第三話:【淫魔との調合でついに・・。】
室内は沢山の棚に囲まれており、図書館のようだった。
そこまで広くはないが棚の一段一段に調合に利用するであろうハーブや魔物の爪などが種類別に並べられていた。
リカルドはさらに奥に進み、鉄の扉の前までに着くと私に一枚のカードを渡す。
「こちらの扉の鍵は血族でないと開けられない施錠の魔法がかけられております。
そして、っと、こちらがノブレス様のみにダイスケ様から預かっているカードになります。
そちらの錠前にこのカードを近づけて、開けてください。」
いくら田舎暮らしでも、ロック魔法くらいは知っているんだけどな・・。
と思いつつも逸る気持ちをおさえ、そのカードを受け取りそっと錠前に付ける。
ほうっと光を錠前とカードを照らしたと思ったかと同時にカチリと開いた音がする。
「では私はここでお待ちしておりますので、終わりましたらお声掛けください。」
「リカルドさんは中に入らないのですか?」
「ええ。ダイスケ様から昔から入るなと言われておりますので。」
思っている以上に律儀な人なのだなぁと思いながら扉の奥に入っていく。
中に入ると大きな机と調合機材が置いてある。オシャレな絨毯は靴の足跡で薄汚れているように感じる。
窓が無いせいか、空気は多少重く感じる。たぶんそれは調合機材が原因だろう。
調合途中なのだろうか、片方のフラスコにはなにやら赤黒い液体が入っている。それがまるで血液のように見えたのが気分が重く感じたのだろう。
机の上にはざっくばらんに本が置かれている。
内容は見たこともないめずらしい書物がならんでいる。せいぜい知っているのは魔物図鑑だろうか。
私は机に近づくと【ノブレスへ】と書かれた日記が置かれていた。
それを手に取り中身を見る。
==ノブレスへ==
この日記を見てくれているだろうか。そうであるならば私は感謝をしつつノブレスに頼みたい事がある。
私は先日、ついに古代の魔法術書から私が探し求めていた秘術の解読に成功した。錬金術として心を読み、操る薬だ。あぶない秘術なのはノブレスにもわかるだろう。
ここで重要なのが、なぜ私が解読をできたのかという事だろう。私も最初、なぜ解読できるのか理解できなかった。だが、わかったのだ。これが異世界での言語ということに。
今まで転生者は何人も生まれているが、この古代の魔法術書に辿り着くことができなかったのであろう。
東の大陸の亜種族を助けた際に貰った物であり、深海から見つかったそうなのだ。少なからず悪用されなかった事だけでも良かったのだが、この錬金術を成功させたいのだ。転生前のニホンについての情報が手に入るかもしれない。生身の人間だけでなく、魂まで読む事が可能であるならばより異世界との関係がわかるかもしれない。
だがここで重要なのが、その調合内容だった。亜種族の一部であるサキュバスの血液は交換条件で手に入ることができたのだが、もう一つ。異界魂の寿命を削った魂石が必要なのだ。命を削って作る魂石だ。それも異世界からの・・だ。
私は今年で88になる。魂石を作る為にはここから更に寿命を削ることになる。もし、もしだ。
私の身になにかなにかあった時には、ノブレス。君にここまで来れるように手配をしておく。そしてこの部屋へと辿り着き、錬金術を完成させて能力を使い、世界を見届けてほしい。そして異世界とは一体なんだったのか。魂と会話ができるのならば私とも会話をしてほしい。私の息子には錬金術としての知識は乏しい。頼めるのは君しかいないのだ。
頼む。ノブレス。祖父のわがままをどうか受諾してくれないだろうか。
日記はここで途切れている。
私は祖父の願いを理解するのに動揺しながらも整理する。心を読むというのは魔法界でも禁忌であり、錬金術としてもそんな話は夢のような話である。
だが、あの祖父がどうして亡くなったのか。私はこの日記を見て、改めて理解することができた。
祖父は完成させたのだ。自らの命を使って世界の理を知る機会を。
錬金術を嗜む私はもちろん興味は今までにないほど興奮している。秘術を学ぶというのは私には一生巡り合わないかもしれない。
だが、それと同時に感じたことのない不安もせり上がってくる。
祖父が求めていたもの。祖父が知りたかったもの。
錬金術として私を頼ってくれたのだ。私しかいない。
果たしてどのくらいの時間が経ったのか、短いのか長いのかわからない。
ただ、ふらふらと赤黒い液体の入ったフラスコを機材から外し、手に取る。
興奮する心臓の音がより激しく聞こえる。
私にできるのだろうか。そもそも完成はしているのだろうか?
どうすればいい?色んな不安はあるが、私は息を呑む。
フラスコを口元へ近づける。手が震えているのがわかるがこれは喜怒哀楽の感情が全て混ざりあった結果なのだろう。
唇につけフラスコの中の液体を口内へ流し込む。
感じることのない味に体が拒否反応を起こす。だが、ここで諦めない。
ぐっと一気に飲み干す。
突然のめまいと頭痛。
体が動かない。私は手に持っていたフラスコを地面に落としてしまったのかガシャンと音がなった気がする。だが、そんなことは一気に薄れてしまい、ノブレスはそのまま気絶してしまった。