Tell me one thing you like.
目の前で散る命も、洗って仕舞えば落ちるこの血も誰が尊いと謳ったのだろう。
(ほらね。またこうやって簡単に、なくなるだろう?)
誰にでもないことを問いかけながら今日も任務をこなした。心の奥の方で、高い音が鳴った気がした。
忍びなんて文化がだいぶ薄れたこのご時世でも、僕は生きていた。悪いことを考えるひとがいる限り忍びはやはり必要になるようで僕は今の今まで不自由なく生きてこれた。
けれどこれからどんどん忍びはいなくなるだろう、というより忍びと呼ばれることはなくなるだろう。なら、なんと呼ばれるのだろう。
「(なにかぴったりな呼び方があったような)」
「ひっ、人殺し……!」
「…ああ、」
そうだ、それだ。
よく知らぬひとの命を奪ってから、僕はまた夜に消えた。
忍びの里で生まれ育ち、この生き方以外を知らなければ興味もない僕は今日もせっせと忍びとして働いていた。
忍びなのに有名、というのは可笑しいけれど凄腕の忍びの先輩はてんで腑抜けになっていて今や殆ど忍びとしての機能を果たしていない。それどころか恋人なんて作ってのほほんと生きている。
興醒めだった。
そんな今、里では時期長として、彼ではなく僕の名があがっている。こんなに名誉なことはない。忍びの里の長になり、優秀な忍びを育て働き続ける、生き続ける。何よりも、忍びとして。
(そうでなければ、でなければ、僕はただの、)
頭に浮かんだものを振り払えい帰り道を急ぐ。
静かな夜を駆けるのは好きだった。体についた知らない誰かの匂いが消えていく気がして。
このまま冷たい川に落ちて体を洗うのだ。赤黒い血を、泥を、記憶を、流すように。




