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サルノテ  作者: アリアリア
第一冊 『朝陽ちゃんの物語』
8/95

仲良し姉妹

 ワイワイガヤガヤチリンチリン、楽しそうな音楽とともに夢の国への門が現れる、入場料は4,236円、高いか安いかはアナタ次第、夢とお金で出来たアーチをくぐり幻想の世界が姿を現す、奇妙奇天烈な着ぐるみ達がくるくるくるくる戯けてる、着ぐるみの中には一体何が詰まっているんだろう。


 夢? 希望? それとも現実? どれであってもいいけれど、ファンの音はやめてほしいな、大きく膨れた着ぐるみの中には現実と空気が詰まってた。


「わぁ……ッ!」


 嬉しそうな私の妹、いつもだったらいつもどおりにぐるぐるぐるぐるグラウンド、一瞬で最高速、一瞬で追い抜いて、風を置いて景色を置いて、私を置き去りにしながら走っていく。


 距離も時間も何もかも私を置き去りにしていってしまう、追いかけて行っても追いつけない、だって私の足は遅いから私の体は重いから、鉛のように駆け抜けて泥のように崩れてく、それでも楽しそうに笑いましょう。だってそう、前に誰もいなければ私は風になれるんだから。


 練習をサボって私と仲良く遊園地、嬉しそうに目を輝かせる私の妹、そんな姿を見ていると私も思わず頬が緩んでしまうわ、ほんとうにほんとうに本当に。


「もう、そんなに嬉しいの? たかが遊園地じゃない」

「嬉しいに決まってるじゃない! お姉ちゃんと遊ぶなんて久しぶりだもん♪」


 ええ、本当に久し振りだね夕陽ちゃん、嬉しそうに私の腕に抱きついてくる妹に心の底から吐き捨てるような満面の笑みを向ける。


 思えばいつもそうだった、私がなにか始めたらいつも私の真似をして始めてしまう、そしてあっという間に追い越すんだ。私だって頑張っているのにいつも二番、いやいや私は二番目ですらない。お父さんもお母さんも妹が1番、私は選外! 決まって最後は夕陽ちゃんを見習ってお姉ちゃんも頑張りなさい? 聞き飽きたっつーの、ふざけんな。


 ああ、本当に妹ちゃんはすごいね、妹ちゃんはえらいね、妹ちゃんは天才だね。すごいすごい、おまけにこんな私にもまるで慕ってるように接してくれる、なんてあざといんでしょう、本当は私の事見下してるくせに、いつもいつも私なんてあっという間に追い越して、優越感に浸っているくせにッ!!


 なによ、何だよ、ふざけないでよ、何で私の邪魔ばっかりするの、放っておいてよ、貴方は何でもできるじゃない、なんで私の近くに来るの、もっともっと遠くへ行ってお願いだからお願いだから……。


「ならもっと、うんっと楽しもう! いつも練習ばかりで大変なんだからたまには羽根を伸ばさないとね、夕陽♪」

「うん、たまにはいいよね、お姉ちゃん♪」


 そう楽しんで楽しんで、もっともっと楽しんで誰より今を楽しんで、今より先がないかのようにずっとずっと楽しんで、私は優しいお姉ちゃん、優しい優しいお姉ちゃん。貴方が嬉しそうにすればするほど、これが最後だと思えるから、午後5時50分頃まで精一杯優しいお姉ちゃんでいてあげるから、だからだから楽しんで、私の可愛いかわいい夕陽ちゃん。


 午後1時17分、なんて長い待ち時間なんでしょう、もう1時間も並んでる、そろそろお腹が空いてきた、お昼ごろなら空いてるなんて嘘っぱちだ。待ち時間の間中、ここ数年、まともに話してなかった間にあった思い出話に花が咲く、双子だからかクラスはだいたい離されるから、聞いたことのない話もたくさんたくさん、それよりそれより私も妹も花も恥じらうお年ごろ、一番盛り上がるのは恋の話題だ。

 

 お調子者で人気者の斎藤くんは、つい最近振られたばかりの小鳥遊さんと付き合いだしたらしいとか、運動神経抜群の明日香先輩はずっと運動部に誘われてたのに、吹奏楽部なんて似合わないなぁと思っていたら卒業した後、すぐに結婚したらしい。


 何でも相手はバイオリニスト、吹奏楽部は少しでも彼に近づくためだったらしい。あまり縁がなかった先輩だったけど、こういう話を聞いてしまうと、キチンと話してみたかったなぁと思ってしまう。


 お互いのことは一切語らず、恋の話に花が咲き、待ち時間なんてあっという間、順番がくればシートベルト、がちゃんと締めてガタンゴトン。徐々に遠ざかる夢の国の音楽と、園内に香るキャラメル味の甘い甘いポップコーン。夢を背にして空を目指しガタンゴトン。


 空に届いたその瞬間、期待と興奮と絶望感、ワクワクしている妹とガクガクしている私の違い、大きくゴトンとなった瞬間、喜色満面戦々恐々、どちらが私かは御想像に任せます。


 一つ確かなことはそう、絶叫とつく乗り物にいいものなんてありはしない。

 さあさあ、回り続けよう楽しい楽しい夢の国を、まだまだ時間はあるんだから。

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