【4.最悪な朝】
第5話〜第8話まで一気にUPしました。
楽しんでいただければ、嬉しいです。
ピピピピピ・ピピピピピ・ピピピピピ・ピピピピピ……
「……うるっさい……」
アヤコは、ガンガンと響く様に痛む頭に眉間へと皺を寄せながら、携帯のアラームを消そうと手を伸ばす。最もありがちな、二日酔いのパターンだ。
何時にアラームセットしてたっけ……?まだ夢から覚めていない……と云うよりは痛みで回っていない頭で考える。けれども、そんな状態の脳ミソが的確な答えをくれる筈もなく……。
何とか手繰り寄せた携帯の時刻表示に目をやる。
6時ジャスト。
頭は、まだ中で何かの金属音が鳴り響いているかのように痛い。
「……何だ、まだ6時か……。」
アヤコは、ホッとして呟く。
「あったま、痛ぁ……。」
何でこんなに頭が痛いんだろう……?不思議に思いながら昨日の記憶を辿ってみるけれども、靄が掛ったかのように上手く思いだせない。
「――えっと、……何だっけ……?」
小さく身じろきをして、軽く寝返りを打った彼女の視界に入って来たものは――見覚えのない天井と部屋。しかも、どうやら自分は何一つ身に付けていない――らしい。極めつけは、自分が寝ている場所のすぐ隣にある、不自然なブランケットの膨らみ。
一瞬にして、絢子の脳が覚醒する。
「ま、まさか――ね。」
若干震える声で自分自身に言い聞かせながらも、恐る恐る、ブランケットの端を摘まんで、ゆっくりと剥いで行く。絢子の心の中は、祈る思いで一杯だった。心なしかブランケットを摘まむ指先が小刻みに震えていた気がしたのは、彼女の気のせいではない。
祈りも空しく――ブランケットから出て来たのは、若い男。絢子の記憶の中には全くない、『男』が気持ち良さそうに寝ている。
「どう云う事……?私――、ウソでしょ……?」
一瞬、昨夜の自分の行動に想像を巡らせると、軽く眩暈が起きた。が、今はそんな事を考えている場合ではない――。やっと目覚めた絢子は、いつも程ではないにしろ、幾分か冷静だった。
まだ痛む頭を抱えて必死で身支度を整えると、財布から数枚お札を抜き出してナイトチェストの上に置く。この程度考えが回るくらいには、既に冷静だったのだ、と彼女自身は思う。
そうして、スヤスヤと寝息すら立てて眠っている男の姿を出来るだけ視界に入れないようにしながら、急いで部屋を後にしたのだった。
文字通り、一目散に。昨夜の出来事全てから、目を背けるようにして……。
「やっばい、遅刻する!」
取り敢えず渋谷の駅まで戻って来た絢子は、コインロッカーから制服を引っ張り出すと、いつものトイレへ駆け込んだ。本当はシャワーを浴びたい所だったが、時間的に無理。兎に角、何も考えずに着替えて学校へ向かう事にした。
今日は、2時間目に体育があった筈。その後にシャワールームを借りれば好いだけの事だ、と冷静に判断した結果の行動だった。
しかし、人生初のこの状況下(二日酔い&朝帰りのダブルパンチ)で、例え絢子と言えども決して冷静で居られる筈などなかったのだった――。