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サルノテ  作者: アリアリア
第一冊 『朝陽ちゃんの物語』
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2度目のトラル



 妙に可愛らしいウサギと水ピンクの玉のパジャマをきて、ダンボールいっぱいの灰を抱えた少女がいた。何だこいつ?

 ああ、思い出した。昨日、赤いドレスを着てた少女だ。泣きそうな顔で呆然としているが、そんなことはどうでもいい!!


 こちらに気づいて何か言おうとした少女を無視して、突き進む、ああ、見えた、洋館に似つかわしくないあの引き戸だ!!

 乱暴に開け放ち、中に土足で入っていく!!


「あ、真冬、元気になったの? ちょっと手伝ってよ、くるみ割り人形で銀杏割ろうとしてるんだけどさ、中身まで潰れちゃうんだよ」


 力いっぱい背中のレバーを引きながら殻ごと銀杏を粉砕しているトラルがいた、潰れるに決まってるだろ、馬鹿じゃない!?


 いや、そんなことはどうでもいい、とにかく何でこんなことになっているのか聞き出さないと!! トラルは人形から目を離してこちらを見た、そして本当に本当に楽しそうに微笑んだ。


「あれ、思ったより早かったね、ダメだよこんな時間にこんなところにきちゃあ、ちゃんと学校に行かないとね。あ、それより制服かわいいね、僕にくれない?」


やっぱりこいつだ、こいつのせいだ!私のことを覚えてる!!


「どうして!!!」

「さあ、どうしてかなぁ♪ ま、でも良かったね、ちゃんと妹さんを殺せてさ、ちなみに運転手さんはちゃんと言ったとおり無傷だよ? 僕は嘘はつかないからね!」

「そんなことはどうでもいいのよ!!」

「えぇ……、運転手さんがかわいそう、生きててもこれから賠償金とかでいろいろ悲惨な目に会う予定だったのに!

 ま、今日はまだそうなっていないから、全然だいじょうぶなんだけど♪」


トラルは口に手を当てて悲しそうな顔をして、運転手の人生に情をかけた直後に聞き捨てのならないことを言った!


「やっぱり知ってるのね、妹は死んでないじゃない!! 嘘つき!!!」

「それは心外だなぁ、ちゃんと死んだじゃない妹さん、何度も言うけど僕は嘘はつかないんだ。それに、君は色々織り込み済みで僕に願ったんじゃないのかな?」


頭のなかで昨日のトラルの言葉が響く、「君が一番望まない形で願いは叶っちゃうんだけどね」ああ、確かにトラルはそう言った、噂通りだとも言った。でも!!


「これじゃあ、意味がないじゃない!!」

「そうかもね、でもちゃんと妹さんは死んだよ?ほら、僕は嘘はついてない♪」


ああ、そうだ、そうかもしれない、でもそれじゃあ何の意味もない、怒りのままスイッチを投げつけようとするが、しかし腕が動かない。


「あ、そういう所有権を放棄するのはダメだよ、それは君のものだ、使う使わないのは自由だけど、それを捨てるのはいただけない」

「────ッッ!」


 そうかそうか、こいつは本当にこうするつもりだったなら納得だ、妹を殺す手段があっても使えない、使っても何の意味もない、手段があるのにどうやっても目的を遂げられない、ああ、本当に私にとって最悪の形で願いが叶ってる。


 ならもうここに用はない、ここにいても意味は無い、さっさとこんな胸糞悪い所でてってやる!


「あ、そうそう、君に言っておかないと」


トラルは言う、スイッチを私に渡した時と同じ笑みだ、心底何かを楽しんでる。


「ほら僕ってやろうと思えば割と何でもできるんだけどさ、なんて言うか完璧っていうの嫌いなんだよね

 だから何でも遊び心を加えるんだ、それは僕のあげたものにもね♪」


 ニコニコニコニコ楽しそうに私が手にもつスイッチを人差し指でさしながら


「だから、もうちょっと頑張ってみると面白いんじゃないかなぁ? いや、無理にとは言わないけどさ♪」


「ほかにもスイッチに何かあるの……?」

「それを言ったらつまらないじゃない♪」

「それが私を笑うための嘘じゃないって保証は?」

「それなら、さっきから何度も言ってるじゃない。『僕は嘘はつかない』って、だから僕を信じてよ♪」


 小馬鹿にしてるような口調でトラルは紡ぐ、こいつは今の私を見て楽しんでいる、こいつのことは信用出来ない。でも、元より降って湧いた幸運だ。

 殺す手段は手元にある、こいつの言う遊び心なんてないかもしれない、でもあるかもしれないのなら。


「……分かった、色々ためしてみるわ。」

「うん、それがいい、それがいいよ! 『千里の道も一歩から』地道に進めばきっと幸運が降ってくる!ま、おしつぶされちゃうかもしれないけどさ!」


 楽しそうなトラルに背を向け洋館を後にする、とにかくとにかく試してみよう、殺す手段も時間もいくらでもあるんだから!!











「……あの人、誰なんですか?」

「ああ、真冬は覚えてないよねぇ、ま、気にしないでいいよ、いつものお客さんさ、てかいつまでパジャマ着てるの? 可愛らしいとは思うけど」

「ならどうして私の服を燃やしたんですか……!」

「え、なんとなく、気まぐれに? ま、いいじゃない、真冬は何を着ても何をしてても可愛いからさ!」

「それもどうせ嘘なんでしょう?」

「さすが真冬だ、鋭いね! 僕は真冬のそういうところが大好きだよ♪ 正解のご褒美に赤いドレスを真冬にあげよう、昨日もそうしてあげたからね」

「……昨日はドレスなんてもらってませんけど」

「うん、そうだね、でもこれは君の知らない昨日の話なんだ♪」

「…………?」


 トラルは言いたいことは言ったとばかりにいつもの書斎のいつもの椅子で、いつもの天井を見上げながら



「さぁて、彼女の昨日は一体どんな終りを迎えるのかな? ま、全部僕は知ってるんだけど♪」



 嬉しそうに嬉しそうに遠足の前の子供のように、意味のわからないことをつぶやいた。

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