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サルノテ  作者: アリアリア
第二冊 『晴明くんの物語』 二節
34/95

以心伝心

「「は……?」」


 俺と海斗、唖然呆然と口を開き、目の前の現実を二人揃って認識できない。榛名は俺の腕にしがみつき、俺と海斗は目を合わせる。お互いに困惑と混乱に包まれた視線を交わす。そんな目で見るな、俺も理解できていないんだ。お前こそ何かわからないのか。それがわかるならこんな視線は送らない。


グズでノロマな俺の親友、数瞬のうちに『理解不能』を伝え合い、榛名の異常を『理解』する。すると海斗の視線に含まれた困惑と混乱は霧散して、榛名と俺を心配するような、そんな色を帯び始める。

 

ああ、たったこれだけで察してくれるのは本当に助かった。有象無象の糞とは違う。俺のたった一人の親友よ。今ここでのお前の対応は『親友』としては完璧だ……。だが、だがだ! そういう問題では無いだろう、何かあった、俺も困惑していると、それを察するのはよくやった。しかし、それでも俺に怒りをぶつけるべきだろう! 


お前は俺の榛名、俺のたんぽぽの恋人になったのだろう? いや、認めんぞ? 断じて認めんがなったのだろう? ならば怒りを見せるべきだ、表向きはどれだけ冷静に偽ろうとも、心のなかで怒りを抱くべきだろう! なのに俺を信用しきってる。ああ、まったくもって腹立たしい。俺が何かを弄してこの状況を作ったと、そんなことはほんのわずかも考えていない。


 できるわけがないと思うのは当然であるが、だが、それでももっと疑うべきだろう、もっと怒りを見せるべきだろう。惚れた女が、別の男を好きだと言って抱きついている、この状況に怒りを持って接するべきだろうにッ! 


 ああ、まったくもって度し難い、だからお前はグズでノロマで大馬鹿者なんだ、いつまでたっても! ああ、俺のたった一人の親友よ、お前のそういうところが俺は本当に嫌いだよ。


「海斗」

「ああ、わかった。また後で」


 そう言って海斗はほんの一瞬、榛名を見つめ歩き去る。じっと榛名は不快そうに海斗の姿が見えなくなるまで見つめている。ああ、何てらしくないんだろう。俺の榛名にそんな顔は似合わない、いつものようにたんぽぽの笑顔を俺に見せて欲しい。しかし、振り向く榛名の笑顔はひまわりで、どこまでもどこまでも一面、ひまわり畑のような笑顔で、こう言った。


「もう、せっかく晴明と二人っきりだったのに、海斗ったら本当に空気を読んでくれないかなぁ? ねぇ、晴明もそう思うでしょ?」

「……いつも一緒にだったんだし、別にいいんじゃないかな?」

「ええ、そんなのダメよ! 好きな人とは二人の時間が一番だもの、他の人なんていらないの! 晴明がいればそれで幸せなんだから!」


 笑顔から一転驚愕へ、感情の起伏が激しい、いつもの様に穏やかな俺の榛名はどこへやら、海斗のおかげで大分冷静さを取り戻せた。客観的に客観的に、一体榛名に何があった? 昨日の今日でこの変化は明らかにおかしいだろう、何が何が何が……。


 あ……! いや、まさか、あれか? あの屋敷か!? いやいや、いくらなんでもそんなバカな……。しかし、この状況は十分ありえない。榛名は海斗にあんなことは言わないし、榛名は海斗を好きなんだ。なら、俺を好きだというなんてありえない。二人が恋人なんぞ認めんが、俺の榛名が簡単に、心変わりするなどありえない。


 ……どうする、このまま屋敷に向かうか? しがみついている榛名が邪魔だが、振り払って走り去れば、追いつくことは出来ないだろう。認めたくはないし、正直あり得んと思うが、心当たりはそこしかない、ならば一刻も早く動くべきではないか? 


 そう考え行動に移そうと、覚悟を決めたその瞬間、榛名が俺に抱きついた。

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