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サルノテ  作者: アリアリア
第二冊 『晴明くんの物語』 二節
49/95

悪魔か天使


「さて、これで君の願いは白紙になった。おめでとう、君は目的を達成したよ」

「……本当か?」

「本当だよ、僕が君が言っていることは正しいと認めたんだ。最初から願いが叶っていなかったなら起こった全ては間違いだ。榛名ちゃんだけじゃない。起こった出来事の何もかも。屋敷を出てからのすべて『白紙』にしてあげる。いや、もうしてあげたんだった。炎と一緒に燃え尽きてる。これで終わり、これでおしまい。『君の榛名ちゃんに愛されたい』って願いは影も形もなくなった」

「たったこれだけで……?」

「拍子抜けするほど単純でしょ? 今頃海斗くんと榛名ちゃんは、え~と君と別れた後だから二人で仲良く帰ってるんじゃないかなぁ。明日一緒に学校に行く約束でもしながらさ。良かったね、晴明くん。君の勇気と真実がこの結果を勝ち取ったんだ、誇っていいよ」


 パチパチパチパチ、手を叩くトラルの声色はまるで祝福するかのように。その表情は満面の笑みで……、それが何より恐ろしかった。全部が終わったはずなのに、今この時が何より俺は恐ろしかった。


「だからぁ、ここからは榛名ちゃんと海斗くんは関係ない、君だけの問題で君だけの事実だよ。さあ、晴明くん。君の願いを叶えてあげる。安心して、僕は決して嘘はつかないから。望まない形ではあるけれど、必ず君の願いを叶えてあげるから。今回は失敗しちゃって君に迷惑をかけたけど、今度こそ! ちゃんとちゃ~んと、君の願いを叶えてあげる!」


 絶えた言葉は絞り出せず、トラルが何を言っているのか理解できない。榛名を助けた、榛名を救った。俺のせいだったとしても。これで海斗にだってまっすぐ目を合わせられる。やっと全部終わったと、そう思っていたのに、なんで……。


「うんうん、よく分かるよ、君の気持ち。覗かなくてもよく分かる。君は全力を尽くしたね。君は持てる全てを使い切った。自分を騙して奮い立ち、自分を信じて踏み出した。僕と対峙し、僕すら認め、お姫様を救い出した。すごいすごいよ、本当に。僕は心から君を尊敬するよ。でも、だからこそ、それでもう終わり。『理想』も『真実』も無くなって君には『僕に願った』という『事実』だけが残った。さあ、後ろを振り向かないで、未来を見つめて踏み出そう。共に先へ進もうじゃないか! 君の新しい『現実』を創りだそう! 僕は信じてる。どんなに望まない形で願いがかなっても、君ならきっと幸せになれるって信じてる!」


 逃さないと、逃げられないと、トラルは俺を追い詰める。どうしてこいつは笑ってるんだ? どうしてこいつはこんなに楽しそうに笑うんだ……。折れた心を踏みつけて、必死に思考を回し回し、答えを導き出そうと頑張っても、何も浮かび上がってくる気がしない。


「なんでも願ってくれて構わないよ。お金持ちにだってしてあげるし、死者蘇生だってお手の物! どんな願いだって思いのままさ。もちろん、本当に心苦しいことだけど、本当に申し訳ないことだけど、『こんなの俺の願いじゃない』って否定してくれてもいいんだよ? 何度でも何度でも何度だって君の願いを叶えてあげる! 君の願いが叶うまで、君が諦めないかぎり!」


 ケラケラケラケラ、笑うトラルに俺の心は削られて、視界は歪み、足元すらもおぼつかない。否定すらも肯定されて、返す言葉も浮かばなくて、何度も何度も繰り返す? 俺にはそんな根性はなくて、俺はやっぱり弱くって、俺には何にもできなくて、だからだからだからだから……。


「だから貴方が大っ嫌いなんですよ」


 救いかどうかはわからない、扉が開き悪魔のように冷たくて、天使のような声が響いた。


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