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サルノテ  作者: アリアリア
第二冊 『晴明くんの物語』 二節
32/95

違う日常




「おはよう、晴明」

「──────ッ!?」


 何故、どうして? いや、そんなことはどうでもいい! 動揺するな、狼狽えるな、そんな俺は完璧じゃない、たとえ心臓が早鐘の如く鳴り響こうとも、それを表に出すなぞ美しくないッ! 騙せ、取り繕え、完璧に完璧に、何においても何もかも、自分すら騙して演じきれッ!!


「……おはよう、榛名」


 っしゃ、おらぁッ!! やった、やったぞ、やりきったぞ、いつものように完璧だッ! 口角を僅かに上げて、それからゆっくりと瞳を緩ませ、心の底から微笑ましい、そんな『何か』を見つけたように、そんな笑顔をやりきった!


 ああ、しかし変わらず榛名の笑顔は暖かい。状況が一切合切理解できんが、ベットの縁に手を重ね、その上に頭をコテンと載せて微笑むそんな姿が愛らしい。だが、素晴らしいと思う反面、それがより一層今の異常さを際立たせる。昨日の今日で何故榛名がここにいる?


 海斗のところなら理解できる、むしろ自然だ、認めんが。それに、俺のところに来る理由がわからない。しかも、俺の部屋にまで入ってきているのがなおのこと、意図不明で理解不能だ。いや、来てくれたこと、ここにいることには特に不満はない、むしろ喜ばしい事態だ。


 朝から間近で榛名の顔を、声を聞けたことは素直に嬉し……いや違う、嬉しいわけじゃない、いて当たり前なんだ。俺が完璧であるために、そのためにもっとも重要なのは榛名なんだから。どこにでも居るような普通の女、完璧な俺と違って不完全な女の子、俺を際立たせてくれる女の子、蒲公英のように素朴で暖かい女の子。


だから、この状況がわからない、どうして君は俺の側なんかに居るんだ? 君が好きなのは海斗だろうに、俺は絶対認めんが。


「……ああ、どうしてここにいるんだ?」

「え?」


 とにかくだ、状況把握が第一だ、完璧さとは状況によって変わるのだ、その場にあった態度振る舞いが出来なければ、それは完璧ではありえない。俺は完璧でなければならない、俺は完璧でいたいんだ。


 夢物語で出てくる白馬の王子さまのように、俺は完璧でいたいんだ、それが何より大事だから。上半身をとにかく起こし、榛名をまっすぐ見つめながら俺は彼女に問いかけた。


「そんなの決まってるじゃない、大大だ~~っい好きな晴明を起こしに来たんだよ!」


 そう言ってたんぽぽ、というよりはひまわりのような笑顔と共に榛名が俺に抱きついてきた、心臓がドクンと跳ね、血流が加速し、思考が摩耗する。異常事態とする認識がより一層強化され、しかしそれを、理性が棄却し、焼却する。渦巻く『ありえない』を否定するそんな何かがうちより沸き立ち流れだす。だからこそ────。


「は、榛名、えと、その、なんだ、あまり抱きついたりは良くないよ?」


 それを俺は完膚なきまでに否定しよう。認めちゃいけない認めない。ここで流される俺は完璧じゃない、意味不明なこの状況で流されるのは俺じゃない。


「え~~、晴明は嬉しくないの?」

「いや、嬉しいとか嬉しくないとかそういう問題じゃ……」

「そういう問題ですぅ~……。うん、でも晴明のそういうところも大好き、かな?」

「あ、えっと、ありがとう?」

「ふふ、ありがとうって! うん、晴明らしくていいね、じゃ私、下で伯母さんと待ってるから早く着替えてきなよ~?」

「あ、ああ」


 そう言って榛名はとっとっと、と小走りに扉を開いて俺の部屋を後にする。ドクンドクンと鳴り響く心臓を深呼吸で沈めながら、考えをめぐらし、理解できないと結論付ける。わからない、分からないがとにかく学校へ行く準備をしよう。


 異常な時こそ、普段と同じ行動を、普段と変わらず行えなければそれは完璧ではないのだから。決意を新たに制服を書けたハンガーを手に取り、それと同時、バンっと、扉が開け放たれる。


「晴明、良かったら私が着替えるの手伝ってあげようか! シャツのボタンを一つずつ、ネクタイだって止めてあげる、まるで新婚さんみたいに!」

「い、いや、いいよ……」

「え~~……、晴明のいじわるッ!」


 捨て台詞のようにそう言って、榛名は再び出て行った。とにかくどうした、なんだこれは、一週回って気持ち悪いぞ、夢ならどうか覚めてくれ、半分くらいはこのままで。




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