3章 錬金国家アルケミー42 -20日目・大会前日-
今日は、『午前・訓練 』『午後・大会に備えてしっかりと休む』という予定だ。
俺たちは冒険者ギルドの地下、一昨日試験を受けた場所にいる。おっさんから許可を得て使わせてもらう事になった。
普段は利用料を取られるが、ギルドの代表パーティーなので無料で使わせてくれるそうだ。
「そんじゃ、今日の訓練は俺対4人って事で」
「ちょっと!」
ルーシェが大きな声で叫んだ。
「何か問題ある?」
「問題しかないわよ!人外と人間の私達がどうやって闘えばいいのよ?」
「人外とは失礼だな。俺は全力出すとココを破壊しねないんだ。全力が出せないから、闘おうと思えば闘えるだろ?」
「それでも勝てる気がしないな…」
「確かに無理ゲーだな」
「おまえ達!」
無理ゲーだと言うワカとシュンペイに、クジャク姉は怒鳴った。
「おまえ達はそれでいいのか?いないとは思うが、大会であいつより強い者が現れたら、おまえ達は逃げるのか?」
2人は黙ってしまった。この空気が嫌なので、「…訓練を開始しよう」と言い、訓練を開始した。
開幕、見えない手+手加減で先制してたが、決まらなかった。ルーシェはパーティー全員に結界を張っていた。このままだとどうしようもない。さてどうしようか。
「対魔道士用の能力でも作っておこうかな。こうなると手も足も出ないし。まぁ、足は出してないんだけど」
「やかましいわよ。あと、さらっと怖い事、言ってんじゃないわよ!」
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改造前能力
・魔法無効:【自分が受けるあらゆる魔法を無効化できる】Level:Max
自分が受けるあらゆる魔法を無効化できる能力。
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改造後能力
・魔法無効:【自分が触れた魔法を無効化できる】Level:Max
自分が受けるあらゆる魔法を無効化できる能力。
また、自身が接触した相手にかかっている補助魔法も無効化する事ができる。
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作ることはできなかったが、魔法無効が改造されたようだ。
見えない手は、俺の身体の一部に含まれる。もちろん『手』として。
もう一度、見えない手で全員に攻撃をした。結界は壊れ、見えない手の攻撃が直撃し、シュンペイとワカは気を失った。
「なんで結界が無くなったの⁉︎」
「能力を創ったか、改造したかだな」
クジャク姉の分析は素晴らしい。
「さて2人は戦闘不能にしたけど、ルーシェとクジャク姉は流石に無理だったか。それにしてもよく分かったな」
「俺は勘で動いた」
「あんたのやりそうな事を考えた結果よ」
クジャク姉は炎の渦を作り出し、見えない手を焼き払っていた。
ルーシェは、自身のみにすぐさま結界を何重にも張り巡らせ、見えない手からの攻撃を防御した。
クジャク姉のは魔法ではなく、能力によって炎を出しているのだろう。魔法だとしたら見えない手で消せるし。
それと同じく、何重に結界を張ったとしても破壊できるはずなのに、なぜか今回は破壊できなかった。
「この結界は魔法なのか?」
「私に能力はないわよ。ギルドカードにも記載されてないし…」
俺はルーシェの耳元まで移動して彼女だけに聞こえるように言った。
「ルーシェは少なくとも俺と会った時から、能力を持ってる。詳細は俺にもわからないけど」
「え?」
ルーシェが驚いて声を上げた時、クジャク姉が俺に突進してきた。俺は地面に倒され、クジャク姉は馬乗りになった。笑っているのだが、目が笑っていない。
「何を言ったんだ?愛を囁いたのか?」
「違う」
「俺と婚約してるのにー!」
そう叫ぶとクジャク姉は、刀を抜いて俺の喉元で止めている。
「縁談の話は破談に…」
「破談になってない。だ、だから…」
彼女の顔は赤くなっていた。
「俺がこの勝負に勝ったら、けっ、結婚してほしい!」
「…わかった。勝てたらな」
クジャク姉は喜んだ。俺の言葉を聞いたルーシェが怒って叫んでいた。
「ま、待ちなさいよ!そんな約束するのはどうかと思うわ!」
「ようは負けなきゃいいんだろ?」
この世界には、能力とは別枠の能力が存在しているようだ。俺が会った人物で、ルーシェとクジャク姉、それとトワノのおっさんが有しているものがそれに該当すると俺は考えている。共通して能力に『スキル』というルビが振ってなかった。
対能力用の能力では、それらの能力に干渉できない。それと解析不可能である。未知の能力に対して俺は無力だ。
そんな事を考えていると、ルーシェは先に倒した2人を回復させ、彼らとクジャ姉を囮に光魔法を連発してきた。囮役も巻き添いを喰らうと思ったが、ルーシェが張る結界の中に入れば、彼女が放つ光魔法を喰らう事はないようだ。
ー数時間後ー
ルーシェの魔力が底を尽き、回復も結界も使えないところで、戦闘訓練を終了した。勝敗はつかず引き分けとした。
クジャク姉は納得してないようで、1対1の勝負をしたいと言ってきたが、ギルドマスターに話があるから、また今度と言って逃げた。
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午後、ギルドマスターの執務室
「話ってなんだ?」
「大会が開催されている間のセンティーレの事だ。ギルドに護衛の依頼を出そうと思っている」
「わざわざそれを言いに来たのか?」
「当人が護衛はいらないって言ってたけど、やっぱり心配で」
「俺は運営側だから無理だ。大会中、俺以外の他の職員は休暇だが…」
休暇中に仕事したくは無いよな。大会の観戦をするのだろうしな。
「1人引き受けてくれそうな奴はいるから、話はつけておく。依頼を引き受けてくれそうな奴のことは、詮索しないでくれ」
何か理由があるのだろう。纏まりそうな話だし、詮索しない方が良さそうだ。
「了承した。そんで、さっき職員が全員休暇って言ってたけど、審判とかはこの国の職員がやるんじゃないのか?」
「専門の能力が必要だからうちじゃ無理だ。他の国から派遣される」
この国の人間が誰もいない審判団で大丈夫かな…。
明日審判団の能力は確認しておこう。




