風紀委員の男
青空と叶が呆れ返っているとホイッスルが鳴く音が響いた。
「そこのお前! 一体、何をしている!」
「むっ?」
怪訝そうな表情で様子を窺う太陽の元に駆け寄る「風紀委員」の腕章を右腕に着けた上級生っぽい男。
「なんか、いかにも風紀委員といった感じの人だね」
叶の一言に頷く青空。
太陽の元に駆け寄った男の風貌は、ショートの黒髪に眼鏡を掛けて制服をしっかりと着こなし、その見た目から生真面目だと窺える。
「なんだ? あんたは?」
太陽は明らかに上級生の男を相手にしても、一歩も退くことなく上から目線で相手の正体を尋ねた。
「俺の名前よりまずはそこから降りてもらおうか」
「えっ?」
その刹那、太陽の視界がぐらついた。
気がつくと太陽は塀の上から落ちており、目の前にはアスファルトの地面が広がっていた。
(ぶつかる……!)
太陽は次の瞬間、迎える衝撃に覚悟を決めて目を瞑った。
すると、いつまでも顔面に訪れるはずの衝撃が伝わらず、身体に暖かい感触が伝わってきた。
どういう事だ、と太陽は恐る恐る瞼を開く。
目の前に広がっていたのは黒い学ラン。
「大丈夫か?」
そして、耳元で聞こえる男の低い声。
太陽はまさかと思いつつも今の自身の状況を理解して、顔を赤らめた。
今、塀の上から落ちてきた太陽は上級生の男に受け止めてもらって抱き抱えられている状態なのだ。
周囲からはひそひそとその様子を楽しんでいる微かな笑い声が聞こえてきた。
「は、離せ!」
太陽は恥ずかしさから身体をバタつかせ、上級生の男から解放されようとした。
「ふむ。離してはやろう。ただし、そこに正座しろ!」
「……はい」
太陽は上級生の表情こそ変わっていないが威圧感のある命令に、思わず身体を強張らせ、身体を解放された後、すぐさまその場に正座をした。
「お前。あんな所に立っていたら危険だろうが」
「いや、俺はこれから始まる中学生活に弾みをつけようと思っただけだ!」
「口答えするな。それに俺は2年生だ。言葉遣いに気をつけろ」
「……はい、すいませんでした」
「すいませんじゃない。すみませんだ」
「……すみません」
太陽は上級生の男の威圧感にすっかり萎縮してしまい、身体を縮めて長くなりそうな説教を受けていた。