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ヴァンパイアなんて怖くない!?〜銀と月〜

作者: 兄琉

 ※前作「ヴァンパイアなんて怖くない!?」のサブストーリーのような位置づけの作品なので前作を読まれてから読む事を推奨します。

 後、バトルはありません。

 ねぇ、ヴァンパイア(吸血鬼)っていると思う?



 っと、あれ?君は確か…あぁ、あの時の。

 久しぶりだね。そうでもないかな?


 隣の君は…はじめましてだね。


 今夜もお話を見に来たのかい?

 ふふ、やっぱりね。瞳がそう言ってる。

 今晩はこいつの調子もいいみたいだし見せてあげれそうだ。


 さてさて前は何を見たんだったかな?

 ロキと桜の出会いの話か…。

 あの出来事は起こるべきして起こったのかどうなのか・・・おっと、今はここまでにしておこう。

 楽しみってのは後に取っておくものだよ。ショートケーキのイチゴみたいにね。


 となると次はこの話かな。

 ん?…そうか、君ははじめてだったね。後で教えてもらいなよ。

 隣のお友達は早く続きを見たくてうずうずしてるよ。


 さてと、じゃあ早速始めようか。



 今日のお話は満月の夜に出会った、とある有名なエクソシストととあるヴァンパイアとの出会いのお話…。



 え?僕はだれかって?

 しつこいなぁ、君は…。死にたいの?

 ふふ、冗談だよ。



 さぁお話が始まっちゃうよ?

 今回の主人公はあの有名な退魔師、銀次だよ…。





「……ふぅ、どうやら振り切ったかな?」


 ガサリ、と木が揺れたかと思うと男が茂みから顔を出した。

 見た目は20代前半ほど、少し背が高いだけの至って普通の男…に見える。

 見える…とはどういうことか。つまり、この男はヒトではない。


 この男はヴァンパイアだ。いたって普通のニット帽に革のジャケット、両手にはまった皮手袋、ジーンズ……。

…それでも男はヴァンパイアだった。


 男は体のところどころに汗で張り付いた葉をはらい立ち上がった。

 空に浮かぶ満月を背負って立つ姿は絵になっている。


「さて、と…どうしたものか。」

「おう俺もどうしようか悩むところだ」


 ヴァンパイアの小僧はこちらの声に驚き、俺を視認した後で距離を取るように下がった。

 俺はというと顔を茂みから出したままの何とも情けない格好だ。


「20分ほども同じ茂みに隠れていた仲。警戒を緩めてはどうだ?」


 俺はゆっくりと諭すように言う。顔を茂みから突きだしたまま。

 小僧の方は驚愕をあらわにするがすぐに表情を引き締める。

 なかなかいい顔をしている…。まだ粗削りだが素質はあるようだ。


「ふふ…磨けば光る原石というやつか…面白い。」

「そんなことを言っている暇があったら出て来い」


 冷静に突っ込まれた。

 俺はゆっくりと茂みから体を出し、葉をはらった。

 小僧の体は衰弱しきって、魔力も尽きかけている。


「さて、と…どうしたもんかね。」


 俺は左手の中指と親指の関節をはじきパチンと軽い音を一度ならした。

 小僧の体を微弱な魔力が覆っているが、俺はあることに気がついた。

 …小僧の左手の甲を中心に血縁者らしき魔力の流れを感じる。

 封印、血縁、花嫁…様々な単語が俺の頭の中を巡りひとつの答えを導きだす。


「なるほど、小僧が花嫁の寵愛を受けた息子…というわけか」


 俺は視線を小僧の左手に移す。すると反射的に小僧は左手を抑えた。無言の肯定とみていいだろう。

 さて、と…ここで問題がある。


(何故こいつはここにいるのか?何故、隠れていたのか?)


 俺は先日からとあるヴァンパイアを追っている。

 ヤツの仲間か…?いや、それにしては衰弱しきっている。

 しかし追われている身には変わりがないのだろう、本当にあれが花嫁の寵愛の証(キス)ならばだが。

 となれば偶然か…?いや、元老会(クソじじいども)が手を回していると考えれば納得はいくか。

 小僧をここへおびき寄せ、俺の追っているヴァンパイアに殺させる腹か…?

 俺は結論を弾き出すと同時にすべきことを考える。


(俺はこの小僧を一度守らねばならないのか)


 小僧が本当に花嫁の一人息子なのであれば…俺は約を果たさねばならない。

 そして何より俺のエゴとも言える、ある考えがその結論を導いた。


 俺は…愛する者に手を下させる様な真似はごめんだった。


「さて、と…どうする?死にかけの体で俺と戦うか?それとも逃げるか?」

「あぁ…戦って死ぬのも悪くはないかな、もう、疲れたんだ…。同胞でない退魔師ならば契約に反していないだろう」


 小僧はフッ、と力なく笑みを浮かべ俺に近づいてくる。


「小僧…お前自分が言っていることを分かっているのか」


 花嫁の寵愛は肉体を糧として発動するヴァンパイアの中でも花嫁にしか扱う事が出来ないとされている最上級の秘法だ。

 だが、イコール死、ではない。

 封印を正常な手段で解除することができれば、花嫁は元に戻る。

 寵愛の証の秘法は同胞であるヴァンパイアに殺されると、その封印の糧となった花嫁の魂はこの地に縫い付けられ浄化することがない。

 だが退魔師となれば話は別だ。退魔師の浄化の秘法を以てすれば封印者と花嫁の魂を同時に浄化することができる。

 平たく言えば、眼の前の小僧ごと花嫁を浄化…つまりは殺すという事だ。


 …だが、俺には浄化の秘法を使う事が出来ない。

 とある力を手に入れたことにより俺の退魔師としての力は制限された。

 仮に俺に秘法を行使する力があったとしても…。


「いたぞッ!逃がすなっ!」


 怒声と共に小僧の追手であろう男が二人ほど現れた。

 俺が後ろを振り向いたときにはすでにボウガンの矢が放たれて、確実に俺と小僧を貫くライン上に矢は乗っていた。

 小僧に避ける様子はない、避ける元気もないというのが正解だろうが。

 このままでは二人ともやられる…はずだ。

 しかし…


 俺は左手をボウガンの飛んでくる方に突き出し、親指と中指の関節を擦り合わせるように二度滑らせ…



 パチン、パチンという乾いた音が二度、公園に響いた。



「いつッ!」


 確実に俺たちを貫くはずだった矢は一本は小僧の右手をえぐり、もう一本は俺の顔の横を通って公園の木に突き刺さった。


 立て続けに放たれた3本の矢に対して3回指を弾く。舞い戻った矢によって射手は短い悲鳴と共にその場に倒れた。

 これが俺の力…呪われた力だがな。

 ふと視線を動かすと、右手を抑えて今にも倒れそうな小僧が目に入った。俺はその場に崩れ落ちかけている小僧に駆け寄り抱きとめる。


「おい、大丈夫か…」

「…ぐぁ……」


 麻痺系の毒でも仕込まれていたのだろう、小僧の体は不規則に痙攣を繰り返していた。

 俺は意識を失いつつある小僧の右手袋を破き去り、止血を施した。

 意識が朦朧としているのか小僧は左手を空に泳がせ何かを優しく掴むような仕草を見せる。


「…か…かぁ、さん…」


 そこで小僧は力尽き、意識が途絶えたようだった。

 俺は近くのベンチに小僧を寝かせ、俺もベンチに静かに腰かけた。


 やはり、こいつは今倒れるべきではない。


 愛する者を愛する資格がある者は倒れるべきではない、と俺は思う。





「く……」

「む、小僧やっと目を覚ましたか」


 俺はベンチに腰掛け煙草に火を付けようと指を弾く。煙草に火が灯り、煙が満月の浮かぶ空へと舞い上がってゆく。

 煙が体中に循環し満たされる。俺は両眼をつむってその至福の時を味わっていた。


「余裕だな…、俺が攻撃してくるとは考えないのか?」

「ふ、お前はそんなことしないさ…」


 小僧の頭の上に疑問符が浮かぶ。

 俺は思っていることをそのまま言葉に乗せて小僧へと運んだ。


「小僧、優しそうだからな。お人好しってやつだろ。優しすぎるほどに…な」


 一瞬呆気にとられたような顔をして、少しの間をおいてムスっと不機嫌な表情を浮かべる。

 思ったよりも色々な表情ができるんだなとよくわからないところに感心した。


「ふん、そのうち寝首を掻かれるタイプだなあんたは」

「ははは、そう機嫌を悪くするな。…ん?」

「……?」

「いや、気にするな」


 ピクリと『領域』内にノイズが走り、俺に信号を送ってくる。

 わかってる…そう急かすなよ。


 小僧は体を起こし、俺の隣に腰掛けた。

 呼吸は弱弱しく体力魔力共に限界に近付いているようだった。このまま放っておけば一時間としないうちに死ぬだろう。


 仕方ない…か。

 俺は懐からナイフを取り出すと左腕に一筋の傷を入れた。

 ピリッとした痛みと共に血がトクトクと溢れ出る。


「な!あんたなにして…」

「おら、小僧血やるから飲め」


 俺は左腕を小僧に突き出して血を飲むように催促する。

 小僧は吃驚した後自嘲的な笑みを浮かべた。


「いらないよ…」

「いいからのめっつーの、格好つけんな小僧が。ここで倒れて約を破棄する気か?」

「あんたなんでそれを…イタッ!無理やり押し付けんな!」


 問いただされる前に小僧の顔を腕に無理やり押しつけるようにする。俺の言葉を聞いてか今度は大人しく飲み始めたようだ。どんどん回復していく様が手に取るように分かる。

 小僧が回復しきった時には俺の方が吸い取られてしまっていた。


「小僧、存分に吸ったか?」

「あ、あぁ…」

「しこたま吸いやがって、もう力でねーよ」

「……すまない」


 久しぶりの血に夢中になってしまったのだろう、小僧は顔をうつ向け謝ってきた。

 俺は元気を見せるために力を振り絞ってベンチから勢いよく立ちあがった。


「ま、気にするこったねーな!さて、と…俺は今からある奴とここで会うんだ、ほら行った行った」

「……そうか…なら、最後に名前を聞かせてほしい」


 少しの逡巡の後、最後に、という言葉を少し強調した。

 どうやら俺の空元気なんぞ見抜かれていたらしい。

 ならば隠すこともあるまい。守る者がいるやつにもう一人託してみよう。

 そして、ヴァンパイアの花嫁が俺に託した一つの約と同じ約をこいつに託してみよう。


「俺か?俺の名前は銀次、崎守 銀次だ、もう会う事はないがな!」

「ありがとう。銀次…さん、またいつか…いや、冥府の淵で会おう」

「あぁ、最後に一つ頼みがあるんだが聞いちゃくれないかい?」

「俺にできることなら、なんでも」

「暫くした後に、この街に桜って娘が来ると思うんだが、もし会ったら一度でいい…守ってやってくれないか?」

「……覚えていたらな」


 まぁ一度でも関わりを持てば桜が小僧の方を放っては置かないだろうが、というのは伏せてこう。

 俺なりのいたづら心ってやつだ。


「桜はよぅ、まだ正式な退魔師じゃないのに付いて行くってうるさくてなぁ。一人の父親として、心配なんだよ…。頼んだぞ」

「俺もヴァンパイアのはしくれ、約はしかと受け取った」


 小僧は公園の出口へゆっくりと歩を進めていった。

 これが俺と小僧の最後の会合。

 罪を背負い、留まり続ける事しか知らぬ俺。

 目の前の重圧に耐えられずに立ち止まっている小僧。

 まだ進むことはできる可能性が小僧にはある。

 ならばせめて、俺は隣で立ち止まっている小僧に通過点として一つのメッセージを送ろう。


「なぁ、小僧…言っておきたいことがある」

「…なんだ」

「どこかへたどり着くためには、今いる場所を離れる決心をしないとダメだ…。これを覚えておけ。」


 一つを選んでしまった者から、選択の岐路で立ち止まっている者への最後の言葉。


「その言葉…心に留めておく。だが、俺は自分自身で道を拓く」


 歩き出そうともがく者から、自己満足を選び続けた者への最後の言葉。


 退魔師はその場に残り

 ヴァンパイアはその場を後にした




 その場に残った退魔師は、最後の戦へと赴く。


「さて、出て来な…ジェイグ」


 茂みから出てくるは、暗闇に生きる者。


「ククク…、吾輩も甘く見られたものだ、崎守銀次よ。わが血肉に宿る愛する者(ローザ)の恨み、今ここで晴らしてやろう!」


 愛する者を失った者同士の戦いの舞台が今ここに静かに幕を開ける。


「暴走を完璧なまでに抑え込んでいる精神力には感服するが、簡単にはやられんぞ」


 永き愛の戦いに純然たる決着を…死をもって救われるまで。


「ほざけ、死に体がっ!」

「退魔師・崎守銀次、参るッ!」



 二人は舞踏のように舞い踊る。

 満月の舞踏会、くるりくるりと狂うように…。






 <つづ・・・かない?>

 短編です。短編なのに…なんでこんなに伏線を残すのかと(怒

 自分にドロップキックかましたい今日この頃、兄琉です。


 今回の作品は位置づけとしてサブストーリーなので少し短めでした。ついでにバトルもありません。若干銀次の力とか出てきましたけど…。


 長々と書くのもアレなのでやめておきます。

 今回もここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

 少し興味を持って今作を読んでくださった方、前作共々可愛がってくださるとうれしいです。

 では、今日はこのあたりで…感想評価お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちわー(笑 またまた参上つかまりました。そして記念すべき400作品目の評価でもあったり(笑 時間軸としては、前作より前になるわけですね。 ……この伏線は、シリーズ化ということでよいのかな(…
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