風紀委員の男の正体
「なんだか凄い先輩だねー」
「うん」
目の前で起きている光景に驚く叶の言葉に対し、心ここに在らずといった様子で答える青空。
青空は思い返していた。
先程、あの風紀委員の先輩は素速く左手を振り払って、太陽の両足を前から引っ掛けた。
その衝動で太陽は地面に顔をぶつけそうになったが、先輩がこれまた素速い動きで太陽の前に回り込んで、それを受け止めた。
素速い手の振りに身体の動き。
もしかして、あの人、と青空の中である考えが浮かんでいた。
「とにかく、お前の行動は自分も怪我をするし、周りの者も怪我をさせかねない非常に危険な行動だ。分かったか?」
「……はい」
「よし。良いだろう。立て」
約5分程続いた説教の時間も終わり、太陽は俯きながらよろよろと身体を左右に揺らしながら立ち上がった。
恐らく足が痺れたのであろう。青空は1つ溜め息をついて、その様子を見ていた。
「そうだ。俺の名前を言ってなかったな」
説教も終わり、その場を立ち去ろうとした先輩は背中を向けた思い出した様に太陽へ告げた。
「俺の名前は道 良示、クラスは2年A組で、委員会では風紀委員長、部活動では卓球部主将を務めている。俺に用事がある時は、日中はクラス、放課後は体育館の近くの卓球場を訪ねて来れば良い」
「……へ? 卓球部主将?」
太陽は良示の自己紹介に気になる点があり、俯かせていた顔を上げて尋ねたが、もう目の前にはその姿が見当たらなかった。
「あの人、卓球部主将だって言ってたね」
「青空」
「大丈夫? 太陽君」
太陽の元に先にやって来た青空は特に気遣う素振りも見せずに一言呟いていたが、叶は太陽の側に寄り添ってふらふらの身体を支えようとしていた。
太陽は叶に身体を支えられながら思った。
先程の堅物が卓球部の主将。つまり、これから卓球部に入部するという事は、これから先、放課後は毎日あの堅物と過ごすということ。
「うっそーーー!」
太陽はこれから自身に始まるであろう薔薇色の中学生活が今この瞬間、潰されたと思い知り、絶望のあまり叫ぶ事しか出来なかった。