4章 更に西へ6 -この世界初の銃-
工房の入り口付近にはいなかったので、奥にいると思い大声で叫んだ。
「バニラさん、いますかー!」
「誰だ。騒々しい」
そう言いながら、奥からバニラがハンドガンを持って出てきた。
「おう、お前さんか。今完成したところだ!」
「銃の事も大事だけど」
俺の後ろに隠れていたリリスが顔を出した。
「叔父さん、久しぶり」
「おうリリスか!久しぶりだな。どうしてこの街に?」
リリスは手紙を貰い、銃を見たくてこの場所を目指したようだ。だが、道中で盗賊の集団に捕まり奴隷にされ、この街に来た事、その後すぐに俺に助け出された事、俺達が婚約した事を話した。
勿論、ルーシェとクジャク姉とも婚約した事を話した。彼は2人とも面識があるしね。
「驚いたな。そうするとあれだな。全部この銃って武器の話を、お前さんが俺に話した所から始まってるんだよな。縁ってもんはわからねぇもんだな。3人を泣かせるような事はするなよ?」
俺がバニラに銃の事を話さなければ、彼女が奴隷になる事もなかったんだよな。その点について後で謝ろう。
「それで叔父さん。ジュウって武器の試し撃ちはしたの?」
「まだやってない。ハナトリにやってもらうおうと思ってたところで、丁度冒険者ギルドに行こうと思ってたんだ」
「別に俺じゃなくても良くないか?」
それぐらい自分でやれば良いと誰もが思う。
「俺のポリシーでな。作成したら最初は依頼者に試してもらってるんだ」
やはり変人だ。
「叔父さんらしいな」
「それじゃ試しに使わせてもらうとしよう」
俺はハンドガンを受け取った。
「それで銃弾はどこにあるんだ?」
「弾切れを起こした時に、色々と面倒そうだったからないぞ。そこは錬金術師の力を使って、代わりに魔力を弾にできるように改良してみた」
「なるほど。理には叶っている」
俺達は、バニラの工房にある訓練場に移動した。試し撃ちや試し斬りはここで行うらしい。
「それでどこに向けて撃てばいいんだ?」
「矢が刺さっている的に撃ってくれ。そいつ専用の的はまだ作ってないからな」
的に銃口を向けて引き金を引いた。しかし何も起こらなかった。カチカチ音が鳴るだけだ。
「色々な武器を作ってきた叔父さんでも、失敗する事があるんだね。僕はじめて知ったよ」
「理論的には完成してるんだが。何が原因なんだろうか?」
「おそらく俺に原因があるのだと思う。その辺は俺の能力に関わる事だから、詳しくは言えない」
「冒険者だし、仕方ないか」
バニラは何となく察した様であった。
リリスは俺達が話している間、ハンドガンをずっと眺めていた。俺に使えないのであれば、他の人に使って貰った方が良い。
「リリス、試し撃ちして見るか?別に構わないよな?俺は試したわけだし」
「叔父さん、いい?」
「勿論良いぞ」
リリスにハンドガンを渡し、彼女は銃口を的に向けて引き金を引いた。弾ではなく黒いビームが出た。
「俺が思ってたのと違うな」
「確かにお前さんが話してたのと弾の形状が違うな。まぁ原因は簡単な事だ」
「どう違うのか僕にわかるように説明して欲しいな」
リリスに弾の形状について教えた。バニラ曰く、原因はリリスが弾の形状を意識して撃たなかったため、こうなったらしい。
弾の形状を意識してリリスが撃った銃弾は、俺達の思っていた形状になっていた。
「この銃はリリスのものだ。俺はうまく使えそうにないし」
俺には魔力を変化して撃つ武器、故郷から持ってきたこの弓がある。前世で銃を撃ったことは無いし、この世界では生まれてから弓をメインに生活してたからな。今更銃を扱えるようになるより、弓を使った方が安全に戦える。だから持っていても使わない。
それにリリスの装備は今の所ないし、彼女なら、すぐに扱えるようになるだろうと思ったから。
「え?僕にくれるの?でも…」
リリスはバニラの方を見て様子を伺っていた。
「もうそれは、こいつのものだ。リリスにプレゼントしようが、俺の知った事じゃない」
バニラは笑いながら言った。
「叔父さん、ありがとう!」
リリスはとびきりの笑顔でこう言った。彼女はその後何回か試し撃ちをした。
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俺たちはギルドへ戻り、ルーシェとクジャク姉に、リリスの叔父がバニラであった事と、銃という武器について話した。
「2人も使って見ないか?」
「私は今まで通り杖でいいわ。扱い辛そうだし」
「便利なのかもしれないが、俺はずっと使ってきた刀で充分だ」
「結構簡単に扱えるんだけどな」
リリスは数回撃っただけで扱えるようになっていた。上達の速度がおかしいと思ったのは俺だけではないと思う。




