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サルノテ  作者: アリアリア
第一冊 『朝陽ちゃんの物語』
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叶った願い


夕暮れを過ぎて沈みゆく太陽を背にオモチャみたいなスイッチをいじりながら私は進む、目指す場所は妹の通う学校だ。

帰宅部の私と違って陸上部で県大会出場確実な妹様は、きっと今も練習に練習を重ねているだろう、ああ、すごいすごい、本当に。


 この上学校の成績も模試で常に上位で輝いてる。顔も私なんかよりずっとずっとずっといい!!

 そりゃあ、お父さんもお母さんも可愛いだろうね、どこにでもいるような十把一絡げ、凡用で凡俗で何かで優れているわけもなく、

妹に比べれば劣ってるところしかないような私より!!


 ムカつくムカつくムカつくムカつく、何であんたが私の妹なんだろう、全く関係ない誰かの家か、どこかで一人っ子で生まれればよかったのに。

 せめてあんたがお姉ちゃんだったらよかったのに、何でたった数分だけ、私が先にまれたんだろう、1年でも二年でも十年でも私が後に生まれればよかったのに。


 心のなかはどす黒く、ぐるぐるぐるぐる渦を巻く、あんな胡散臭い噂話、頼った私を見たら妹は、きっと馬鹿にするんだろうな。

 でも騙されたって構わない、どうせダメでもともとだ。お金を払ったわけでもないし、何も起こらないのなら、心のなかで私だけの笑い話にすればいい。


 ああ、見つけた、聞き覚えのある笑い声、仲良く仲良く、私のよく知るクラスメイトと帰る妹、どうしてこんなに似てないんだろう?

 ずっとずっと可愛くて、ずっとずっと頭が良くて、ずっとずっと愛されて、お父さんもお母さんもいつもいつも、妹を見習いなさいって、できるならとっくの昔にやってるよ、出来ないんだから仕方ないよね、出来ないんだからしょうがないよね、私は馬鹿で根暗でボンクラだから、だからだから仕方ないよね、だからだからいなくなってよ、お願いだから!!!


 心のなかの黒い渦、ぐるぐるぐるぐる、流れるままに私は手にしたボタンを押した。




 何も何も変わらない、クラスメイトと仲良く楽しく、何て楽しそうな妹なんだろう、ボタンを押しても何も変わりはしなかった。

くだらない、やっぱり私は騙されたみたいだ、もとより期待なんてしていなかった、早く帰ってご飯を食べて眠って、いつもと変わらない妹だらけの日々に戻ろう。


 そうして私は楽しそうな妹とクラスメイトに背を向けて、ドンと何かがぶつかる音と、グシャッと何かが潰れる音と、クラスメイトの悲鳴を聞いた。

 何も私は期待しないよ、何も私は思ってないわ。だからちょっと覗くだけ、元いた場所に私は戻り、そっとそっと曲がり角から顔を出す。


赤い赤い血だまりと、グシャッと潰れた車が一台、呆然とへたり込んでいるクラスメイト、あれあれ、不思議な事が一つだけ。


さっきまでいた妹は一体どこに行ったのでしょう? 一体どうなったのでしょう?


「アハ♪」


 走りだす走りだす、私は全力で走りだす、真っ直ぐ私の、私だけの家に走りだす、お父さんとお母さんと私だけの家に走りだす、ああ、何だか体がとっても軽い。今なら妹にだって負けないぐらい、私は早く走れてる!


 あっという間に家についた、私は一人だ、私は速い、ここにいるのは私だけ、玄関を開け大きく大きく。


「ただいま、お母さん♪」

「あれ、おかえりなさい、元気がいいわね、いいことでもあったの?」


「ううん、なんにもないよ!」

「そう? もう少しでご飯もできるから部屋で勉強してなさい、夕陽ゆうひちゃんを見習ってね」

「は~~い」


 なんということでしょう、あれだけ嫌だった妹の名前を聞いても全然嫌じゃありません。むしろ心はワクワク、体はウキウキ、とってもとても幸せです。

靴を脱いで、お母さんに言われたように、階段を駆け上がって私の部屋に駆け込んだ。


 ボタンは机に放り投げて、靴下を脱いで、スカートも脱いで、制服も脱ぎ散らかして、ベットにダイブ!

子供の頃からずっと一緒にいる大きな双子クマのヘンゼルをギュッとギュッと抱きしめて足をバタバタさせながら、


「私は今、幸せです!」


 世界に向けて宣言する、比べられる相手はいなくて、やっと私は普通になれた、私は私で妹じゃない、私は私だけのものだ!!

安心して力が抜けて、ほっとすると今までずっとずっと貯まってた体の中の黒い渦がすっと抜けていって、柔らかいベットとクマのヘンゼルが私をそっと包み込む。

 柔らかくて、暖かくて私のまぶたは重くなって、そのまますぅっと暗闇に堕ちた。



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