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サルノテ  作者: アリアリア
第三冊 『みーこちゃんの物語』
54/95

『魔法使い』と願い

「みーこ?」

「うん、そうだよ、みーこちゃん。君に話しかけてるよ。どうしてここにいるのかな?」

「何で甘い匂いがするの?」

「……これはカツラの木だからね。金木犀だったリもするんだろうけど。あ、飴食べる?」

「わぁ!」


 何にもなかった手のひらをギュッと握ると緑色の飴さんが現れました。どうやらメロン味みたいです。なんで分かるのかと聞かれると、アメさんはもう私の口の中だからです。驚く私の開いた口に、アメさんを入れてくれたからです。でもでも、アメさんは一体どこから来たんだろう? まるで魔法みたいだと私は思って、こう聞きました。


「魔法使いさんですか!?」

「色々呼ばれてきたけれど、いい意味で魔法使いは初めてだなぁ。うん、僕は魔法使いのトラルって言うんだ。よろしくね」

「みーこはみーこっていうの、よろしくね!」

「で、みーこちゃんはどうしてここに?」

「ママを探しに来たの、ママ知らない?」

「う~ん、知らないなぁ。でも、合わせてあげることはできるよ。小さな小さなお姫様。君がそれを願うなら」

「みーこ、お姫様!?」

「……うん、みーこちゃんは、小さな小さなお姫様だよ。それで君は───」

「なら、トラルは王子様ね、とってもキラキラしてるもの!」

「王子様、王子様ねぇ……、それも言われたことがないなぁ。うん、ありがとう、お姫様」

「どういたしまして、王子様!」

「よし、この方向性で進めていくと進まないね。なら、こうしよう。アメ舐め終わった?」

「終わったよ!」

「それは良かった、それじゃあ、僕の手をじっと見て」


 開いた両手を私に見せてひらひらと、そこには何もありません。だから私は期待しました。開いた手のひらをギュッと握るとアメさんが飛び出してくるんじゃないかって!


「うん、期待通りにアメさんだ」

「わあぁ、トラルはすっごいね!」


 握りしめて開くとそこには、綺麗な綺麗な赤色アメさん、綺麗な綺麗な真っ白アメさんが現れました。それはとっても美味しそうで、トラルはすっごいすっごい魔法使いさんなんだって、私はやっぱり思いました!


「みーこちゃんは、アメさんが好き?」

「好き!」

「アメさん欲しい?」

「ほしいー」

「よし、ならアメさんを『望んだ』みーこちゃんの願いを僕が叶えて上げるね。はい、あ~ん」

「あ~~~~」


 大きく大きく口を開けて、私はアメさんを迎えます。そうだそうだ、もらった跡にはちゃんとありがとうって言わないと。優しくされたらありがとう。言葉にするのは大事なことだってママもそう言ってたもん。言われた方も言った方も幸せになれる魔法の言葉。だからトラルのありがとう。アメさんをくれてありがとう! 美味しいアメを期待して、奥地を開いた私の口に、白いアメさんが入ってきました。私のお口は爆発しました。


「~~~~~!?」

「あはは、びっくりした、ごめんね? ほら、無理しないで大丈夫だからべ~ってしていいよ?」


 お口の中がスースーヒリヒリ、ほんのり甘く感じるけれど、痛いほうがずっと上です。良い魔法使いさんだと思ったけれど、トラルは意地悪さんかも知れません! トラルの手のひらに吐き出して、それと同時にトラルは赤いアメさんを、私のお口に入れました。イヤーってしようと思ったけれど、今度は甘い甘いイチゴ味、お口は幸せになりました。それでも、お目々は痛みを忘れずに、トラルをジーっとにらみます。痛い痛いのは嫌いです。甘い甘いのは大好きです。


「ああ、本当にごめんね。そんな怖い顔をしないでほしいな、かわいいかわいいみーこちゃん。許してくれる?」

「……ごめんなさいしたから許したげる! あとあと、アメさんありがとう!」

「どういたしまして、許してくれてありがとう」


 トラルは嬉しそうに微笑むと、白いアメさんをギュッと握って消しちゃいました。ハッカ味はおいしくないよねぇって言ってたけれど、ハッカって一体なんだろう? 舐めてたら燃えちゃうのかな? わからないことをグルグル考えてると、トラルはパンっと手を叩いて、こう言いました。


「さて、ここからが本題です。僕はみーこちゃんをママに会わせてあげることが出来ます」

「ほんと!?」

「ほんとだよ。君が願ってくれるならどんな願いでも叶えてあげる。でもね、一つだけ注意点」


 トラルはお顔をギューっと近づけて内緒話をするみたいにそっと近づけて……。


「それは必ず望まない形で叶っちゃうんだ。君ならそうだな、甘い甘いケーキもアメさんもみんなみ~んな、白いアメさん味になっちゃうくらいに。望まない形で叶うんだ」

「……!!」

「小さな小さなお姫様。君はそれでもママに会いたい? 美味しい美味しい赤いアメさんが真っ白に変わってしまっても、君にとってそれと同じくらいの大変な何かが覆ったとしても、それでも君はママに会いたい、みーこちゃん?」


 アメさんがお口の中でカランと鳴って苺の香りが広がって、これが真っ白になったなら私はとっても悲しくて、お菓子もケーキも大好きで、それが無くなったら絶対嫌で、でもそれでも、どうしても────


「それでもママに会いたいよ?」

「ああ、そうだよね、そうだよねぇ。今ここに君の嘆きは確かに聞き届けた。安心して、小さな小さなお姫様。僕が必ずママに会わせてあげる。君がママに会うその時まで、僕は君の王子様だ。守ってあげる、助けてあげるよ、僕は嘘だけは吐かないんだ。ママを探すのにちょっと時間が掛かるから、それまで僕の屋敷にいると良いよ」


 トラルの笑顔を見ていると私も嬉しくなってきて、二人でニコニコ笑いました。トラルはそっと私の手を握り、私もトラルの手を握り返して、ニコニコニコニコ、ニッコリと。楽しくって楽しくって、ママに会えると思うと嬉しくって、だから私はトラルに会えて良かったと、心の底から思いました。屋敷の扉をくぐったその時から、扉をくぐったその後も。



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