第三話『魔物狩り──出発』
説明を簡単に言うと三つ。
1:他の人全員を見えるようにしておいたので、他のチームと共闘を組んでも良し。尚、仕事を達成した順に特典が付与されるが、共闘を組んでいたとしても先に仕事達成の報告をしたチームの方が上の順位になる。(同時報告は禁止)
2:制限時間有り。今回は二時間。それまでに達成出来なければ死。
3:時と場合によるが達成後すぐに僕達の世界に帰れるわけではなく、原則全員が仕事を達成or殺されるor時間内に達成出来なかった場合に帰れる。臨時に会議を設ける。
順次増えたり減ったりしていくらしいが、今回はとりあえずこれだけ。
その後黒い輪ゴムと同じ送り方で、何着か服と武器が送られてきた。
『三十分後に開始します。それまでに準備と確認を』
ミニマム女王の頭の上に、タイムウォッチのように数字が表示された。
「とりあえず着替えようか」
短パン半袖体操服は思春期男子には少々目に悪いファッションだ。
あまり気にしてなかったけど、僕の水玉の寝間着も結構酷いファッションではある。
「あ、はい」
慌てて手に持っていたものをそれぞれ身に付ける。シルバーの指輪は右手の人差し指に。綺麗な緑色の勾玉と赤いお守りはテキトーに拾った黒いスカートのポケットに。
「あの……」
「ああ、ごめん。後ろ向きながら着替えるよ」
青いシャツと紺色のズボンだけ手に取りササッと着替える。ちょっと寒い気がするが、気温はこちらの方が体感的に暖かいから動きやすさを重視。
「まだ?」
「も、もう少し」
毎回思うが、女子は見られるのは恥ずかしがって見られたら犯罪者扱いするくせに、男が着替えている時に平気で教室に入ってきて「別に見たくないし。教室にさっさと入りたかったし。というか見られて価値あると思ってるの?」とほざく。
その言葉、そっくり返したいやすみませんちょっと意識するかもすみません。
だけど今のチョウの表情は、恥ずかしがっているというよりは恐がっているような。
「大丈夫です」
黒いワンピースと黒いスカート。目に優しい服に着替えたチョウ。まあ相変わらず胸は強調されているのだが。
胸鎧とか、重量級の装備がないのが解せないが仕方ない。
「一応武器も持とう。なるべく自分の夢力に合うようなやつね。それと指が悴んだらいざという時動けないからロング手袋。あとは動きやすい靴とか」
探してみたらそのあたりはきちんと用意されていたみたいで、有難くいただくと余り物は地面に溶けていく。
どうやら余り物は律儀に回収するようだ。脱いだパジャマと体操服は残ってるけど。
「昔ちょっとだけ体験しただけで、私武器なんて使ったことないんですけど」
弓の弦を軽く引っ張る動作をする。
僕は憧れの日本刀を選んだ。
男なら一度は必ず夢を見る武器だ。だが想像より軽い。外見は同じだが、中身は根底から違うというのはこういう意味だろうか。
鞘から刀身を出して見るが、テレビで見るように光に反射して輝く。軽く脱いだパジャマの裾辺りを切ってみる。ちゃんと切れるし、違いがよくわからない。本物を直に見たことも持ったこともないから当たり前か。
とにかく注意するべきことは僕達の世界の常識を、外見に惑わされてこちらの常識に当てはめないようにすること。
「僕もないよ。だから、それ用の夢力を一個だけ取った」
「ああー私は持ってないです。今度増やす前にそれ系の夢見ときますね」
「うん。……ん? 見とく?」
軽く振っていた手から日本刀がすっぽ抜ける。地面にストッと突き刺さる。
まさか、チョウはこの夢力がある世界で絶大なアドバンテージを持てるアレか。
「はい、私は明晰夢を見れるので」
当たり前のように言う。
夢力を作り出せるといっても過言ではない。良くあるファンタジー物でいう魔法を創造するのと同じだ。
「へへーん、驚きました?」
表情に出てたみたいだ。
しかしこれは心強い。僕があーだこーだ言ってチョウの夢力を操作したら勿体ない気がするので、どうしてもって時に頼むとしよう。
「驚いたのは認めるとして、チョウはどういう夢力にしたんだ?」
地面から刀を抜いて鞘に戻す。
「じゃあ見せ合いでもしましょうか」
チョウはそういうと、矢筒から一本取り出し鏃で少し手を切る。しかしそこから血が流れることはなく、瞬きの間に傷は跡形も無くなっていた。
「え、技名は?」
「技名? 私は夢についての記憶力には自信があるので技名必要ないんですよ」
嘘……だろ……。
技名言わないといけないのが僕だけだとしたらすごく恥ずかしいことになるんですけど。
「回復系夢力は貴重だと思うし。それはどういう範囲で使えるの?」
「私が見た夢的に、死ぬ前に私が視認出来れば治せますよ。多分」
「つっよ」
ちょっとおかしな言い方した。
「次のは説明が難しいのですが、とりあえず見せちゃいますね」
無言で出来るのは良いなぁ、なんて思っていると頬を何かが掠めていく。
チラッと後ろを見たら、壁に大きなクレーターが出来て、中心には矢が刺さっていた。頬を触ってみたが弓を放った体勢のままボーッとしていたかと思えば「すみませんすみません」と頭を下げて謝っているチョウがすぐに治してくれたらしく傷は残ってなかった。
「このようにして、一通りの魔法が使えます」
「魔法を一通り?」
「炎や水や雷や風などの自然系は勿論、重力を重くしたりできます。放つイメージが出来れば良いので矢は必要無いと思います。あった方がイメージしやすいですけど」
これは酷い。その夢力一つで、魔法を何個も使えるのか。僕、足を引っ張るんじゃないだろうか。
「じゃあなるべく弓を使うようにしよう」
「わかりました?」
疑問符がついてる時点で分かってないのがバレバレだった。
そこまで深い理由はない。魔物とやらが知能を持っているなら奇襲に使えるかなと思った程度だ。
「あと一個は?」
「もう一つはいつでも食べ物を出せます」
「二つの夢力はチートなのに、ラストはいやに現実的に欲しい夢力にしたな」
「腹が減っては戦ができないので」
二つの夢力に比べたら無駄な気がするが、食べ物というのはバカにできない。
「じゃあ次は僕が」
僕は少し捻くれてるし、そんなに強い夢力は取れなかったくせに技名を言わなきゃいけないというスリーアウト夢力だが、生き残るのにベストの三つを選んだ。
『じゃあ出発でーす。今からゲートを開くのでさっさと出てください。それと、どちらかのポケットに現在地や城への道をナビゲートしてくれる地図を入れておきましたので』
腰に提げた刀を構えて技名を言おうとしたらタイマーがゼロになっていた。ミニマム女王がそのタイミングで告げると、壁だった筈のところが長方形に切り抜かれて、黒いドアのようなトンネルが出来上がった。
全てを飲み込んでしまいそうな黒。
凝視しても奥が見えるわけでもないらしい。
チョウと一緒にポケットを確認してみると、さっきまではなかった違和感がある。
「地図は僕の方にある」
「じゃあアゲハの夢力は後で見せてね」
「僕の夢力はしょうもない手品みたいなものだからなぁ。あまり期待されても困るけど、僕が前に出るから、チョウは後衛をよろしく」
致命傷を受けても即死しなければ、チョウの夢力で死ぬ事は無いんだ。
時間内にゆっくり、確実に仕事をこなせば僕達の勝ちだ。
順位特典が気になりつつも、なんとしても明日を生き残らなければならない僕は、満を持して戦地に赴く。