1章 ジャポネーグ国11 -自称ルーシェと旅の準備-
「もし私が大罪人だったら、逃したあんたも大罪人よ?それでもいいのかしら?」
「大罪人?それは無いと思う。せいぜいできて盗み食いがいいところだな」
「失礼ね。そんな事しないわよ!」
「大罪人を否定したのにそこには触れないのか」
「一言余計よ!」
大罪人と言っていた時、この娘の顔は悲しそうだった。だから余計なことも言った。必ずツッコミを入れてくると思って。
「あんたの名前は?」
「俺はセッテ・ネコヤナギだ。それで君は?」
「…」
「名乗らないのかよ」
「名乗れないのよ。訳あってね…」
「わかった。”名無しの権兵衛”って呼ぶ事にする」
「名前はあるからやめて」
「駄目なら、”ジェーン・ドウ ”だな」
「似たようなものじゃない」
「もしかして俺と同じ世界から来た人なのか?」
「は?意味が分からないわ」
この世界でも名前が分からない人の呼称は同じなのか?
「名前が分からなかったら呼びようがないんだけど」
「私の事はそうね……『ルーシェ』と呼んで」
【能力:状態確認】で見たから彼女の本当の名前を知っている。
彼女は名前を名乗れない事情があるようだ。罪を犯しておらず逃亡しなければならない何かしらの理由が。
名前がわかっていても彼女が自ら名前を教えてくれるその日まで、ルーシェと呼ぶことにした。
「わかったよ、ルーシェ」
「それで、どうやってこの城から出るのよ」
「隠し通路を使う。隠し通路から小舟を用意してある入り江まで行ける。隠し通路はこの部屋にもあるぞ。だけどこの部屋の隠し通路を使うと、非常に厄介な事になる可能性がある…」
「厄介な事って?」
「俺が入り江に着くと、必ず待ってる奴がいる」
何回かこの部屋の隠し通路を使って、城を抜け出したのだが、何故か入り江には必ずクジャク姉がいた。
彼女が待っていた場合、曲者であるクリスに容赦なく攻撃をするだろう。
だが今回は城内で曲者を探しているので、入り江にはいない……と思いたい。
「他の隠し通路を使った方が入り江まで早く着くけど、城内を移動するのは危険だな…。少し歩く事になるけど、この部屋の隠し通路から外に出るしかないな」
この部屋からだと、他の部屋に比べて入り江まで少し遠い。
【状態確認】で城内の人間の動きをみてみた。かなりの数の人間がまだ曲者を探し回っているような動き方をしている。彼女を連れて動くのはリスクが高い。
「その前に俺に旅立つ準備をさせて欲しい。準備している間、服を着替えておいて。男物で悪いけど」
「その言い方だとあんたもこの国からでるように聞こえるんだけど」
「そりゃそうだろ。曲者を逃がそうとしてるんだからさ。もしもの時の為だ」
拘束を解いて彼女に忍び装束を渡した。
とりあえず帯のやり方を教えた。手甲や脚絆等はあとで俺がやればいい。早くこの城から脱出したいし。
「ちょっと他の部屋に用があるから、その間に着替えをしといてくれ」
そう言い終えた俺は、非常時に持ち出すための道具袋を持ち、部屋を出て食料庫に行った。そこで、兵糧丸みたいなものを袋に入るだけ入れた。誰かに見つかると、食料を持ち出した理由を問われそうなので、帰りは誰にも見つからないように食料庫から出て、自分の部屋に戻った。
彼女の着替えは終わっていた。急いで彼女に手甲・脚絆等の装着を俺がやり、俺は昔からこの部屋に飾られていた弓を背負った。
準備できたし、出発するとしよう。
俺は弓が置いてあった場所の床を外し、隠し通路へと入った。




