表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サルノテ  作者: アリアリア
第二冊 『晴明くんの物語』 二節
31/95

いつもの一日?

 ジリリリリと、目覚ましが鳴り響く。もう朝か、まったくもって煩わしい。ああ、昨日はろくなことがなかった。海斗と榛名が付き合うだと? 確かに海斗はグズでノロマだが誠実な男だ、いいやつだ。しかし、俺より上はありえない!


 頭脳もルックスも将来性も間違いなく俺のほうが上なんだ。ならば俺に惚れるのが普通だろう。これほど完璧な男がいるんだ。なのにどうして海斗何なんだ。あり得ないありえない、そんなことはありえない。しかし何の間違いか万に一つの間違いか、億に一つの間違いか、海斗と榛名が付き合ってしまった。ああ、まったくもって度し難い、一体どうして不条理がすぎる!!


 榛名が告白したということは、海斗という人柄を心に刻み込み、海斗という人間とともに歩む未来を思い描き、共に進みたいと思ったんだろう。俺のたんぽぽはそこらの尻軽とはわけが違う、清廉潔白とは言わない。そんなものは美しくない、俺の隣には必要ない。


 榛名は陽だまりだ、温かいんだ。そばにいるだけで落ち着くんだ。頭脳明晰な『俺』を見てるんじゃない、ルックスがいい『俺』だけを見てるんじゃない。完璧な『俺』だけを見てるんじゃない。たった一人の『俺』を確かに見てくれてるんだ。そんな俺の隣に立つにふさわしい、そんな素晴らしい女性なんだ。


 海斗もそうだ、男の中ではあいつだけだ、できるわけがないありえない、それでも俺の隣に立とうとする、俺の友であろうとする気概のある、グズでノロマだが気概のある、そんな男だ。他の奴らのようにへりくだるわけでもなく、くだらん嫉妬に身を焦がすわけでもなく、己を高めて俺の隣に立とうとする俺のたった一人の親友だ。ああ、腹立たしい腹立たしい。


 何故よりにもよってこの二人なんだッ! 榛名が他の奴らと付き合うのなら、俺は絶対に認めない。世の中の大半のやつはろくでなしだ。クソどもだ。俺の演じきった完璧さしか見ない、気づけないゴミどもだ。それなら榛名は騙されているだけだろう。優しい榛名だ、温かい榛名だ、ひだまりのような、そんな榛名だ。騙されるのも仕方ない、ああ、許そう。

 ……相手は絶対に許さんが。


 しかししかしだ、海斗が相手では勝手が違う。あいつはいいやつだ。俺の足元にも及ばないほど非才な身だが、それでも前に進もうとする大したやつだ。大多数の正真正銘のクズどもとは違う、俺の親友足りえる男だ。ああ、見つからない見つからない、あの二人が別れる未来が見つからない。あの二人を祝福するべきだと騙る理性が羨ましい、今まで完膚なきまでに有象無象を騙しきった俺の優秀な頭脳より導き出される結論こそが何より恨めしい。


 ジリリリリと、二度目の目覚ましが響き渡る、ああ、くそッ、起きればいいんだろう起きれば!! いつものように髪を整え、制服に着替え、階段を降りて、朝の挨拶を爽やかに。家族全員に俺が理想の息子であるとそう思われる、思ってくれるように振る舞おう、俺は完璧なんだから!!


そうしていつもどおりのいつもの朝を、演じきろうと目を開いて、わずか鼻先数センチ、愛しいたんぽぽの笑顔があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ