3章 錬金国家アルケミー13 -13日目・間違った選択 ルーシェ視点-
喧嘩別れした1週間後の早朝に、彼が出した依頼を受けた。
私と接触したあいつは、他人行儀に接してきた。
「依頼を受けていただき有難うございます」
「その喋り方やめて…」
「では早速依頼内容の確認をさせて頂きます」
「だからその喋り方やめてって言ってるでしょ⁉︎」
彼は無視して話し続けた。まだ怒っているのだろう。
「私の国に伝わる呪いのお面をつけたこの女性が呪われていて、その呪いから彼女を助けたいのです。あなたは回復魔法と解呪魔法、どちらが使えるのでしょうか?」
「…どっちもよ」
私は、彼の喋り方に対して泣きそうになりがらも耐えて、そのまま話す事にした。
「では解呪魔法の方でお願い致します」
「解呪魔法を使う前に、成功した場合の追加報酬を請求するわ」
「それならこの話は無かったという事で…」
追加報酬に『また一緒にいたい』ってのを要求しようと思っていた。
彼はそれが分かったから拒絶してきたのだろうか…。
「もう…知らない…」
私は思わず泣き、ギルドを飛び出した。
ギルドを飛び出して泣きながら走り続けた。
気がついた時には、錬金国家の街が見える丘にいた。
もう夕方になっていた。泣き止んで夕日をぼんやり見ていたら、「やっと追いついた」と声が聞こえた。あの女だった。
「私を殺しにきたの?」
「いや違う。話をしにきた」
「あんたと話す事なんてないわ」
「…お前もあいつの事、好きなんだろ?」
「そ、そんなわけないでしょ⁉︎」
「隠さなくてもいい」
「…好きって言ったら、私を殺すんでしょ?自分の恋路に邪魔だから」
彼の故郷から出る時に感じた殺意や、彼の言動からこの女はそういう人間なのだと判断した。
「正直、故郷を出た時はそうしようと思っていた。だけど今はそうしようとは思わない」
「どうしてよ?」
彼女が故郷を出て、仲間を失った話を聞いた。その時に、人の命とは儚いし尊いものだと思ったこと、自分や仲間の命が危険に晒されない限り、他者の命は奪わないと誓った事を聞いた。
「…ごめんなさい。貴女の事を少し、誤解していたわ」
「気にするな。それに、あいつもそんな事を望んでいないしな。俺の事はクジャクと呼んでくれ」
「分かったわ、クジャク。そしたら私の事はルーシェと呼んでちょうだい」
「承知した、ルーシェ」
私は笑顔になった。彼女はお面で顔は見えなかったが、彼女も笑顔になっていたと思う。
「あいつと、あいつの家族について教えて欲しいわ。私はあいつの事を何も知らないから…」
「いいぞ。さて何から話そうか…」
私たちは丘に寝っ転がり、星空を見ながら話をして一夜を明かした。




