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僕の足が運んだ場所は何でもない普通の町の道。

別に目的があったわけではない、気付いたらここにいた。

そんな放浪とする身近な散歩は何時しか日課となっていた。

僕にやることなんてないのだ。

学校に足を運ぶのもただの気まぐれ行為で、勉強なんて今更必要ない。


不意に肩に人がぶつかりそうになる。

足元を見ながら歩いていたので、すれ違う人に気づかなかったのだ。


「すみません」


思わず発してしまった言葉に鼻で笑ってしまう。

ぶつかりそうになった人は避けようともせず何事もなかったかのようにただ目的へと進んでいくのみだった。

その姿に、羨ましいな、と思ってしまう僕に嫌気がさす。

僕がその道を自ら捨てたんじゃないか、今更後悔しても遅いのだ。

その場で足を止め、その人を数秒見つめた後、再び足を運ぶ。


世界というものはあまりにも汚い。

人類は増えすぎ、社会は発展を続けてきているが、その発展にはまた人の犠牲のうちに成り立っているものだ。

そんなことはお構いなしに、いつしかその物事は当たり前となっている。

発展を理由に、淀んだ空気を浄化もせず、日に日に世界は穢れ続けている。

制御のできなくなった世界を洗浄する方法はただ一つ、人類が絶滅する他ない。


根拠の無い事を、そう言われてしまえばそれまでだが、果たしてそうだろうか。

例えば、今社会で問題になっているブラック企業。

会社の経営側は営業そのものを取り持ち続けるために精一杯だ。

しかし、その下で今も日々休みの無い中仕事をさせられ続けている労働者たちがいる。

その労働者たちの中に、精神的な疲労により働くことが出来なくなってしまった者は果たして何人いるだろうか。

しかし、それでも働かなくては生活費を払えずに生きていくことはできない。

それは重々承知だ。

それでも、果たしてその労働者が全ておかしいというのだろうか。

それは違う。

それを防ぐために労働基準法があるのだ。


その労働基準法は正規であろうが、非雇用であろうがそれに見合った救済がある。

しかし、その法を裏目にとり、“あくまでグレーゾーンである”と言い訳をし、ギリギリまでも攻め続ける社会は存在する。

ある書物に綴られた言葉が、心に突き刺さったことがある。


「生活の為、稼ぐ為、家族の為。その正しい行動が社会の悪を広げ、その結末が疑念を抱くものに対して誤りだと主張する」


それはつまり、正論が時には加害者になり得るということだ。

正義の言葉は誰だって信じるだろう。

しかし、その正義の影響力は恐ろしいほどに強く、歯止めが利かなくなり、己だけでなく他人をも縛る枷となるのだ。

だからこそ、法に触れると主張したところで、「皆同じだ」と一言で言いくるめられ、悪役へと追い詰められてしまう。

正義がある限り、この世界は汚いままとも言える。


人々は皆、加害者なのだ。

被害者面をし泣き続ける人も然り。

無垢な一輪の花もまた然り。

僕もまた、然り。

またこの世に加害者になることのない人間など存在しないのだ。

そして、その逆も、また、然り。


既にその言葉は歯止めが利かない。

例え、その理由が前述で述べた事柄であっても、いじめであっても、殺人であっても。

何が言いたいかというと、世界はより良くなっても、摂理は既に変えられないほど手遅れである、ということだ。

なぜ急にそんな話を言い出したかというと、先程ぶつかりそうになった人を見たからだ。


スーツ姿の彼はこの後自殺するだろう。

そう直感を得たのだ。

そう、確信ではなく直感で。

なぜそう思ったかと言われれば、僕と同じだったからだ。

そう、同じだったから。

それだけの理由だ。


そんなことに気づいても、僕が止めることはない。

意味がないからだ。

自殺者に他者の声は届かない。

環境が、世界が変わらないと駄目なのだ。

しかし、そう、変わることは決してない。

この穢れた世界で自殺者が減ることなどない。

彼も、僕も。

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