4章 更に西へ9 -モーブからの依頼-
〜次の日〜
3人にはバニラに装備品を依頼したとだけ言った。指輪とは言っていない。
「そう言えば、どんな物を頼んだの?」
「できてからのお楽しみ」
リリスの質問にそう答えた。
「どうせロクでもないものよ」
ルーシェ後でおぼえてろよ。
俺の耳元でクジャク姉が上機嫌に言った。
「俺達への贈り物だろ?楽しみにしてる」
クジャク姉が、一番女の勘働いてるな…。
そんな事を思っていると、おっさんが俺達を呼んだ。
「お前達、全員こっちに来い」
受付に行くと、依頼書を渡された。
「護衛用の研修依頼だ。今回はいつもとは少しだけ内容は違うがな」
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護衛研修依頼
依頼者:モーブ
(指名:リョウ・ハナトリのパーティー)
両親に婚約者を紹介するので、彼女と帰郷します。その道中の護衛をお願いします。
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バニラに護衛する約束をしたし、そろそろできるようにした方がいいと思ったので、昨日のうちに、おっさんに相談していた。
そしたら近々研修を受けて貰う事になると言っていたが…。
「おっさん、この怪文書は?」
「ギルドマスターと呼べ。言いたい事はわかるが細かい事は聞かないでくれ」
研修用の依頼なのに指名とは。それとさらっと婚約した事が書かれていた。もう色々と酷い。
「あいつの為にも受けてくれ。数少ないあいつの友人としてな」
「もちろんだ」
本当はおっさんも一緒に行きたいのだろう。だが、モーブが休みという事はこの人は冒険者ギルドから出れない。相変わらず人手不足は解消されてないしな。
「出発する日は、お前達の都合に合わせるそうだ」
「それだったら、2日後にすると伝えておいてくれ」
3人はモーブって誰となっている。
リリスが分からないは納得がいくが、ルーシェとクジャク姉は何度も見た事あるはずだ。
「いかにも村人って感じの男性ギルド職員、クジャク姉とルーシェは見た事あるだろ受付で」
2人は『ああ、あの人か』ってなっていた。
能力のせいで忘れられているのだろうか?
「それで、そんないかにも村人の奥さんになる人は誰なの?」
ルーシェがおっさんに訪ねた。そこは興味があるようだ。
「絶対驚くぞ。元エランジェルイト国王族、センティーレ様だ」
「「えっ⁉︎」」
ルーシェとリリスが驚いていた。それぞれ別の理由で。
「クジャク、お面貸して!」
「ああ」
クジャク姉は、袋から取り出した狐面をルーシェに渡した。この辺は後でリリスに説明しないとな…。
「彼女は無事なのか!?」
「知り合いなのか?」
ルーシェにお面を渡したクジャク姉が質問をした。
「以前、王族が出席する会議で会って仲良くなったんだ。それから暫く手紙でやりとりしてたけど、エランジェルイト国の人々が行方不明になった日から返事がこなくなったから、てっきり…」
「えっ⁉︎リリスって王族なの?」
「そうだよ。アズモディア国の可愛い、可愛いお姫様だよ」
驚いた。驚いて、『可愛いより、かっこいいお姫様だろ!』って突っ込みを入れそこねた。リリスはどちらかというと、カッコいいに分類される。いや、カッコいいし可愛い。
クジャク姉とルーシェ、おっさんは驚いていなかった。
「リリスが王族だって事については、私達は前に聞いたから驚かないわよ」
「何故俺に教えてくれなかった?」
「いう必要もなかった。それに本人の希望でもあったから」
(この事については、後からリリスに謝られた。どうやら、婚約者が王族と知ったら、俺が逃げ出すと思って言えなかったらしい。自分で伝えるから、2人には口止めをしていたそうだ)
おっさんは、この国の城に出入りしてるし、姫様から名前を聞いてそれを憶えていたそうだ。それで、アズモディア国の冒険者ギルドに問い合わせたところ、『冒険者をやる上で身分は関係ないから、姫として扱うのではなく、一般の冒険者と同じく扱ってくれ』との回答があったそうだ。冒険者にはそれぞれ事情があるし、それを詮索したり言いふらしたりするのは暗黙の了解を破る事になる。おっさんは冒険者のルールを守り、俺に伝えなかったようだ。
「そういえばクジャク姉は何で、モーブがセンティーレと婚約する事に驚かなかったの?」
「薄々そんな気はしていたからな」
クジャク姉の勘はやはり鋭い。




