3章 錬金国家アルケミー73 -37日目・彼への信頼-
話を聞いたモーブは、冷静に見えた。冷静に見えているだけで、内心どう思っているかはわからない。彼の表情は非常に読み取りにくいし。
「報酬はいらないので早いとこ行かせてください」
「そういうわけにもいかん…」
「…だったら戻ってきてからにして下さい!」
モーブは叫ぶと、俺の手を掴み能力を使った。街の外れの丘までワープしていた。
能力で世界と同化して解除するだけで、任意の場所に行けるとはすごい能力だと思う。
モーブは俺から手を離し倒れた。
ワープした事で彼はかなり消耗したようだ。
「予想してたより魔力をだいぶ消費するな…」
そう言うと魔力回復薬を数本、袋から取り出し飲みはじめた。1本目を飲みほし、2本目の瓶の蓋を開けるのを俺は静止した。
「魔力なら俺が渡します」
「そんな事までできるのか…」
驚いているモーブの手を掴み、魔力を回復させた。
「色んな意味で気持ち悪いが、今はそんな事を言ってられないな…」
「そこは我慢して下さい」
俺だって男の手を掴み続ける趣味はない。
道具は有限だけど、俺の魔力は無限にある。これが最適だと思ったから、仕方なくやっている。
「それで作戦はなんかあるんですか?」
「君は身代金を渡しに来た商人をやってくれ。あとは私の方でなんとかする」
「それって、俺が危険に晒されてますよね?」
「…しのごの言わずやれ!お前ならできるだろ!」
明らかに相手は複数人で来る。商人が1人で出ていったら行ったら確実に死ぬ。その辺は俺だから問題はないが。
いつもの彼だったら、自分からその役を買って出ると思うし、今の彼は冷静じゃないな。
そんな事を考えていると、モーブの姿は見えなくなっていた。
「おい!そこのお前!商人ギルドの使いのもんか?」
山賊風の男が話しかけてきた。
ここで状態確認を使い欲しい情報を得た。
人数は話しかけてきたこいつを含め10人、能力値は全員Cランク並みで、能力は全員・保護色。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
保護色【姿を隠せる】
止まっている間、周りの風景と同化する能力。
足の裏で触れているもの以外にも影響を及ぼせる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そうだ。彼女は無事なんだろうな?」
手足を拘束されたセンティーレを抱えた山賊風の女が、姿を現した。
「身代金が先だ」
俺は金貨10枚を袋から取り出して、取り出した袋とは別の袋に入れ渡した。
「金貨10枚、確かにあるだろ?」
「解放してやれ」
盗賊風の男が袋の中身を確認したのち、盗賊風の女に指示を出し、センティーレの拘束を解いた。
彼女は走って俺の方へ来た。俺のところへたどり着いた時、周りを囲むように盗賊風の人達が姿を現した。
「この方々、私達を返す気はありませんよ…」
「わかってますよ。そんな事」
やろうと思えば、いつでも相手を瞬殺できる。状態確認で位置を把握して、見えない手+手加減で。
まぁ、今回は彼に任せるとしよう。瞬殺したら彼の事を信用してない事になるしな。
「お前たちを生きて返すわけには…」
最初に俺に話してきた男が言い終わる前に、盗賊風の格好をした10人全員が倒れていた。全員が、毒・麻痺・眠りの状態になっていた。
一つだけではなく3種類の状態異常を全員に仕掛けたあたり、物凄い殺意を感じた。




