表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サルノテ  作者: アリアリア
第一冊 『朝陽ちゃんの物語』
6/95

日々の終わり


殺した殺した殺した、ボタン一つで簡単に、何度も何度も殺し尽くした。37度繰り返すうちに1つ気づいたことがある。

 ボタンを受け取ったその日に戻るのは、妹を殺して私が眠ったタイミング、つまり寝なければ元に戻ることはない。


 1度一週間程寝ないでみたけれど、時間稼ぎにしかならなかった。その一週間は地獄だった。お父さんとお母さんは、ただただひたすら嘆き続けて、私のことなんて蚊帳の外、何を言っても無視されて余計に妹が嫌いになった。


 どうして私と妹は違うんだろう、同じ時に産まれたのに、同じ人から産まれたのに、どうしてこんなに違うんだろう、世の中理不尽だ、許せない。

 ああ、そうだ、面白かったこともいくつかある、死に方のパターンだ。道端だとかなりの高確率で車に引かれて轢殺で、たまにに花瓶が落ちてくる。一度鉄パイプで喉を貫かれたりしていたけれど、あれはよっぽどのレアケースだろう、14回目だったかな? それ以降は見ていない。


意外にパターンが多いのがお風呂場だ。足を滑らせて頭を強く打って死亡、これはありきたりでつまらないと私は思う、どうやってこうなったのかわからないけど風呂場で溺死っていうのもあった、うちのお風呂はそこまで広くはないんだし、どうやって溺れたんだろう? お風呂場に石が窓を突き破り頭にあたって即死もあったっけ? お風呂場って意外にパターン多いね、こんな機会でもなかったら、ずっと知らなかったと思う。あと、日常生活の危険さだ、妹がなんとか片付いたらもうちょっと気をつけて生きようかなぁ……。


 トントントンと階段を登ってくる足音が聞こえる、そうそう、今はなんと新記録、もう一週間以上繰り返さずに続いてる。


「……お姉ちゃん、大丈夫?」


 コンコンと扉をためらうように叩いて、38度目の妹の声がする。どうして21回目で止まってくれなかったんだろう、綺麗な綺麗なその顔が真っ赤に潰れて二度と見ないですんだのに。近くにあった置き時計を全力で扉に投げつける、ガンという大きな音と、ガチャンと時計が壊れる音と、可愛く悲鳴を上げる妹の声、ああ、なんて愛らしいんでしょう、17回目の時はそう、ヒキガエルみたいな声だったのに。


「お姉ちゃん、もう一週間もずっと出てきてないよね、何かあったの? 私にできることだったら……」


 今度は机の上に置いてあるオルゴールを投げつける、先程よりも強く強く、力のかぎり全力で、扉はドンと、オルゴールはガチャンと、歯車とバネが飛び出して大きい歯車と小さい歯車、どちらも綺麗に歪んでバ~ラバラ、治すのは難しそうだなぁ、それでも簡単元通り。1つが欠けて、すべてが壊れる前に逆戻り、残るはボロボロで歪んだ、大きな大きな歯車1つだけ。


いつもそうだ、妹はいい子、私はワルイコ、お母さんもお父さんも、みんなみんな妹が好き、お姉ちゃんなんだからしっかりしなさい? 笑わせないでよ、たった数分だけじゃない。


 年上のお姉ちゃんならそれでよかった、きっと憧れられたから、年下ならまだマシだった、きっと自慢の妹だ、でも駄目だ、お前はダメだ。どうしてこんなに違うのに、同じに生まれちゃったんだろう、全く同じだったならきっとこんな風じゃなかったのに。


「……そっか、ねぇ、学校から帰ってきたら一緒にご飯食べようね? お姉ちゃん……。」


今度は何を投げようか、机に手を伸ばしていると、扉から妹が離れる気配がする、流石に学習したのかな、それなら良かった、もうこないで、私は貴方を見たくない。

 ああ、どうしてお父さんとお母さんは来てくれないの?


 布団の中に潜り込んで、暇をつぶすようにスイッチを押す、トントン、ガラガラ、ドスンと響く、なんだろう、妹くらいの何かがまるで階段から転げ落ちたような音だ。

繰り返しの中、二階で一番多いのは階段転げ落ち、皆もちゃんと気をつけようね、首って意外に折れるみたいだよ?


 よく知っているお母さんの悲鳴が響き渡る、もう何度も聞いて飽きちゃった、ここからのパターンはわかってる。

お父さんが救急車を呼んで三人で乗って出て行くんだ。私のことなんて歯牙にもかけず、まるでいないかのように。


 ピーポーピーポー、サイレンの音、慌ただしい車の音に開く玄関と叫び声、全部が無くなって走り去った後、静かな静かな家の中で、部屋にある小さな小さな私のテレビをつけてみた、流石にずっと引きこもってると暇すぎる、スマホも飽きたし、テレビを見よう。眠るまでの暇つぶし、妹が来なくて驚くだろうな陸上部、折角の日曜日わざわざ練習ご苦労さまです。


「それでは朝のニュースを……」


いつもどおりの決まり文句、さわやかな朝、さわやかな空気、窓からの木漏れ日は1日の始まりを感じさせてくれる、こんな気持のいい朝でも病院って大変だね、たくさんの病人と、可愛らしくてとっても綺麗な首の折れた女の子が運び込まれてくるんだもの。

淡々と流れるニュースに耳を傾けながら、うとうととまた始まりの朝を迎えようとして─────


「あは♪」


 新しい新しい可能性、終わらない繰り返しの夜の中、朝陽が昇る音が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ