私は榛名
ほんの些細なほんの僅かな、傍から見れば他愛ない言葉であったとしても、すべてを変えることがある。心は複雑で単純で簡単に何もかもが塗り替わる、良い方にも悪い方にも、私のこの変化はどうなんだろう? 悪い変化なんだろうか、それとも良い変化なんだろうか? それはきっと神様だってわからないのかもしれない。
私の心は私のもので私の想いは私のもので、誰にも触れられないものなのに、心は不思議だ、想いは不思議だ、たった一言で変わってしまうことがある、たったひとつの出来事で塗り替えられてしまうことがある。だから私はこう思う、自分ができる精一杯で今の私に従って、正しいと、間違っていないと思うこの変化を大事にしていこうって。
「ねぇ、榛名って晴明くんと付き合ってるの?」
「そんなわけないじゃない、美人有名な四条先輩を降るようなやつよ? 私と付き合ってるわけ無いじゃん」
「でも……」
「でも、じゃない。ありえない、ありえないって」
そういってひらひら手を降って中学から五万と聞かれた質問に五万と答えたとおりに返す。私はこれからの人生で後何回、このやりとりをするんだろうか、いい加減、晴明は彼女の一つでも作ってくれないだろうか、中学からずっとずっと「晴明くんは彼女いるの?」、「晴明くんと付き合ってるの?」と聞かれ続ける私の身にもなって欲しい。
確かに私と晴明は仲がいいし幼なじみだ、親友と言っても良い。私の人生において最も大切な友人の一人だとそう思う。だが皆忘れていないだろうか、私たちはいつも三人でいることを。
まぁ、晴明はとにかくとことこ目立っているし、海斗はある意味正反対だ。印象が薄いのも仕方がない、それでも私にとって二人に違いなんてありはしない、どちらも大切な幼なじみで親友だ。いつかそれぞれ別々の道に進んだとしても、それだけはずっと変わらない。私の大好きで大切な親友達だ。
だからこう、海斗がスルーされるとモヤモヤする、海斗だっていいところはいっぱいあるのだ、なのにみんなみ~んな、晴明晴明。もっとしっかり目を配って欲しい、空に輝く星は眩いけれど、貴方の踏みしめるこの星だって何より美しいものだということを。
「じゃ、私行くね、晴明に告白するんなら手伝ってもいいよ?」
「う~~、私じゃ無理に決まってるじゃん!!」
そう言っていやいやとする友人を可愛いなと思いながら図書室を目指す、結構いい線いけると思うんだけどなぁ、晴明の趣味が私もよくわからないから断言はできないんだけれど、あいつ聞いてもすぐにはぐらかすからなぁ、あこがれの人でもいるんだろうか、年上のお姉さんとかだったら個人的には大好物です、あこがれの人に振り向いてもらうためにふさわしい人になれるよう頑張るとかそういう設定は大好きです。なんかこう、キャーってなっちゃいます。
そうこうしているうちに図書室へ、ここに来るのはいつものことだ。晴明が生徒会で遅くなる日はいつもここで時間をつぶす。なぜなら大切な大切な私の親友の片割れがいつもいつもそこにいるからだ。
「はぁ、海斗、それ楽しい?」
「うん、楽しいよ」
そう言って夕暮れ時にオレンジ色に染まる図書室でブッカー張りをペタペタと坦々と、本当に楽しそうにやっていた、いや、楽しいんなら良いんだけどね、でも健全な高校生男子が本にビニールを貼る作業をワクワクしながら行っているのはどうなんだろうか? それで良いのか青少年……。と、私は個人的には思いますが、楽しそうな海斗を見ていると悪くないのかなと考える。
思えば昔から海斗はこうだった、とにかく本が好きなんだ、きっと海斗のお母さんの影響だろうなぁ、よく私たちに本を読み聞かせてくれた、海斗と私はワクワクしながら聞いてたっけ、晴明もあのころは今みたいな感じじゃなくて、もっとワガママで落ち着きのない子だったけど、それでもその時はじいっと座って続きを早くとせがんでた。懐かしい懐かしい思い出だ。