99節 大人の意地
投稿時間忘れてたぁあああああ!!!!!!
ぱちぱち、そう拍手をしながらひょひょうとした態度でこちらを見る彼。
そこには、自身の手ごまがやられたと言う焦燥感などは感じられず、どちらかと言えばやっと目的を達せられたかのような微笑みが顔に浮かび上がっていた。
「随分と余裕なようだな?」
「よゆう?よゆうですか……。いいえ、私の危機的状況はむしろ高まっている。肉盾を失い矛を失い、商売道具の一部を失った。ですが……それらを犠牲にした価値はありました」
「なんだと?」
「虎穴に入らずんば、虎子を得ず。良いことわざですね、三人寄れば文殊の知恵とか使えない物もありますが、昔生きていた老害たちには表彰を送ってやりたいぐらいです」
このやろう、そう思いながら引き金を引こうとするがツルっと何かが滑り落ちていく。それは、今まで握られていた拳銃で。
なんで?疑問に思った瞬間。
「うっぐ!?お、おぇえ!!」
突如、頭が割れるような痛みと逆流感。
酸素を求めて、口を開いた瞬間胃液が食道を逆流し辺りに酸味をばら撒いた。とっさに顔を振り倒れている翡翠に掻けなかったのは褒めてほしい。
「マスター!」
「先輩!」
ピョンピョンと片足でこちらに駆け寄るゆずきをガン無視し、礼は自慢の脚力でこちらにたどり着く。
そのまま、俺の頭を膝の上に乗せ左手はいつの間にかに回収した剣を強く握っていた。
普段であれば、むっちり柔らかい太ももを堪能するか恥ずかしくて突き飛ばすかのリアクションを取るところだが、俺は瞼を開けるだけの余力しかない。
銃の引き金を引けない。
「おや、銅やらお疲れのご様子。ここらで切りがいいのでまた出会う日まで……と行きたい所ですが、視線が怖い娘がいますね」
「何を言ってるのかは知らないけど、僕の役目はマスターの脅威を排除する事。お前はいらない」
「そんなセリフを言ったって膝枕をしてちゃ、格好つかないでしょう。えぇ、そこまでやりたいのなら仕方ありません」
パチン、そう指を鳴らせば左奥の扉が吹き飛んだ。
衝撃で照明がちらつき、すぐに光が戻る。現れた乱入者の正体は、銀色の人型生物だった。
2メートルを超える大柄で独特な甲冑のような外皮、右腕には一体化されたブレード。
何処かで覚えがある機械生命体がそこに10体ほど進軍したのだ。
やっとこちらにたどり着いたゆずきが、邂逅した敵を見て。
「エインヘリャルぅ?何でこんな場所にぃ」
「エインヘリャル、歩兵型で最もポピュラーな機械生命体。鈍重な外皮からは想像できないしなやかな筋肉を持ち、敵の攻撃を正面から受け止め一瞬にして切り刻む……最もすでにご存じでしょうが」
海斗と出会い始めていったアウトレットモール。そこに現れた機械生命体が、もう一度彼女たちの行く手を阻んでいた。
ハッと息をのむ。万全の状態ならともかく、負傷者4に満足に動けるのは私だけ。
そして、マスターの体調は最悪の一言。何処か専門的な機関に治療をお願いし、しかるべき施設に入院しなければ後遺症が起こってしまうかもしれない。
「少しきついですかね?まぁ、私もここで捕まりたくはないので……。あ、殺しはしませんよ……何故なら貴方達は世界を守る御子なのですから」
「待て!」
そうして、彼は紋章が光り輝く扉に進み消えてしまった。
あとに残されたのは、残兵と敵のみ。
グルンと先頭にいるエインヘリャルが頭部をこちらの方に向ける。ごぉおおおお!と咆哮を上げ、前進姿勢を取った。
自分たちを獲物だと認識したのだ。
桜井色の唇を小さく噛み、礼は自らのクリスタルの中に腕を突っ込んだ。まるで、おもちゃ箱の中から目的の物を探しだすようにかき回し、握り撮った物体をゆずきにぶん投げた。
おっとと、と慌てて受け止める。まるで赤子のように優しく受け取ったのは、投げ渡されたのがよく見る武器だったからであろう。
「わぁ!って、危ないじゃないですかぁ」
「じゃあ、聞くけど……足のアキレス腱が切れてる状態で近接戦闘ができるの?ただでさえ僕と違って、身体能力は低いのに」
「ぁ、もしかしてぇ敵押し付けたこと恨んでます?」
「別に恨んではないよ。そのあとマスターの腕をつかんで自らの胸の谷間に挟んだのも百歩譲って水に流す。やれるの?やれないの?」
「……無理ですねぇ」
「なら、構えて。そっちの二人は使い物にならないから。使い方は何となくはわかるよね?マスター並みの腕とは期待してないから誤射しないならいい。反動は筋力でねじ伏せて」
「はいはい」
ゆずきは小さくため息を吐きながら軽機関銃を構えた。
何時ものへらへらとした表情ではない。そこには確かに自らの愛する先輩を守らなければと言う、母性と使命感に満ちた目をしていた。
リロード方法何てわからない。ゲームとかで見る奴じゃないこれ……いや、そもそも驕ってないないで銃を撃つ訓練をして置くべきでしたねぇ。
心の中でぼやきながらじりじりと嬲るような舌なめずりをするような、そんな緩慢な態度で近づいてくる。
そのうちの一体が、こらえ性がないのか雄たけびを上げしなやかな筋肉を使い跳躍。
まるで、犬がフリスビーに嚙みつきに行くかのように歯の代わりに刃を振りかぶる姿を捕らえ、礼はレーバテインを構え……。
「タッリホォォォォォォォォォオオオオ!」
「は?」
「え?え?」
突如、野太い声と共に白い筒が赤と白の軌跡を伴って飛翔し、ド派手に敵中心を吹っ飛ばしたのだ。
反射的に眼を覆った腕を退かせば、室内でロケランをぶっ放した射手が見えてくる。
「FOOOOO!やっぱ、パンツァーファウストなんだよなぁ」
「また、バックブラストを考慮せず撃ちやがって!?室内だぞ、崩落したらどうするつもりだったんだ!」
「まぁまぁ……」
そこにいたのは、やはりあの時に助けてくれた三人組。
パンツァーファウストⅢをどっこっと地面に落した、偉丈夫。獅子王陸がそこにいた。
何時もの通り突撃癖をしかめる冷泉仁に、二人の緩衝材である水瀬直樹。
激戦を潜り抜けた兵チームが危機に駆けつけてくれたのだった。
「よぉ、ガキども調子はどうだい?」
「……はっ。負傷者5、うち戦闘不能者3名、重症1です」
「了解(ヤ―)。直樹、上にいる社長に通信してくれ……仁」
「弾幕を張りながら左斜めに前進だ。お前たちは、キャリアが来るまで自分でイエローゾーンまで後退してくれ!俺達の背後の廊下だ」
「通信応答あり!すぐ来るそうです」
「なら、残弾気にせず撃ちまくれ!ガキどもに大人の意地を見せろ!」
そうして、積極的に囮になるために前進を開始。
烈火のごとく、銃声が鳴り響き機械生命体を捌いていく。
ハッと、意識を切り替えて片手でマスターを抱き抱え空いた手で動けないであろう翡翠を引きずっていく。
ゆずきは、まだ動けそうな楔に肩を貸され後方に移動。
「来たわよ!」
「こっち、こっちっす!」
「了解。謎に包まれていた教会のベールをはがす時だ。その名誉、余すことなくSSが手に入れるぞ!」
そして駆けつけてきたのは咲たちSSと、精華率いる部隊。
精華と夏は、こちらを一目見て血相を変え構えていた銃を離しゆずきと翡翠を背負い駆けていく。おもりが減った礼は抱えている海斗を揺らさないように、彼女たちが現れた扉へ向かっていくのだった。
そのまま、薄暗い長い廊下を走り階段を登れば待機していたであろうメディックの姿。
「随分とまぁ、派手にやったようね。この程度の実力で敵地に侵入だと」
「今回は不可抗力ですってぇ彩さん。看護資格持ってたんですねぇ」
「資格は持ってないが……咲のけがの応急手当をすることが多いから。一番重症なのはこいつか?腕、ヒビ、身体擦り傷、頭部出血……。止血はしたのか?見た所ガラスのようだけど、摘出は?」
「え?私が見たときはぁ……タオルで撒いてました。バファリンとか言う鎮痛剤は飲んでた気がしますどぉ」
「まずは、濡れタオルで固まった血を拭え!ガラスが体内に残留する危険性がある。礼だったか、腕の固定と出血が多い所は膝で伸し掛かり圧迫しながら止血帯を撒け。頭部の手当が出来たらバンテージを撒き終わったら、下あごを通して固定しろ」
指示を飛ばしながらテキパキと応急手当をしていく。
体に突き刺さっているガラス片をピンセットで細かい物は丁寧に抜いていく、その後頭部を3回ほど巻きピンセットのようなもので止め下あごを通して固定していく。
腕は、礼が膝で傷口にガーゼを当て伸し掛かり体重で圧迫止血をしながら、胸から取り出した止血帯できつく締めていく。
一方、アキレス腱が切れたゆずきは太ももに止血帯を咬ませ、ガーゼは傷口の中心部になるようにし包み込むように被せる。その後、動かないように締め上げ固定。
「止血が完了したわ」
「了解。こっちでタクティカルスケットで運ぶわ……夏!固定よろしく頼むわね」
「了解っす!そこのお二人!ついてくるっす!」
そうして、ゆずき達負傷者と意識がない翡翠が運ばれていく。近くにあったエレベーターに乗って地上に出れば。
「駅?」
「どちらかと言うと地下街?」
まるで、駅のホームのようなものが広がっていた。
所々作りかけなのだろうか?一部の壁には塗料が塗られていないし、階段にはスロープはない。
ただ、崩れてくるような貧弱さは視えないし電気ガス水道は通っているように見える。
駅のプラットフォーム……電車に乗り降りする際の場所の下、つまりは線路横から出てきたのだ。
そのまま、もう一段上がり止めてあった装甲車に負傷者を乗せる。
「ほんま、人使い荒い奴やわぁ」と言う声が聞こえてきた気がするが、まぁ……声の主的に知ってる人だから問題ないと思う。
辺りは、無骨な装甲車が占め30人ほどの兵士が当たりを包囲している。最も、ここは廃墟都市に近いため人通りはあまりないのだが。
「礼ちゃんたちはこっちよ」
「ほぇ!?なんか楔ちゃん変わってないっすか!?イメチェン……とか言ってる場合じゃないっすね、病院に行きますよ!」
こうして、海斗たちは駆け付けた精華達によって救出されるのであった。
装甲車の後部座席に腰を落ち着かせれば、横からペットボトルが差し出される。
冷たいスポーツドリンクの後ろには、海斗の妹……舞が涙を凝らして抱き着いてきたのだ。そのまま、礼の豊満な乳房に顔をうずめ暫くした後。
「舞?」
「あああああ!よ”がっだねぇ、戻っでごられでぇ。げがじてない?」
「私は別にただ、マスターが」
「だいじょうぶだよ。ぎゅうにきえちゃうからびっぐりしたよぉ」
「急に?そうだ、何で僕たちの位置が分かったの?」
「それは、舞ちゃんがHMDにつけられた位置信号を探知出来たからよ。びっくりしたわ、いきなり信号が宮城県に現れるんだもの」
「え?」
「うん?」
上を見上げればいつも通り夜空が綺麗で、すす汚れた体を浄化してくれそうな……そんな気がします。
けれど、一見何時もと変わらない物でも少しずつ星が動くように。致命的なものが周りで動いている……そんな気がしたの。
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