しく入ったり流動するのは珍しくはないのだが、それでも新たなる仲間は少年少女たちに一陣の風を吹かせる。有体に言ってしまうのであればガチャの間隔に近しい。

 どんな子が来るのかな?外国の人?女の子?男の子?かっこいい?かわいい?ほぉら、中身が見えない状態で何が出てくるのか一喜一憂する光景……これがガチャと言わずなんという。


 ボルテージが上がったのを感じ取ったのか、どうぞと腕を動かし扉を指す。

 コンコンコン。木材を叩く音だ……曇ったガラスごしに全体像が見える。


「失礼します」


 聞きなれた声。大切な家族の声。

 彼女の美しい声を聴いた男性はおっおっおっと腰を浮つかせ扉が開かれ、少女の全貌を肉眼で捕らえるのに血眼になっている。

 ガラリ、引き戸が動き彼女の高い身長とその豊満な胸が自己視聴しながら一礼。馬のしっぽのように三つ編みが顔の横に揺れるのだ。トコトコと、礼は教団の横に立ち。


「本日からお世話になります。文月礼です。よろしくお願いいたします」

「彼女はちょっと事情があってな。長らく学校に通えなかったそうだが、優秀なやつだぞ。帰りの前に質問時間を作ってやる……今のうちに質問しとけよ。あぁ、嫌われないように……な?席は……いや、後で席替えするか……暫定で一番後ろの窓側だな」

「わかりました」


 彼女はゆっくりと後ろに下がっていく。まるで、ファッションショーをするかのように優雅に視線を集めながら歩く礼はこちらが見ているのを感じ取ると、軽く微笑んだ。

 

 ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。

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