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サルノテ  作者: アリアリア
第二冊 『晴明くんの物語』 二節
35/95

考え中?



「やっっと、二人っきりになれたね、晴明! さあ、学校へ行きましょう!」

「……そ、そうだね」


 輝かんばかりの笑顔でまっすぐに榛名は俺を見つめてくる。ありえない笑顔、ありえない仕草、全てはたしかに榛名のもので、だからこそ、榛名のものではありえない。


ああ、今すぐあの屋敷へ向かいたい、トラルと言ったか、あの男。一体何が起こったのか絶対に問い詰めてやる、そして、そして……。いや、今はまず榛名だ、このままの彼女をほうっておくと何をするかわからない。それに海斗とも一度は話す必要があるだろう、俺以上に海斗は混乱しているはずだ。


 ……ええい、腕を絡めるな! 腕に擦り寄るな、しがみつくな、幸せそうな顔をするな、やめろやめろやめてくれ、そんな顔で俺を見るな、榛名じゃない榛名の笑顔で俺を見るなっ! 愛して欲しい、愛されたくない、そばに居て欲しい、そばに寄るな。笑顔を見せるな、見せてくれ。


俺を愛してくれない榛名、俺を愛してくれるそんな榛名、認めない認めない、俺はどちらも認めない、なら……。どちらが『俺の榛名』なんだろう?


 俺の考えを止めるように、俺の考えを打ち破るように、榛名が俺の手の引いて歩き出す。朝日に照らされるその笑顔は、夜空を消し飛ばす朝焼けのように澄み切っていて、何故だろう、屋敷のあの男を思い出させた。





 道中半ば半死半生、濁った瞳で手を引かれるままに進んでいく。呪詛のごとく普段の俺を心がけるように念じていなければ、俺の築きあげたイメージは砂塵を舞う砂粒のように、崩壊していたことだろう。


いや、手を握られるのは決して不快ではないんだ。手のひらは暖かく柔らかく、ふつふつと火種のように胸に燻ぶる。先を行く榛名からほんのりと、甘い甘い藤の花のような香りが、更に心をかき乱し、直視した現実を忘れそうなほどに心地よく、しかし彼女の笑顔が俺の心を引き戻す。


「じゃ、放課後ね!」


 校門で手を離し、数歩先へ歩みだし、クルッと振り返るその姿。変わらない変わらない、いつもの榛名、愛しい愛しい俺の榛名、俺を大好きな俺だけの榛名、肯定と否定はないまぜに、断定と確定は保留中、どうしてだろうらしくない、俺は完璧で俺は絶対で、誰もが憧れるようなそんなやつでなければならない。なのに、なのに、即断即決が何故出来ない? 


小走り出かけていくそんな榛名を見つめながら、完璧である俺らしくない、そんな思考に囚われる、俺が何より恨めしい。


 歩く歩く、校門を抜け、下駄箱へ、靴を履き替え教室へ。思考に思考に思考を重ねながら、ただただ歩き進んでいく。


 ああ、くそッ、気分が悪い、考えがまったくもってまとまらんッ! よし、一旦この問題は棚上げだ、今の俺に答えの出ない問答に時間を費やしても無意味だ。思考を切り替えよう、そうしよう。これは決して『逃げ』ではない。問題には優先順位というものがあるのだ。俺の内面の問題ならば後でどうとでもなるだろう。

 今大事なのは───。


 ブルっと、開いた鞄の口の中、ケータイがチカチカ光を撒き散らし、俺に存在を主張する。ああ、あまりに事態に電源をき切るのを忘れていた。ああ、本当に本当に俺らしくない事この上ない。電源を切る前に文面をちらっと確認すると、短く短くこうあった。


『昼、屋上で』


 簡素で完結でわかりやすい、俺の親友からのお誘いだ。

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