知っている
「さて、君の名前をどうしようか。いや、その前に僕は言っておかないといけないことがあるんだ。すーすー寝てる君にね。僕は人間が苦しむのが大好きで、全人類みんなみんな、苦しみながら死ねばいいと思ってる。多分、これは憎んでいるって言ってもいいと思うんだ。だって想像するだけですごく楽しいから」
分からない分からない分からない、『僕』は何もわからない
「でも、それは全部与えられたもので、僕の人格、人間性? そういったものは何一つとして成熟しきっていないから、ずっと僕の中でわからないって騒いでる。楽しいことも、嬉しいことも全部知ってるんだけど、だからこそ僕は何一つとして知らないんだ。そこは君も同じだろうけど。まぁ、僕のほうが色々アレかもしれないね。どっちも先はないけれど」
分からない分からない分からない、『僕』は何もわからない
「ま、それは置いといて、『お父様』って結構お馬鹿さんだと僕、思うんだよねぇ。ほら、僕って『人間』じゃない? で、僕は『人間』が苦しむのが好きじゃない? その対象って僕も入ってるんだよね。だから僕が最も不幸にするのは僕自身で、最初に願いを叶える対象は僕自身にすべきだと思うんだ」
分からない分からない分からない、『僕』は何もわからない
「で、僕の願いは何かって言うと、やっぱり何かを残すことだと思うんだよね。次の次の次のためにってやつ? でも僕に残せるものって何もないんだ。だって僕の全部は『お父様』に返さないといけないから。となると、『お父様』のものじゃなくて、いらないものっていうと君ぐらいだと思うんだよね」
分からない分からない分からない、『僕』は何もわからない
「そうすると君を残すことになると思うんだけど、でも僕の願いの叶え方ってさ、必ず不幸に終わる形でないと行けないんだ。ほら、人間が苦しむのって楽しいし、そうしないといけないってなんか強く思っちゃうし。そうすると僕の嫌なことって何かなぁってなるんだけど、それはもう僕は苦しめたいくらい、人間嫌いだから、最高に嫌な結末ってさ。人間が増えることなんだよねぇ。楽しむ対象でもあるけれど多いとやっぱり不愉快だし、でも君の体はとても人間に似てるけど人間とはいい難いし、だから僕の体を君にあげようと思うんだ。あ、それじゃあ、増えてないよとか思うかもだけど、感覚的な問題だよね。自分自身より不快的な意味で。大本的には女性だったし、ちょうどいいと思うんだ。あ、君は女の子ね。今、僕が決めました。理由はなんとなくです」
分からない分からない分からない、『僕』は何もわからない
「で、そんな君に名前をあげようと思うんだけど~~」
分からない分からな──────
「……ねぇ、分からないわからない、ばっかり叫んでないでちょっとは自分で考えようよ。『僕』の事ながらうざったいんだ」
………
「何にもなしは、それはそれで嫌だなぁ。うん、まずは連想するものから始めよう。さて、『僕』はこの子から何を思う?」
…………しろ。
「うん、まんまだね。別に名前なんてなんでもいいけど、シロはなんか嫌だなぁ。具体的には将来的にすごく怒られそうな気がする。この子が怒るようになれるのかなんてわからないけど。もう一声ほしいね。赤ちゃんを無理やり海に放り投げて泳がせてるみたいで忍びないけど、こういうのは僕だとうまくできないから」
…………………ゆき?
「ゆき、雪かぁ。うん、いいね、悪くない。『雪』ちゃんか。うん、すごくいい気がしてきた。いいね、『雪』ちゃん。良いと思う。でもなんかイラッと来たのでこの娘は『真冬』と名付けよう。うん、そうしよう。そう決めた!」
……………。
「拗ねるなよぅ。だってさぁ、僕って人間が嫌いだから、素直に受け入れるのは僕の有り様に反すると思うんだ。『僕』自身もガッツリ範囲に入ってるし。だからまぁ、そういうことで。この娘は『真冬』に決定でーす。反論は受け付けません。残念でした~! アハハっ!」
………………………なら。
「ん、どうしたの? やっぱり人間の原動力って怒りとか負の感情だよねぇ。今、必死に何もわからないくせに考えてるんだもん。さあさあ、言ってご覧よ。言い返してご覧よぅ!」
隠し事はいけない。伝わらなくとも伝えるべきことを。
「……『僕』ってやっぱり性格悪いよね。我が事ながら人間性を疑うよ。でも、これを言われ続けるのは不快だ。僕が人間である『僕』になめられるのは我慢ならない。おもちゃに遊ばれるなんてあっちゃならないからね。だからたった一度の正直を。……ねぇ、後ちょっとで目を開くであろう『真冬』ちゃん。僕はねぇ」
分からない分からない分からない、『僕』は何もわからない。けれども一つだけ知っている。
「人間が大っ嫌いだから、人間でない『君』の幸せだけは願ってるんだ。だから幸せになるんだよ。……もちろん人間になった君のことは大大大ッキライだけど」
──────僕が向ける『真冬』に向けるその笑顔は『お母さん』が、最後にあれに向けたものにとてもとても、よく似てた。




